第131話 リカヌ共和国
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「イーン、アチャア、ムオッ」
ディンカ語を話したのは南郷だ。意味は「ありがとう」。
南郷にとって大阪弁以外の言語は、標準語でも、英語でも、そしてディンカ語でも大した違いは無い。あまり変わらない難易度で覚えることができる。郷に入れば郷に従えと、南郷はいつも派遣先の言語を、ある程度はマスターすることにしていた。この国の公用語は英語だが、地域によって様々な部族の言語が使われている。今南郷がいる場所では、古くからディンカ語が使われているのだ。
ここは、アフリカ大陸のスーダンと南スーダンに挟まれた国、リカヌ共和国の草原だ。目の前に広がる毛足の短いカーペットのような緑には、ポツンポツンと、背の低い木々が所々に生えている。その映像だけを見ると、結構過ごしやすそうに見える風景だが、実際は全く違っていた。
リカヌはサバナ気候で、4月から10月が雨季、11月から3月が乾季となる。雨季は非常に蒸し暑く、乾季はうだるように暑い。 乾季の今、日中の気温は40度に届くことも珍しくない。
「南郷さんのディンカ語、ほぼネイティブですよ」
「ほんまでっか? そりゃうれしいわ」
「どうです?リカヌの暑さにはもう慣れましたか?」
現地のコーディネーター、米山が笑顔で南郷を見る。
「いやぁ、まったく慣れまへんなぁ。大阪とか京都とか、関西の暑さもたいがいやけど、ここに比べたら南極ですわ」
ケラケラと笑う。
今回彼は、日本に本部を置く国際NGO「乗用ロボット普及連盟(Riding Robot Promotion Federation)」からの依頼で、リカヌの国民にロボット運転の基礎を教えるべく、はるばる日本からやって来ていた。乗用ロボット普及連盟の今回の動きは、経済協力開発機構(OECD)からの要請を受けてのことらしい。だが、そのあたりの内情は、南郷にとってはどうでもいいことだった。彼にとって乗用ロボットを世界に普及させることは、すでに趣味の領域にまで達しているのである。つまり、楽しいからやっている、のだ。
「しかし、南郷さんが運び込んだこいつ、小さいですね。やっぱり日本の技術者は、小さな物を作るのが得意なんですね」
二人の前には、一台の乗用ロボットが停車していた。
自動車で言うところの「軽」。日本独自の小型乗用ロボット規格、軽乗用ロボットだ。その小ささからは想像できない機内空間で、なんと二人乗りを実現している。
「SATHOロボットのニムジー500。日本でも最新型の軽でっせ。まぁ、RRPFが買うてくれたんで、俺の自腹はちっとも痛くあらへん」
またケラケラと笑う。
さぁ、そろそろ生徒たちが集まってくる時間だ。
現在南郷が教えている生徒たちは、日本だと高校生ほどの年齢である。彼らの吸収力は驚くべきもので、南郷の授業をどんどんクリアしていった。
いよいよ今日からは、実車での模擬運転だ。
南郷はガラにもなく、少し気を引き締めた。
ダダダダダッ!
緑のカーペットに無残な銃痕がうがたれる。
機関砲だ。草原の破壊度を見ると、おそらく弾丸は20ミリだろう。
南郷と米山が乗る軽は、格納庫の奥で外の様子をうかがっていた。降りているシャッターのスキマから、軽の前方カメラレンズでのぞいてみる。
村をじゅうりんする三機の黒い二足歩行ロボ。
「おい、ありゃアイアンゴーレムや。なんであんなもんがこの村に来とるんや?!」
「たぶん……人質を取るためか、人身売買か」
南郷の顔が怒りにひきつった。
「米山さんはここで降りて、助けが来るまで隠れておってください」
南郷の言葉に、米山が驚愕の表情になる。
「南郷さんはどうするんですか?!」
「俺は……学校へ行きます」
粗末な木造の校舎では、今日も生徒たちが南郷が来るのを待っているはずだ。
それを見殺しにするなんて、南郷にはできるはずもなかった。
「軽じゃかないませんよ!相手は軍用ロボットですよ!」
南郷がニヤリと笑う。
「そりゃやってみないと、分かりまへん」
「分かりますって!こっちには武器もないじゃないですか!」
「一か八かってやつですわ」
「そんなぁ……」
軽から降りる米山。
シャッターのスイッチを「開く」に入れる。
「ご無事で」
「了解や!」
南郷はそう叫ぶと、格納庫から最高出力で飛び出した。




