第151話 暗い廊下
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「マジでヤバいよ〜!」
あせるひかりだったが、ずっと向こうまで続いている廊下には扉がひとつも見当たらない。しかも暗闇に紛れて、その奥はよく見えない状況だ。
「マズいマズいマズい!」
テケテケと駆け出すひかり。その足音が静かな廊下に響く。
「ひかり〜!待ってよ〜!」
ひかりの足音を追うように、奈々の声が廊下の奥に響いていく。
「追いかけましょう」
そう言ったマリエに抱きついたまま、奈々もようやく歩き始めた。
その時ひかりは、暗くて長い廊下の突き当たりに到着していた。
そこには一枚の扉。アルミなのかジュラルミンなのか、銀色に磨き上げられた大きなドアである。だが、鍵がかかっているらしく、ひかりの力で押しても、何の反応もない。それどころか取っ手やノブすら無いのである。
「困った困った困った〜!」
チョコチョコと足踏みをするひかり。
ふと扉の横の壁を見ると、ひかりの顔ほどの高さに、30センチ四方で厚みが5センチほどの四角いボックスが貼り付いている。
「なんだろ、これ?」
足踏み中なので視点が定まらず、そこに書かれている文字が読み取れない。まぁ、たとえ読めたとしても、ひかりには理解できないのだが。
ふと何かに気づくひかり。
「これって、映画で見たことあるかも。確か……手のひらを当てるんだっけ?」
右手をぱーにして、ボックスにピタッと当てる。
もちろん何も起こらない。
それもそのはずだ。これは手のひらの静脈認証型ロックではなく、網膜認証タイプなのだ。目の奥の網膜には毛細血管が張り巡らされており、そのパターンは人によって全て異なり、一生涯変わることがない。それを利用した生体認証方式で、登録された網膜パターン以外の人物ではロック解除できないようになっている。
「どうなってるのかな?」
ひかりがボックスに顔を近づける。
パッと光の帯が顔を照らし、眼球をスキャンする。
ブブーっ!
エラー音が鳴り、ボックスに真っ赤な光が灯る。
そしてもちろん扉は開かない。
「あ……そうなんだ」
ひかりの顔がパッと明るくなる。
「ここで毎日頑張って見張り番してるんだ。偉いね!」
うんうんとうなづく。
「でもね、私今とってもピンチなの。これは人間の尊厳に関わる大変な事態なんだよ。だからここ、通してくれないかな?」
両手を合わせてボックスを祈るようなポーズのひかり。
「お願い!」
ほんの少しの沈黙の後、ボックスに緑の光が灯る。
同時に鳴る、ピピーっと言う音。
ガチャリ。鍵の開く音が聞こえ、ゆっくりと扉が横にスライドしていく。
「このドア、スライドするんだ〜!普通の扉みたいに押してたよ〜」
つまり、もし鍵がかかっていなかったとしても、ひかりには開けられない扉であった。
「ありがと〜!この恩は一生忘れないよ!」
開いた扉から中へ駆け込むひかり。
それを確認したのか、ドアがスライドして閉じていった。
「あ!閉まっちゃった!」
ひかりにほんの数秒遅れで、奈々とマリエが扉の前に到着した。結構な速度で暗闇を移動して来たのだ。マリエに抱きついていると、奈々はなぜか全く怖くなかったのである。
マリエちゃんて、なんだか癒やし効果があるみたい。
そう思いつつ、抱きつく腕に力を込める奈々である。
「これって、スパイ映画とかに出てくる電子ロックでしょ?」
「うん、そうみたい」
「ひかり、どうやってロックを解除したんだろ」
ボックスを上から下まで吟味する奈々。
「retinal authentication……retinalって網膜よね。てことは、目を向けてスキャンするってヤツかな? でも、私やマリエちゃんの目をスキャンしても、鍵は開かないよねぇ」
腕を組んで困り顔の奈々。
「ま、やってみましょう」
そう言って奈々は、ボックスに顔を近づけた。
スキャンの光。
ブブーっ!
エラー音が鳴り、ボックスに真っ赤な光が灯る。
そしてもちろん扉は開かない。
「私も」
マリエも同様に行動したが、やはりロックは解除されなかった。
「そりゃそうよね。これで開いたらこの教習所のセキュリティ、ガバガバすぎるわ」
そう言って、奈々は肩をすくめた。
「あれ、マリエちゃん何してるの?」
マリエがボックスに手を当てている。
これって網膜認証で、手のひら認証じゃないと思うけど?
それに、網膜と同じで、もし手のひら認証だとしても、登録されてない人には開けられないでしょ?
そう思った奈々は、マリエの次の言葉に驚かされた。
「頼んでみる」
え?
マリエは、ゆっくりとボックスをなでるように、優しく手を動かした。
「私たち、ひかりのお友達なの。ここを通してくれると、とてもうれしい」
ほんの少しの沈黙の後、ボックスに緑の光が灯る。
同時に鳴る、ピピーっと言う信号音。
ガチャリ。
ロックが解除される音が聞こえ、ひかりの時と同様にゆっくりと扉が横にスライドする。
「ありがとう」
「マリエちゃん、すごーい!」
奈々の感激に、マリエはちょっと微笑みを浮かべた。
「第5格納庫07扉のセキュリティが破られました!」
対袴田素粒子防衛線中央指揮所で、コンソールに向かっていた一人の男性所員が叫んだ。
「侵入者か?!」
雄物川の問いに、久慈が答える。
「今あのフロアには生徒たちが避難しています。おそらく、生徒の中の誰かではないかと。ロボットに乗ったまま、待機を命じておいたのですが」
「あそこのセキュリティを破れる者がいると言うのかね?」
久慈は少し逡巡したが、すぐに答えた。
「マリエなら……あとは遠野さん……両津くんにも可能かもしれません」
「まずいな。まだ何の説明もしていないと言うのに、アレを見られてしまうのは」
「とりあえず、照明を落としておきましょう」
現在は緊急事態の真っ最中である。
あと数分でセンドラルがここを直撃するというのに……。
トラブルは重なるものだ。
雄物川は苦笑していた。




