第130話 迎撃体制
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
ピッ!
対袴田素粒子防衛線中央指揮所内に、スマホを切る音が響いた。
「どうでした?」
「不可能ではないとのことだが、やはり時間がかかると。おそらくセンドラルの落下までには間に合わないだろう、とのことだ」
雄物川所長の言葉に、その場の全員が肩を落とす。
「そうですよね。ヒトガタの出動でさえ簡単ではないのに、ミサイルを発射してくれなんて」
久慈教官が苦々しげに顔を歪めた。
現在刻々と地球に落下しつつある宇宙ステーション・センドラルは、袴田素粒子に感染している。なんとしても地上への到達を阻止したい。そこで、防衛省とのつながりが深い雄物川から、その旨を問い合わせたのだ。
「能力的には問題ない。イージス艦のSM-3ブロックIIAなら、ロフテッド軌道の弾道ミサイルでも迎撃が可能だからね。だが、」
雄物川はそこでひとつため息をついた。
「国会の承認なしに発射するとなると、総理の命令が必要となる。我々の政治力では、そう簡単にそこまではたどり着けんよ」
「どこに落ちるのかが分からない今、下手すると全世界の危機なんですけどね」
久慈もため息をもらした。
「もし迎撃が難しいとすれば、どんな手があるのでしょう?」
愛菜が雄物川を見つめる。
雄物川は、少し逡巡してから愛菜を見返した。
「なんとか早く落下時間と場所を特定して、その国に警告を出す……我々にできることはそれぐらいだろう」
指揮所内の空気が重くなっていく。
その時、コンソールのディスプレイに映し出されているセンドラルの光点が明滅を始めた。
「すごい加速だわ」
「どういうことだね?」
愛菜がコンソール上の操作パネルにあるパッドを、トントンといくつかタップする。
「スラスターの噴射なんですが、断続的だったので姿勢制御を行なっていると思っていたんですが、この出力だと、どんどん加速することになります」
「と言うことは?」
「あっという間に、ポイント・ネモを通り過ぎてしまうかもしれません」
久慈が、そっと小さく手をあげる。
「あの……」
「どうしました?」
「日本に落ちてくる可能性はあるんでしょうか?」
再び操作パッドをタップする愛菜。
画面にセンドラルの予想進路が赤い線で表示された。
「まだ、どこに落ちるのかは分かりませんが、予想される進行上に日本列島があることは確かです。なので、可能性が無いとは言えませんね」
久慈の表情がさっと青くなった。
「所長、機動隊のキドロもここのヒトガタも、今奥多摩へ向かってます。もし関東で暴走ロボットが何台も発生したら、対処できるんでしょうか?」
「うむ。地方警察の機動隊にも、キドロが配備されているところはある。もしもの場合、それで対応することになるだろう」
ロボットの台数から分かるように、暴走の発生率は都会であるほど高い。そのため警視庁機動隊のロボット部隊・トクボは、より多くの場数を踏んでいる。暴走ロボットの制圧に慣れていない地方警察の部隊では、少し心もとないのではないだろうか。久慈はそんなことを思っていた。
「愛菜!」
コンソールからアメリカ人宇宙物理学者ダン・ジョンソンの声が届く。
「ダン、自衛隊はダメだったわ。そっちはどうだった?」
ISSとの通信では、0.5秒の遅延が発生する。
その一瞬がもどかしい。
ダンが通信画面の中でニヤリと笑った。
「オッケー取れたぜ」
「本当?!」
「この件は逐一アメリカ政府と軍に報告は入れているんだが、あっちでもコロラドのシュリーバー宇宙軍基地にある国家宇宙防衛センターで、センドラルの動向をずっと監視していたらしい」
「NSDCね」
「ああ」
NSDC・国家宇宙防衛センター(National Space Defense Center)は、アメリカ宇宙コマンドの部隊である。宇宙コマンドは1985年9月23日に設立された、宇宙空間での軍事作戦を専門に担当する米軍の統合軍のひとつで、ドナルド・トランプ大統領が設立させて話題となったアメリカ宇宙軍を含む多岐にわたる実働部隊だ。宇宙空間における安全保障及び経済活動の確保、敵対勢力からの保護、戦力投入などが主な任務である。
「NSDCが、スペース・コマンドの陸軍と海軍にも話を通してくれた」
宇宙コマンドには陸海空、そして海兵隊からも担当者が編入されており、何かが起こった場合には全軍で対処が可能になっている。
宇宙・ミサイル防衛司令部は陸軍、海兵隊宇宙司令部は海兵隊、艦隊サイバー司令部は海軍、第1空軍(First Air Force)は空軍、宇宙作戦司令部は宇宙軍の担当となっているのだ。
「後は、落下地点が分かれば、海軍のイージス艦が向かってくれることになった」
「SM-3ブロックIIAだな」
「そうです、雄物川さん」
この場の全員に、ダンの声がたのもしく聞こえていた。




