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第152話 電子ロック

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「この先、真っ暗やなぁ」

 ひかり、奈々、マリエが進んで行った廊下の入り口に、両津、正雄、奈央、愛理が集まっていた。ここからではもう、三人の姿は見えなくなっている。

「どうしたらええんやろ?」

「突入あるのみだぜ、ベイビー!」

「そうですわね。久慈教官がここで待機っておっしゃっていましたから、やっぱり遠野さんたちを連れ戻した方が良いのではないでしょうか?」

「泉崎先輩が心配ですぅ」

「そやな。じゃあみんなで迎えに行こか」

 決心した四人は、ビロードのような闇に包まれた廊下に足を踏み出した。

 真っ暗ではない。非常口を知らせる緑のサインが、所々静かな通路を照らしている。赤いサインは消火栓だろうか? ただ、そのどちらも結構な距離を空けていて、照明と呼ぶにはいささか心もとなかった。

「そうや!電気のスイッチあるんちゃうか?」

「そうですわね」

 みんなで廊下の壁をペタペタと探る。照明のスイッチがあるとすれば、おそらく壁だろう、と考えてのことだった。だが、いくら探してもそれらしい物はなにひとつ見つからなかった。

「おかしいなぁ、スイッチが無いなんてありえへんやろ」

 考え込む一同。それを破ったのは奈央だ。

「音声認識、なんてことはないでしょうか?」

「それ、ありえるかもしれへん」

 奈央と両津がそんな会話をした途端、正雄がいきなり大声で叫んだ。

「スイッチ、オーンっ!」

 オーン、オーン、オーンと、正雄の声が虚しく廊下に響いていく。

 ひかりたちに届いたかどうかも定かではない。

「棚倉さん、ただスイッチと言っても、何のスイッチか分かりませんわ」

「確かにそうだぜ」

 正雄が思いっきり息を吸う。そしてまた叫んだ。

「俺を照らすスポットライト、オーンっ!」

 再び、オーン、オーン、オーンと、正雄の声が虚しく廊下に響いていった。

「そんなもん、ここにあるわけないやん!」

「まぁ、ただの廊下の照明に、音声スイッチは無いですわよねぇ」

 宇奈月さん、あんたが言い出したんやん。

 両津がため息を漏らす。

「とりあえず、進もか」

 両津たちは照明をあきらめ、暗い廊下を歩き始めた。


「ひかり!」

「あ、奈々ちゃん、マリエちゃんも!」

 その頃ひかりたちは、すでに合流を果たしていた。

「トイレは見つかったの?」

「ううん、まだ!だからと〜ってもヤバいの〜!人間の尊厳が危ないの〜!」

「あそこに、また扉がある」

 マリエが指差す先に、先ほどとよく似た扉が銀色に光っている。

「きっとトイレだ!」

 駆け出すひかり。もうそろそろ限界が近いようだ。

「ひかり、待ってよ!」

 奈々とマリエも扉へ向かう。

 ひかりが扉の前に到着すると、先程とは違い、スッと自動でスライドした。開いた口に飛び込むひかり。そして奈々とマリエも後に続いた。


「これ、電子ロックかかっとるんちゃう?」

「このボックスを見る限り、おそらくそうだぜ」

「そんな厳重に隠さなアカン場所が、この教習所にあるんかな?」

 奈央がボックスの注意書きを読み上げる。

「retinal authentication……網膜による生体認証のようですわ」

「もうまくって何ですかぁ?」

「眼球の内側にある膜状の組織で、光を感じる部分ですわ。昔のカメラでいうフィルムに当たるところ、今だとデジカメのイメージセンサーですわね」

 遠野さんがいないと、話がスムーズに進むんやな。

 まぁ、あんまりオモロくなくなってまうけど。

 そう思いつつ両津は、反射的にボックスに目を近づけていた。

 サーっと流れる光が、その眼球をスキャンしていく。

 ブブーっ!

 エラー音が鳴り、ボックスに真っ赤な光が灯る。

 そしてもちろん扉は開かない。

「そりゃそーやろなぁ。しっかしあいつら、どうやってここをクリアしたんやろ?」

「メカマニアの棚倉先輩、何かいい方法はないですかぁ?」

 愛理が正雄に視線を向ける。

「もちろんあるぜ、ベイビー!」

 正雄は、とびきりの笑顔を愛理に向けた。

 そして思いっきり息を吸い、叫んだ。

「開け〜、ゴマっ!」

 シーン……と、その場に沈黙が重く沈む。正雄の大声とのギャップで、この静けさは心に痛い。

「棚倉くん、それは無いで。ちょっと恥ずかしいで」

 だがその直後、愛理も大きく息を吸って叫んだ。

「オープン、セサミっ!(Open sesame)」

 開けゴマの英語版である。

 続いて奈央も叫ぶ。

「セザーム、オーブル、トワ!(Sésame, ouvre-toi)」

 開けゴマのフランス語版だ。

「英語でもフランス語でもダメですわ」

「いやいや、そんなんで開いたらびっくりやで!それに、もし通じるとしてもアラビア語ちゃうか?元々の」

 そんな両津の言葉に刺激されたのか、奈央が再び声を上げた。

「イフタフ、ヤー、シムシムっ!(Iftaḥ yā simsim)」

「なんでアラビア語知ってんねん?!」

 もちろんドアは開かない。

「ほんならボクも一発かましとくか」

 ちょっとヤケクソの両津である。

「すんまへーん!ここ、開けてもらえまへんやろかーっ!」

ほんの少しの沈黙の後、ボックスに緑の光が灯る。

 同時に鳴る、ピピーっと言う信号音。

 ガチャリ。

 ロックが解除され、ゆっくりと扉が横にスライドした。

「なんでじゃーっ!」

 この子達はひかりやマリエの友達に違いない。

 なら、通してあげても問題ないだろう。

 電子ロックがそう考えたのかどうかは不明である。

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