第148話 流れ星
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「おい、ありゃあなんだ?」
後藤はアイアンゴーレムの右腕で空を指差した。右マニュピレーターの肘から下を上へ向け、人差し指だけを立てている。
奥多摩のアジトでは、黒き殉教者の三人プラス後藤で、来週のテロに向けてシミュレーション訓練が始まろうとしていた。格納庫の前で、三機のアイアンゴーレムと一機のブラックドワーフが起動している。その矢先のことである。
「何か光ってるな」
「流れ星か?」
田村と石井がいぶかしげな声を出す。
「願い事でもすりゃあいいんじゃねぇか?」
後藤の声は飄々としていた。
「流れ星って横に流れるから流れ星って言うんじゃねぇのか?」
田村が、ちょっとアホっぽい声音でそう聞いてくる。
「ちげーねぇ、あの光、流れてないよなぁ。でも、じわじわ明るくなってるように見えねぇか?もしかしてUFOだったりしねぇか?」
石井の声もアホっぽかった。
コイツらやっぱりザコじゃねぇか。
後藤は心中でため息をついた。
その時、無線から後藤にも聞き覚えのある声が届く。
「皆さん。訓練は中止です」
各コクピットのメインディスプレイにウィンドウが開き、スーツ姿の若い男が映し出された。細身だが、やさ男ではない不思議なオーラをまとっている。
「あん?アラビアータさんか」
マトハル教の奇怪な本殿で後藤を出迎えた、例の男である。
こいつをとっ捕まえるのが一番早ぇんじゃねぇのか?
後藤の胸に、そんなことがひらめいていた。
「アヴァターラ様だ!いいかげん覚えろ!」
浦尾から叱責が飛んだ。顔を真赤にしている。
こいつら、アラビアータのことだとムキになるよなぁ。
「俺ぁ、どっちでもいいけどよぉ」
後藤が 鼻の横をポリポリとかいている。
「どっちでも良くない!アヴァターラ様だ!」
おっと、こんなことやってる場合じゃねぇか。
「へいへ〜い。じゃあ神主さんよぉ、いったい何があったんだぁ?」
スーツの男は、苦笑したように一拍あけてから説明を始めた。
「廃棄となったインドの宇宙ステーション『センドラル』が、軌道を外れて落下していると、JAXAから発表がありました」
「それって、空で光ってるあれかぁ?」
「そのようです」
田村や石井が言うような流れ星ではなかった。
だが、宇宙ステーションだと?
「ってことは、この辺りに落ちてくるのかぁ?」
「はい。つい先ほど、警察から奥多摩一帯に避難命令が出されました」
こんな偶然があるのか?
ここは国際テロ組織のアジトだ。そして今まさに、機動隊による突入が行なわれようとしている。そんな特殊な場面に宇宙ステーションが落下なんて。ちょっと出来すぎている。
「アヴァターラ様!危険なのであればお逃げください!」
浦尾が大声を出す。
フッと、スーツの男が笑みを漏らした。
右の手のひらを、ゆっくりとスーツの胸ポケットあたりに当てる。
マトハル教の、何かの動作なのだろうか?
「何を言っているのです。私たちはいつも一緒ですよ」
その男は、手を胸に当てたままニッコリと微笑んだ。
「アヴァターラ様……」
黒き殉教者の三人は一様に感動しているようだ。
「逃げねぇなら、どうするんだぁ?」
後藤の疑問は当然である。警察による避難命令が出ているなら、危険度は高いと考えた方がいい。落下してくるのは人工衛星ではなく、宇宙ステーションだ。結構な被害を想定すべき事態だと思われた。
それとも、マトハル様かなんかが助けてくれるってのかぁ?
スーツの男は、そんな後藤の考えを肩透かしするように外してきた。
「格納庫へ避難してください」
「普通じゃねぇか。マトなんとか様が助けてくれるんじゃねぇのかよぉ」
後藤がつまらなそうな声を出す。
「マト……きさま、不敬だぞ!」
今度は田村が顔を真赤にして怒鳴った。
「おめぇは知らねぇだろうが、俺たちの格納庫には地下があるんだよ。いざとなったら核シェルターになるほど頑丈だと聞いている」
浦尾が自慢気に胸を張った。
「私は先にシェルターに入ります」
スーツの男の言葉に、後藤は心の中で首をひねる。
本殿から格納庫の地下に、通路でもあるのか?
もしかするとこの一帯の地下には、こいつらの基地みたいなもんがあるんじゃねぇのか?
ちょっと恐ろしい想像だが、あながち無いとは言い切れない。
そこを探るのにいい機会かもなぁ。
後藤はそう思うと、思わずニヤリと笑みをこぼしていた。
「マルタイに動きあり」
夕梨花のキドロから、警察無線で指揮車に声が届いた。
コンソールのディスプレイには、各キドロのメインカメラからの映像が映し出されている。つい今まで、何かの相談でもしているのか、ただ突っ立っているだけだった四機が動き始めている。
「部長、ヤツら再び格納庫に向かっています」
後藤の連絡にあったヒトガタはまだ姿を見せていない。
どうする?
アイアンゴーレムとブラックドワーフ、この四機だけでも無力化するべきか?
ほんの一瞬、逡巡を見せた白谷がマイクに司令を伝える。
「仕掛けろ!」
「了解!」
三機のキドロと二機のヒトガタから、同時に声が届いた。




