第143話 落下地点
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「やはり日本ですね」
教習所地下の対袴田素粒子防衛線中央指揮所に、落ち着いた女性の声が響いた。リモートで繋がれた、国連宇宙軍総合病院の病室から届いたものだ。
「おそらく、関東地方でしょう」
惑星調査船サン・ファン・バウティスタ号の元副長・山下美咲は、表情を少しも変えずにそう言った。今彼女のカラダをコントロールしているのは、袴田素粒子のアイである。ここまでに見られたその特徴は、感情をあまり表に出さないことだ。ただし、感情が無いわけではないらしい。美咲によると、彼女の脳内にいるアイは誠実であり、優しさも感じられると言う。
「スラスターの噴射はすでに止まっています。ISSでの軌道計算でも、アジア地域ということまでは判明しています」
素粒子物理学者の伊南村愛菜が、コンソールの画面からそう読み取った。
だが、アイの言う通りなら日本だ。しかも関東地方である。
「関東地方……そこまで細かく分かるのですか?」
雄物川がリモート越しにアイに尋ねる。
「はい。そちらから提供していただいたデータに、私たちのネットワークに飛び交っている情報やデータを加味して計算するとそうなります。ですが……」
アイは一旦言葉を区切ると、スッと顔を上げてリモートに使われているノートPCのカメラを見た。
「計算だけではなく、通信ネットワーク上に垣間見える彼らの意思をも、捉えることができたのです」
「彼らの……意思?」
思わず聞き返してしまった雄物川と、ここにいる全員の疑問は一致していた。
「あなた方が侵略者と認識している私の同族たちです。そして、彼らは意図的に関東地方、おそらくは東京に宇宙ステーションを落とそうとしています」
現在落下中なのはインドの宇宙ステーション「センドラル」だ。全長26メートル、重量は110トンという、スカイラブとミールの中間ほどのサイズを誇る巨体である。そんなものが東京に落下したら大惨事は免れないだろう。しかもこのデカブツには袴田素粒子が感染しているのだ。
「おおまかですが、落下予想地点は……東経139度45分58秒、北緯35度40分53秒」
アイが、おおまかとは思えない座標を提示した。
「所長!まずは至急、各所に連絡しましょう!」
久慈の言葉に雄物川がうなづいた。
アイの言葉の検証は後でいい。今はこの事態にどう対処するのか、である。
「ダン、聞こえた?」
愛菜がISSのアメリカ人宇宙物理学者ダン・ジョンソンに声をかける。
「もちろん。JAPANと判断したってことだな」
「ええ」
「横須賀の第7艦隊には、イージス駆逐艦九隻が配備されている。迎撃は完璧だ」
「アイさんの言った座標を米海軍に知らせて」
「了解!」
ダンの声が、たのもしく響いた。
だが、米軍のミサイルによる迎撃が間に合わなかった場合、もしくはハズしてしまった場合、センドラルは東京に落下する。落下による惨事はもちろんだが、袴田素粒子による暴走ロボット事案の多発を招くことは避けられないだろう。だがこんな事態に、機動隊のロボット部隊トクボのキドロと、この教習所に貸与されている陸自の最新鋭軍事ロボット、通称ヒトガタは現在奥多摩だ。久慈を始めここにいる全員が恐れていた事態が現実になろうとしているのだ。今できる手段として、何があるのか?
「私に考えがある」
そう言うと雄物川は自分のスマホを取り出し、いくつかタップした。
わずかに呼び出し音が聞こえてくる。
コール音は3回で止まった。
「都営第6ロボット教習所の雄物川だ。官邸につないでくれ」




