第158話 格納庫前の攻防
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
キン!キン!と、格納庫前広場に、激しい火花が散る。
キドロ用近接格闘用武器、まる日本刀のようなROGAと、ヒトガタが右の逆手で持つ懐剣がぶつかり合う。
夕梨花のキドロ01とスーツ男のヒトガタは、一進一退の攻防を繰り広げていた。
一方が攻撃に出るともう一方がそれを防ぐ。そして次はその逆のターンとなる。その繰り返しが、ものすごいスピードで行なわれているのだ。
どちらが有利とも言えない、まさに互角の戦いであった。
そんな状況に、陸奥と南郷は手を出せずにいた。戦闘にいきなり参入してこのリズムが崩れると、どちらに被害が出るのかが想像できない。こうなると遠巻きに見守るしか無い状況と言えた。
「ほう。機動隊にここまでの方がいらっしゃるとは、知りませんでした」
ギリギリの戦闘のさ中だと言うのに、スーツ男の声は妙に落ち着いている。
「お前もな!」
夕梨花の声は激烈である。
「お前とは失敬な。アヴァターラと呼んでいただきたい」
「アヴァターラ?」
「あなたはアラビアータとは言わないのですね」
ワイプの男が、おかしそうにフフフと笑った。
「なんだそれは?こんな時に冗談か?!」
「いえね、あなたのお仲間のゴッドさんが、私のことをそう呼ぶのですよ。どうやらあの方の頭では、なかなか覚えられないようでして」
スーツ男が、小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「ところであなたは?」
「警視庁機動隊ロボット部チーフパイロット、泉崎夕梨花警部だ!」
「ああ、なるほど。あなたがそうなのですね。道理で素晴らしい戦いになるはずだ。おウワサはかねがね伺っております」
ふむふむとうなづくスーツ男。
やはり、この組織の情報網はあなどれない。
いったいどれぐらい、警察内部に入り込んでいるのか?
「ではそろそろ閑話休題、再び参りましょうか」
そう言うと同時に男は懐剣をキドロの脇腹から肩にかけて、逆袈裟斬りで振り上げた。
飛びのいてその刃を間一髪よける夕梨花。
それに合わせるように、短いジャンプで夕梨花を追ってくるヒトガタ。
しかし、この不思議な動きは何だ?
ロボットの戦闘では見たことのない動きに、夕梨花が首をかしげる。定番のロボット格闘術でもなく、喧嘩殺法というわけでもない。だが、夕梨花にとってどこか既視感を覚える身のさばき方だった。
「これって、忍者か?!」
そのひらめきで全ての説明がつく。筋肉をあまり使わない無駄のない動き。懐剣を逆手に持つその構え。なにより、大型ロボットとは思えない素早い身のこなしの全てがそれを物語っていた。
「お気づきになられましたか」
スーツ男はどこか嬉しそうだ。
細おもてのスッキリした顔に、ニヤニヤとした笑顔が浮かんでいる。
「マトハルはその昔、忍者の隠れ里だったのです」
その時、夕梨花のコクピットに白谷からの無線が入電した。
「みんな、時間がない!今すぐに決着が着かないなら、とりあえず目の前の格納庫に飛び込むんだ!」
「部長、それはどういう?」
「間もなく、センドラルがそこを直撃する!」
そのやりとりは、ここにいる全員に届いていた。
沢村機と門脇機は、それぞれが倒したアイアンゴーレムを、搭乗者を乗せたまま格納庫へと引きずって行く。さっさとこの場を離れようとしていた後藤も、仕方ないと首をすくめると、浦尾機を引きずって動き出した。
「邪魔が入りましたね」
「ちっ!」
「どうでしょう、センドラルの落下が落ち着くまで、一時休戦にしませんか?」
「何かたくらんでるんじゃないだろうな?!」
夕梨花の問いに、スーツ男は屈託のない笑顔を見せる。
「わたくしどもがセンドラルの落下を知ったのは、少し前のJAXAの発表によってです。何かを企む時間はありませんよ」
「信用できると思うか?」
「信用していただかなくても結構ですが、センドラルは落ちて来ますよ」
くそっ!敵と一緒に落下を待つのか!
夕梨花の顔がゆがむ。
「分かった。だが、休戦終了は同時にだ。先に手を出したらただじゃおかない」
「大丈夫ですよ。アヴァターラはウソをつきません」
「うさんくさい」
夕梨花の言葉に、スーツ男がケラケラと楽しそうに笑う。
「わたくしどもの格納庫はシェルター機能を持っています。センドラルの直撃でも平気だと思いますよ」
この状況では仕方がない。
一時休戦を宣言し、ここにいる全ロボットは格納庫へと避難した。
もちろん、ガラクタと化したアイアンゴーレム三機も共に。
頭上ではセンドラルの火球が、みるみるうちに巨大化していた。
「センドラル、もうすぐここに到達します」
伊那村愛菜の重い声が、教習所の地下にある対袴田素粒子防衛線中央指揮所に響いた。
コンソールのディスプレイには、真っ赤に燃える光球が映し出されている。教習所屋上に設置された、監視カメラからの映像だ。最初は、普通の星よりもちょっと明るい小さな点だったそれは、今では太陽をアップにしたかのように燃え盛る火球となっている。
「生徒たちは大丈夫だな?」
「はい。あの格納庫はここで一番頑丈なエリアですから」
心配げな雄物川に、久慈がうなづきながら返した。
「間もなくです」
愛菜の言葉に、指揮所内が深い沈黙に包まれる。
その上空は、まるで太陽が落下してきたような炎に包まれていた。




