第155話 近接格闘戦
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「ヒトガタ一機、現出!」
トクボ指揮車内に、田中美紀技術主任の声が響いた。
その声音は表情と同様に切迫している。
キドロ三機とヒトガタ二機で、敵ロボット四機を包囲した矢先である。いきなり勢力図が変わったと言うことになってしまう。
「一機だけか?」
白谷部長の言葉に、美紀がコンソールを操作して格納庫の奥を暗視カメラで捉える。
ドローンからの映像だ。
どうやら、現れたヒトガタの後ろに他ロボットの姿は認められない。
「そのようです」
「武器は?」
美紀が監視ドローンからの映像をアップにする。
上背もあるゴツい機体のヒトガタの両手には、特に何も握られてはいない。
「保持していません。この角度からでは断言はできませんが……」
手には何もなし。腰にもダガーナイフ等のシース(さや)は取り付けられていなかった。もちろん可能性としては、自機の背中に何かを隠している可能性はある。だが、機関砲などの大物でないことだけは確かだ。
「この状況で丸腰で出てくるとは、よほど近接格闘に自身があるのか?」
敵ヒトガタはアニメのボクサーのように、両手をぶらりと力なく下げたまま、ゆっくりと前進を始めた。
「まあいい。ブラックドワーフがゴッドだとすると、こちらの優位は変わらん」
白谷はキッとディスプレイを見つめると、無線に叫んだ。
「可能なら捕縛、無理なら破壊してもかまわん!」
「了解!」
味方ロボットから、元気な声が指揮車に届いた。
「おいおい、手ぶらかよ」
後藤はスーツ男のヒトガタを見て目をむいていた。
こいつら下っ端が武器を手にしていないのは、俺がそう仕向けたからだ。ちゃんと段取りの打合せをしてから、装備を確認しようぜ、なんて具合に。だが、後から出てきたこいつが機関砲等を持っていないのには妙な違和感がある。
「なんかひっかかるよなぁ」
まぁ、今はそれより、田村の持つシリンダーだ。
そう思い直すと後藤は、右横カメラからの映像で田村のアイアンゴーレムを確認した。
「チッ!やはり機関砲は無視か!」
一機のアイアンゴーレムが、いきなり沢村のキドロ02に突進してきたのだ。すかさず手にしていた機関砲を背にまわす。
白谷が予想していた通り、こちらがシリンダーの破壊を恐れていることがバレているようだ。
「キドロ02、格闘戦に移行します!」
そう叫ぶと、沢村は左腕でアイアンゴーレムの拳を受け止める。
ガツン!と大きな音が響いて、その拳が止まる。
東京湾埋立地におけるヒトガタとの戦闘以来、キドロの装甲は大幅に強化されていた。軍用ロボットと渡り合うためには、これまでの警察用の装甲では心もとない。美紀のそんな進言が採用されたのだ。
キドロ02はアイアンゴーレムの拳を受けると同時に、その右腕を大きく後ろへ振りかぶっていた。そしてそれを力強く振るう。
ゴガン!大音響は、アイアンゴーレムがそれを左の手のひらで掴むように受け止めた音だ。コピー品ではあるが、基本性能が高い軍事用ロボットの設計は伊達ではないらしい。
「おもしろいねぇ」
沢村はニヤリと笑みを浮かべると、一歩踏み込んだ。
「南郷さん!」
「よっしゃ!」
そう叫ぶと、陸奥と南郷のヒトガタが敵のヒトガタに飛びついた。
両側からガッシリと拘束して、抑え込もうと言うのだ。相手も同型のヒトガタである。二機で押さえ込めば楽勝、のはずたった。
「なんやて?!」
南郷の驚愕も当然だ。敵のヒトガタが、見たこともないような身のこなしで、二人の攻撃をかわしてジャンプしたのだ。勢いがついて、ガゴン!と激突する陸奥と南郷。
「チッ!」
陸奥の舌打ちが聞こえる。
「あいつ、ジャンプしやがったで!」
「こんな重い機体で、どうやったらあんなことができるんだ?!」
急いでぶつかったボディを離すと、すかさず二機とも敵ヒトガタに対峙する。
「ほう。どなたかは知りませんが、なかなかいい動きをされますね」
いきなり陸奥と南郷のコクピットに、聞き覚えのない声が響いた。警察無線である。同時に、コクピットのディスプレイにウィンドウが開き、スーツ姿の男が映し出された。
「これは、あのヒトガタからか?!」
「その通りです。申し遅れました、わたくしアヴァターラと申します」
その男の言葉に、陸奥も南郷も首をかしげた。
「なんだと?」
「アバ……アラビアータ?」
南郷の言葉に、その男は愉快そうに笑い声を上げた。
「おもしろい!あなた、ゴッドさんと同じことを言うんですね」
「お前、何者や?!」
「ですから、アヴァターラと」
「アラビアータかボンゴレビアンコか知らんけど、何者やって聞いてるんや!」
「ちょっと待てよ……」
アヴァターラ、陸奥にはどこか聞き覚えのある言葉だった。
確か、ダスク共和国のジガ砂漠の戦場で、似た言葉を聞いた気がする。
シャンバラの誰かから聞いたのか……。
突然、陸奥の頭にいくつかの梵字が浮かび上がった。
「神の化身か!」
陸奥が突然大声を上げた。
「ほう。ご存知でしたか」
「マトハルだな」
陸奥の問いに、男はやわらかい笑顔になる。
「はい。わたくし、マトハルの代表を努めています、アヴァターラと申します」
「陸奥さん、何やそれ?」
陸奥の顔が、苦虫を噛み潰したように変わる。
「マトハル教は日本の古代宗教のひとつです。いや、邪教と言ってもいい。生け贄に殺人をも正当化するその教えは、もはや宗教ではない!」
「おやおや、ご自分の価値観を他人にまで押し付けるのは良くありませんよ」
「なんや分からへんけど、こいつが親玉ってことやな!」
「おそらくそうです!」
スーツの男が、下品なものを見るような目を陸奥と南郷に向ける。
「親玉ですか。その言い方は実に品性に欠けている。アヴァターラは、ヒンドゥー教では、救済の神ヴィシュヌの化身とも言われているのですよ」
「神がテロなんて起こすわけないやろ!」
南郷は語気を強くする。
「陸奥さん、こいつとっ捕まえて、全部終わらせるで!」
「了解!」
陸奥機と南郷機が、再び敵ヒトガタの捕縛に動き始めた。




