第137話 生命の定義
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「もう一回言うてくれへん?」
両津が右の手のひらを、耳の後ろに付けてそう言った。
聞き耳を立てるポーズだ。
「えーと……」
言葉を探しているように、ひかりの目がキョロキョロと動いている。
少しの沈黙の後、意を決したようにこう言った。
「あのね、ロボットさんって、生きてたりしないのかな?」
一同、顔を見合わせる。
だが、ひかりがこれまでに何度も経験してきたように、すぐさま否定する者はここにはいなかった。
ひかりがこの話をすると、たいてい同様の反応が帰ってくる。
「生きてるわけないよ」
「何バカなこと言ってるの?」
「夢でも見たんじゃない?」
「ロボットはただの機械だよ」
なんて具合だ。
そのせいで、ひかりはもうずいぶん長い間、この疑問を口にすることはなくなっていた。
この仲間たちなら、私の疑問に答えてくれるかも?
そう思えたひかりは、勇気を持って切り出したのである。
「特撮だと、生きてるロボットとかよく出てきますですぅ」
愛理がうれしそうに微笑んだ。
「生命をどう定義するのか、ですわね」
奈央が腕組みをする。
「ひかり、ずいぶん難しいこと考えてるのね」
奈々がちょっと感心したようにひかりを見ている。
「生命の定義か。そんな難しそうなこと、俺は考えたこと無かったぜ」
「そうやなぁ、生きてたら動いて、死んでたら動かへん、とか?」
「ロボットだって動くじゃない」
「そやなぁ」
皆、う〜んと考え込む。
「整理して考えてみましょう」
さすが科学大好き奈央だ。何か良い答えを思いついたらしい。
皆の目に期待が浮かんでいる。
「生物が何をしているのか……まずご飯を食べる、取り込んだエネルギーを代謝する、そして排泄する……他には、呼吸するとか、行動するとか、成長するとかでしょうか?」
「確かに、生きてたらそれ全部してるわなぁ」
一同、うんうんとうなづく。
「でも、ちょっと待って」
奈々が反論する。
「ロボットだって、バッテリーとかガソリンとかの燃料を食べて、排気ガスを排泄したり、電気を消費することでエネルギーを得たり…これは代謝にあたるわよね。特に内燃機関の場合は酸素を消費するから、呼吸してるって言えるんじゃない?」
「ホンマや、生物みたいや」
両津が肩をすくめる。
「そうですわね。最近のロボットにはAI搭載型もありますから、成長もしますわ」
「う〜ん、マジで難しいぜ」
「そうや!」
両津がポンと手を打った。
「こういう時こそスマホで検索や!」
制服の胸ポケットからスマホを取り出すと、トントンといくつかタップする。
「……科学者が定義した生命の条件、これや!」
右手の人差指でスクロールしていく。
「生命の定義は三つあるみたいや。1、外界と膜で仕切られている」
「膜ってなんですかぁ?」
「多分細胞膜のことですわ」
奈央が解説するが、すぐに首をかしげた。
「でも、ロボットも外装の鉄板で外と仕切られていますわね」
両津が続ける。
「2、代謝を行なう。かっこエネルギーの流れかっこ閉じ」
「バッテリーを使って電気の流れを作ってるから、やっぱりロボットは代謝してるってことになるわよね」
奈々も首をかしげた。
「3、自分の複製を作る」
「それだぜ!ロボットは子供を作らないぜベイビー!」
やっと正解が見つかったとばかりに、正雄が勢いよく叫んだ。
が、すぐさま奈々が反論する。
「産業用ロボットなら、自分と同型機を作るわよ」
「あ……」
絶句する正雄。
「これだとロボットは生きていることになりますわ」
う〜んと考え込む一同。
奈々がひかりに視線を向ける。
「ひかり、どうしてその疑問が浮かんだの?」
全てを言ってしまうことに迷いがあるのか、少しの間逡巡するひかり。
だが、決意を固めたのか奈々を見つめ返した。
「私ね、ロボットさんの気持ちが分かるの」
「ロボットの?」
「ロボットさんて言うか、機械さんて言うか。それでね、機械さんも私の気持ちを分かってくれるの」
降り注ぐはずの否定の言葉に身構えるひかり。
だが、またしてもそんな言葉は飛んでこなかった。
「遠野さんならありそうやなぁ」
「そうですわね。遠野さんですから」
「私も分かりたいですぅ」
「さすが俺のライバルさんだぜ!」
その時奈々が、何かに気付いたように目を見開いた。
「あっ、ひかり!クマの太鼓って、もしかして?」
奈々は目撃していた。
ひかりの歌に合わせて、太鼓のリズムを変えてくれるクマの玩具を。
「あれって新機能じゃなくて、そういうことだったのね!ひかり、すごいじゃない!」
こんなことはひかりにとって初めての体験だった。
ここにいる誰もが、何の疑問もなくひかりの言葉を信用してくれている。
そしてその直後、マリエが爆弾を投下した。
「私も、分かる」
ええ〜っ!っと驚く一同。
こんな近くにいた!
ひかりの心に、驚きとともに嬉しさがこみ上げていた。




