第136話 機械の気持ち
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「まぁ簡単に言うと、機械仕掛けで勝手に動くものなら、なんとかロボットって名付けてもいい。その程度の社会的定義しか無いのが現実さ、ベイビー」
正雄の解説に、皆うなづいている。
「確かにそうやな。全自動掃除機て言うより、お掃除ロボットて言うた方が売れそうやもんな」
「ほえ〜、そんないいかげんなんだ」
ひかりが小首をかしげている。
「世の中なんてそんなもんだぜ!」
正雄がビシッとポーズを決める。
「なんであんたがカッコつけてるのよ」
奈々のツッコミに、ニヤリと白い歯を見せる正雄。
ちょっとあきれたように奈央が肩をすくめる。
「他には何かロボットにまつわる疑問は無いかしら?」
「そうだぜ、部活を始める前に、スッキリさせておいたほうがいいのさ、ベイビー!」
何かあったかなぁ? と、皆首をかしげる。
その時、ひかりがぴょこんと顔を上げた。
「あ、ありまする!」
「なんで古語なのよっ?!」
奈々のツッコミに、なぜか両津が答えた。
「そらあれや、お父さんが考古学者だからやで」
「どういうこと?!」
「俺に聞かれてもなぁ」
苦笑する両津。
「遠野さん、何が分からないのです?」
「俺が知ってることなら、何でも教えてやるぜ」
「えーと、えーと……」
どう言えばいいのだろう?
ひかりには、この疑問を説明するのにいい言葉がなかなか見つけられなかった。
なにしろ家族に話しても、分かってもらえたことがない。それどころか、信じてもらえなかったと言った方が正確かもしれない。
学校の友だちにしてもそうだ。ひかりの人生でこの話を信じてくれたのは、小学校の頃の同級生、脇坂由美子と鈴木雄二の二人だけだった。
「ひかり!ほら、おみやげだ!」
ひかりの父、遠野光太郎は帰宅するなりリビングのひかりの所へやって来た。
「お父さん、まずは上着を脱いで。花粉を家に持ち込んじゃうわ」
ひかりの母、あかりが急いで光太郎から上着を脱がしにかかる。
そのまま玄関へと向かい、パンパンと幸太郎から引き剥がした上着をはたき始める。
「あれぇ、ひかりだけにおみやげなの?」
兄の拓也もリビングへやって来た。
言葉は非難しているが、実は気にしていないようでにこやかな笑顔を見せている。
この時のひかりは、まだ小学校の二年生だった。
「すまないな、拓也。実は北見教育大学の友人が研究室に訪ねて来てね、北海道みやげにこれをくれたんだ」
光太郎は、いかにも大学教授らしいくたびれたブリーフケースの中をごそごそと探る。そして取り出したのは…。
「さぁこれだ!」
身長8センチほどの熊の人形である。
「ああ〜!クマしゃんだ!」
「ゼンマイを巻くと前足が動くんだぞ」
と言いつつ光太郎がクマのゼンマイをぎりぎりと巻いていく。
そして、リビングのガラステーブルにポンと置く。
座ったポーズのクマは、ぎりぎりと機械音をたてながら左右の手を楽しげに上下させ始めた。
「うわ〜!これ可愛い〜!お父さん、ありがとう!」
「まぁ、もらいものだけどね」
目に入れても痛くない可愛い娘に礼を言われて、少し照れてしまう光太郎。
「確かひかりの部屋に、ボロボロになった古いクマの玩具があっただろ? あれは捨ててしまえばいいさ」
そう明るく言った光太郎に、ひかりがパッと顔を向けた。
「だめ〜!」
ひかりの声があまりにも大きくて、光太郎と拓也は絶句した。
「いや、もう汚れてるし、あれのゼンマイは切れてしまってもう動かないじゃないか」
「そうだけど……」
「お父さん、別に捨てなくてもいいんじゃない?」
あかりが玄関から戻って来る。
「ひかりにとって、ずっとお友達だったもんね」
「うん」
あかりの言葉にひかりがうなづいた。
「それにね……」
「それに?」
「あの子、まだこの家にいたいって思ってるんだもん」
「思ってる?」
「うん」
光太郎とあかり、拓也が顔を見合わせる。
「それはどういうことなの?」
拓也の問いに、ひかりが顔を上げる。
「あのね、ひかりあのクマしゃんと、いっつもおしゃべりしてるの」
「おしゃべり?」
「うん、声は出さないからおしゃべりって言うのかどうか、よくわかんないけど。気持ちが分かるって言うか……心が見えるって言うか」
玩具などに感情移入して、生きている友達のように感じる。この手のことは、誰もが子供時代に必ず体験するものだ。
そう考え、遠野家ではひかりにそれ以上の質問をすることはなかった。
ひかり、8歳の春のことである。




