第147話 奥多摩では
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
機動隊のロボット部隊、トクボ指揮車内の空気は極度の緊張に支配されていた。
奥多摩の森深く、廃村に隠されていた国際テロ組織「黒き殉教者」のアジトへの急襲計画の真っ最中なのだ。
現在三機のキドロと、都営第6ロボット教習所から駆けつけた二機のヒトガタの合計五機が、そのアジトへ向かってゆっくりと森を進軍している。
黒き殉教者に潜入している傭兵の後藤、通称ゴッドからの連絡によると、アジトには三機のヒトガタが隠されているらしい。偵察用ドローンで確認できたのは、三機のアイアンゴーレムと二機のガーゴイル、そして一機のブラックドワーフだ。合計すると九機もの軍用ロボットが存在することになる。全ての機体にパイロットが揃っているのかは不明だが、敵の最大戦力を考えて作戦行動をとるのが定石である。
五機対九機。これでは小規模な戦争地帯とも言える状況になってしまう。だが、後藤の潜入を含め、このチャンスを逃すと来週に予定されているテロを防ぐことは不可能になるだろう。
そんな緊張状態の中、都営第6ロボット教習所から届いた知らせは、状況をより複雑にしてしまった。
袴田素粒子に感染した宇宙ステーションが、この場所をめがけて落下中だと言うのだ。情報によると、地上まで到達する破片はそれほどの大きさはない。そのため落下の衝撃による被害は軽微だと予想されている。しかしその破片は袴田素粒子に感染しており、落下地点周辺のロボットは暴走の可能性が高いと言うのだ。そして落下予想時間まで、あと一時間を切っている。
だが指揮車内の混乱はそれだけではなかった。その情報をもたらしたのが、袴田素粒子本人だと言うのだ。
本人? 人間なのか? 素粒子が?
だが詳細を聞いている時間は無い。新しい状況にも即座に対応していかなければ、近隣住民に被害が出てしまう。
「やっかいなことになりましたね」
「アジトだけでも、まだ予想外のことが起こる可能性がありますし」
公安の花巻と内調の佐々木の顔がゆがむ。
「部長、とりあえず国道411号を中心に通行止めにしてはいかがでしょう?」
田中美紀技術主任がトクボ部部長の白谷に視線を向けた。
「そうだな。青梅警察署に連絡を入れてくれ。411、青梅街道を中心に必要だと思われる道路を閉鎖、駐車されている普通車を一キロ圏内から外へ移動するように」
「了解です」
美紀はすぐさま警察無線に手を伸ばす。
青梅警察署は、青梅市と西多摩郡奥多摩町を管轄している。だが、奥多摩町に存在する交番はたったひとつ、山岳救助隊の本部も兼ねた奥多摩交番だけである。
はたして時間内に全自家用ロボットの移動は可能だろうか?
もし間に合わなければ、落下してくる袴田素粒子に感染し、暴走が始まってしまう可能性がある。九機の敵ロボットの相手でさえ大変なのにと、指揮車内の全員がより大きな緊張に包まれていた。
「全機、対袴田素粒子防御シールドを起動せよ」
トクボ部ロボット部隊のチーフパイロット、泉崎夕梨花のキドロコクピットに、田中美紀技術主任からの声が響いた。警察無線である。
「キドロ01、了解です」
その後、今回の作戦に当たっている全機から、了解の声が届く。
夕梨花が操縦コンソールの表示をトントンとタップした。
同時に、防御シールド起動中の赤文字が、メインデイスプレイの右下にオーバーレイされる。
「シールド、起動完了」
さっきと同様に、全機から起動完了の声が届いた。
本来の作戦では、可能な限りシールドの起動を回避することになっていた。なにしろシールドを発生させるシールドジェネレーターは大食いだ。恐ろしい勢いで、バッテリーを消費してしまう。各ロボットの稼働時間が減れば減るほど、作戦成功の可能性が下がっていく。だが、空から素粒子が降ってくるのだ。そんなことを言っていられない。
深い森を進むと、偵察用ドローンが捉えた例の廃村が見えてきた。
格納庫の前に、三機のアイアンゴーレムと一機のブラックドワーフが停まっている。各照明が点灯していることから、全てにパイロットが搭乗中と思われる。
こちらのキドロ三機とヒトガタ二機が、緑の森に息をひそめる。
物音を立てないよう細心の注意を払いながら、テロ組織のロボットたちの様子をうかがう。その時、ヒトガタに乗る陸奥から、各ロボットに入電した。
「上を見てください」
それぞれ上空を捉えているサブモニターに目を向ける。
そこには、大きな流れ星のような明るい光点。
宇宙ステーションの破片が、もう肉眼で目視できる距離にまで落下しているのだ。
「まぁ俺らは、やるべきことをやりまひょ」
南郷ののんきな声が聞こえる。
夕梨花はぐっと右手に力を込める。
キドロ01の右手には、近接戦闘用の刀「ROGA」が握られていた。




