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第14話 ハーフムーン

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

 遠野あかりは朝に強かった。

 今日も、まだ起床予定時間の午前6時には少し余裕があるというのに、すでに朝食をとっている。今朝のメニューはオーソドックスに、炒めたベーコンと目玉焼き、たっぷりとバターを塗ったバケットのスライス、そしてオレンジジュースだ。

 ここは調査船ハーフムーンの食堂、カフェテリアだ。早朝だと言うのに、あかり以外にも結構な数の乗組員たちが朝食をとっている。食べているメニューは千差万別で、乗組員それぞれの嗜好に合うよう、世界各国の料理が揃っていた。

 17世紀、オランダ東インド会社からの依頼で、イギリスの探検家ヘンリー・ハドソンは、ヨーロッパからアジアヘ行くための海路、北方航路を発見するために、あまり大きくはない小型のガレオン船で探査航海に出た。

 ハーフムーン。

 船尾が水面から反り上がるデザインになっていて、どことなく半月をイメージさせる事からその名が付けられた。

 あかりが乗っているこの船は、そんなガレオン船の名前を冠した国連宇宙軍の調査船である。本家の帆船とは違ってその巨大な船体は、乗組員の全員に安心感を与えてくれている。大航海時代にちっぽけな帆船で乗り出した大海原と比べても、この船が進む宇宙空間はとてつもなく大きい。だからこそ、その巨大な船体が精神安定剤のような役割を担っていた。たいした根拠はないのだが。

「おはようございます、遠野主任」

 あかりに声がかけられる。二十代後半ぐらいの白衣を着た女性である。手に持ったトレーには、ご飯と味噌汁、焼き魚、漬物といった純和風の朝食が乗っている。

「ご一緒してもいいですか?」

「もちろんよ、一緒に食べましょう」

 あかりの返事を聞き、彼女はテーブルをはさんであかりの正面に座った。

「あら、今日も和風なのね」

「私おばあちゃん子なので、おばあちゃん特製、手作りの朝ごはんが大好きなんです。ここのお味噌汁、結構いい線いってるんですよ」

 そう言って彼女は明るく微笑んだ。

 主任かぁ。

 あかりは心のなかでそうつぶやいた。ずっと国連宇宙軍の情報システム部でコンピュータ技術者として働いてきた。軍内のシステム開発、運用、保守、そして様々な研究などでとても忙しくやってきた。そして今回の任務では主任を任されることになったのだ。

 なんか慣れないなぁ。

 あかりはちょっと苦笑いの表情になっていた。

「主任?どうされたんですか?」

「いえ、何でもないわ」

 あかりは表情を戻して言った。

「野沢さん、今朝は早いのね」

 野沢結菜、あかりの部下である。とても陽気な性格の彼女のおかげで、情報システム部はいつも明るい雰囲気となっている。

「出発してもう一ヶ月じゃないですか。昼も夜もないここじゃ、時間の感覚が段々おかしくなってきて、毎朝少しずつ早起きになってきてるんですよ」

 結菜は明るく笑った。

「早くカリストに着かないかなぁ、やっぱり人間ちゃんと大地に足を着けて暮らした方が健康的ですよ、きっと」

「まだ半分も来てないわよ」

「分かってますけど〜」

 ちょっとすねたような顔をする結菜。

 木星の第4衛星カリスト。調査船ハーフムーンの今回の任務は、カリストの地質や大気などの調査である。木星の月と言っても、その大きさは水星に匹敵する。これまでに行われた無人探査機による調査で水の存在や、薄いとはいえ酸素と二酸化炭素の大気の存在もハッキリしている。木星からの距離も離れているので、母星からの電磁波の影響も極めて少ない。太陽系の天体の中で、人類が住める可能性が高い星のひとつだ。

「でも、本当に地下に海なんてあるのかなぁ」

 首をかしげる結菜。

「だから、それを調べに行くんでしょ」

 昔からカリストの地下には塩水の海が存在すると予測されてきた。もしそれが本当なら、生命が存在する可能性もある。

「主任、結菜ちゃん、二人お揃いですか!ボクも混ぜてもらっていいですか?」

 結菜と同じくらいの年格好の青年が二人に声をかけてきた。やはり白衣を着ている。結菜と同じあかりの部下、田中正明だ。

「私はいいけど、その結菜ちゃんてのやめてくれないかな」

「なんで?」

 ちょっとムッとして結菜が言う。

「私達は友達じゃないでしょーが、同じ部署の同僚なんだから野沢さんて呼んでよね」

「なんで?」

「だからぁ、普通は友達にならないと、下の名前で呼んだりしないものでしょ!」

「そうかなぁ」

「そうよ!」

 また二人の漫才が始まった。あかりはニヤニヤしながら、そんな二人を見つめている。

「だったらボク、結菜ちゃんの友達になるよ!」

「はぁ?!」

「友達なんだからもういいよね、結菜ちゃん!」

「あんたって人は……」

 いつも思うのだが、田中くん、この子はちょっとひかりに似てるな。

 言動があかりの娘、遠野ひかりとちょっとだけ似ていた。そう思うと、あかりの胸に寂しさがこみ上げてくる。この航海がはじまって一ヶ月、家族とは話もしていないのだ。エネルギーの節約もあり、地球との個人通話は禁じられている。通話が許されるのは、カリストに着いてからになる。

 あと一ヶ月……ガマンしなくちゃ。

「おっと、ぬか漬けひと切れいただきっ!」

「あんたサンドイッチじゃないの!ぬか漬け取ってどうするのよ!」

「ええっ?!パンにぬか漬け合うんだよ、知らなかった?結菜ちゃん」

「うきーっ!」

 家族に思いを馳せているあかりの前で、結菜と正明の漫才は続いていた。

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