第146話 拙者○○大好き侍!
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「うんともスンとも言わへんなぁ」
両津は自分のロボット、なにわエースのコクピットでうなっていた。
ひかりとマリエにロボットの気持ちが分かるのなら、自分たちにもそれが可能かもしれない。
そう考えたロボット部一同は、それぞれ自分の愛機に乗り込み、教習所の中央広場に出ていた。いつものコクピットで、操縦レバーを握りながら語りかけてみようと言う寸法だ。
「えーと……ボクのお笑いセンス、どない思う?」
コクピット内が沈黙に包まれる。かすかに聞こえるのは、何かの電子機器からの発信音だけである。両津はこの問答を、すでに何度か繰り返していた。だが、その答えは帰って来ない。ひかりによると、声が聞こえるのではなく心に気持ちが伝わってくるらしい。
両津は右の手のひらを自分の胸に当て、目を閉じて再び問いかける。
「ボクのお笑いセンスって、イケてると思わへん?」
何度目かの沈黙。
こらアカンなぁ。
両津は無線機のスイッチをオンにして、ロボット部の全員に語りかける。
「ぜんぜんアカンわ。ボクのなにわエース、うんともスンとも言わへん」
「うんともすんとも!」
ひかりの楽しそうな声が帰ってくる。
「うんともって何ですかぁ?」
ディスプレイ越しに愛理が小首をかしげた。
それに一番に答えるのは、もちろんひかりである。
「じゃあ明日、来てくれるかな?! うんとも〜!」
「それ、聞いたことありますぅ」
「じゃあ明日も見てくれるかな?! すんとも〜!」
「それも、聞いたことありますぅ」
無線機から奈々のため息が聞こえる。
「話しかけても反応が無いことの慣用句よ」
「波田陽区?」
「それはギター侍!」
「今は福岡で住みます芸人みたいなことをやっておられますわ」
奈央がミニ情報を入れてくる。
「拙者、クマしゃん大好き侍じゃ!」
奈々がちょっと沈黙してからつぶやく。
「まあ、それは合ってるわね」
「みんな、自分が何侍なのか、発表しようぜ、ベイビー!」
棚倉くん、またわけの分からへんこと言い出しよった。
両津が苦笑する。
「言い出しっぺの俺からいくぜ!俺は……プラモ大好き侍だぜ!」
「ぷらもっ!」
ひかりたちから見れば正雄は、プラモデル好きと言うよりもメカ全般オタクのイメージがある。だが、どうやら本人の中では、自分が一番好きなのはプラモだという認識らしい。
「愛理も言うですぅ。えーと……私は、泉崎先輩大好き侍ですぅ!」
「奈々ちゃん!」
奈々の頬がちょっと赤くなる。
「では、わたくしもいかせていただきます」
奈央がひとつ咳払いをする。
「わたくしは……コストパフォーマンス大好き侍ですわ!」
「ケチンボ!」
「コスパでしょ!」
さっきとは違った意味で奈々の顔がちょっと赤くなった。
「じゃあボクもいこかな。ボクは……お笑い大好き侍や〜!」
「センス無いけどね!」
「容赦ないな!」
ディスプレイの中で、マリエが小さく手を上げた。
「私もいくね。私は、ナインチェ大好き侍です」
「ナインチェて何ですかぁ?」
再び愛理が小首をかしげた。
だが、この疑問は愛理だけのものでは無かった。ここにいるほとんどの者にとって初耳の言葉である。そんな疑問を奈央が解決する。ロボット部内での奈央の立ち位置は、いつの間にか物知り博士になっている。
「去年のクリスマスにみんなでプレゼント交換会やりましたでしょ?」
「ああ、棚倉くんが木彫りの熊もろた時や!」
「あの時に遠野さんがゲットした、マリエさんからのプレゼントがそうですわ」
ああ、と一同がうなづいた。
プレゼント交換でひかりがゲットしたのは、ミッフィーのぬいぐるみだ。
ミッフィーの生まれ故郷はオランダである。その本名は「ナインチェ・プラウス(Nijntje Pluis)」、オランダ語で「ふわふわな小さいうさぎ」という意味だ。「ナインチェ」は「konijntje」に「tje(小さな)」を付けた「konijntje」を縮めたもので、「Pluis」は「ふわふわの」という意味である。だが今では、オランダ以外の国ではミッフィー(Miffy)と呼ばれることの方が多くなっている。
「奈々ちゃんは何侍?」
ひかりがキラキラした目をコクピット内のカメラに向けてくる。
「私は……」
なぜか言いよどむ奈々。
「なに?なに?」
「えーと……ひかり、大好き、侍かな」
「うきーっ!」
ひかりの顔が真っ赤になる。
「ひかりはどうなのよ?!」
「拙者、クマしゃん大好き侍じゃ!」
「私じゃないのかーい!」
ガガガっ!
その時突然、皆のコクピットに無線が入電した。
「久慈よ。この場所に、大気圏外から落下してくるものがあります。危険なので、ロボットに乗ったまま地下格納庫に避難してください」
地下格納庫ってなんだ?!
ひかりたちはその存在を知らなかった。
そんな一同の目の前で、教習コースの一部がゆっくりと上昇を始める。
あそこが入り口?!
「あ!一番星みっけ!」
「そんなアホな、まだ真っ昼間やで」
だが火星大王が指差す先に、一番星以上に明るく光る物体が小さく見えている。
あれが落下物?!
「急いで!」
久慈の声に、ロボット部の一同は地下格納庫の入り口らしき所へ向かった。




