第128話 変形
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
東京湾に作られた広大な埋立地に広がる都営第6ロボット教習所。その校舎裏には巨大なヘリポートが存在する。普通のサイズではない。都会でよく見かけるのは、高層ビルなどの屋上に設置されているタイプだが、その数倍以上の面積がある。
「ここは世界初の海上タイプの教習所や。たまに偉〜い人が視察に来はるからなぁ、そん時にヘリポートがちっこかったらカッコ悪いやろ? ほんで、雄物川所長に頼んで、でっかいの作ってもろたんや」
南郷教官はそんなことを言っていた。
だが、今ひかりたちの目の前で繰り広げられている光景を見ると、最初からこのための広さなのではないかと思えてくる。
巨大なヘリポートに、巨大な輸送用ヘリが着陸していた。
ローターが回りっぱなしのため、荒れ狂う暴風が周りの木々を大きく揺さぶっている。
「すごい風ですぅ」
「さっきのヘリコプターより、大きいからかな」
奈々が長くてサラサラな黒髪を右手で懸命に抑えている。
「屁こきブタ〜」
「それもあるが、巨大なローターが2つもあるからだと思うぜ」
「あれなんや? こっちに来るで!」
格納庫の方から、ぱっと見では何なのかが判別できない鉄の塊が二つ、ヘリポートに向かって来ていた。
「ありゃあヒトガタだぜ、ベイビー」
「ヒトガタって、この前ひかりが暴走させた?」
「私が暴走させたんじゃないもん!」
「最初に暴走したのはひかりでしょ」
「トホホのホ〜」
昭和の香りだ。お父さんが考古学者だから?
両津の頭はすでにひかり菌に毒されていた。
「ヒトガタは移動形態に変形すると、あれになるんだぜ」
何かの軍用車両のようにしか見えないそれを、正雄はヒトガタだと言う。
「へ、変形するんか?! スーパーロボットみたいやん!」
「へ〜ん、けいっ!」
ひかりが両手をぶん回す。
「それは変身ですわ」
「返〜信!」
髪をバサバサとなびかせながら、ひかりがスマホをタップする。
「宇宙検事、野蛮!ですぅ」
愛理も変身ポーズをとっている。
「ヒトガタがすごいのは、非常時にはああやって自走できることだぜ。もちろん世界初の機能さ」
「トラックとかトレーラーいらんやん!」
「足首、ヒザ、腰、頭部を折りたたんで、ほぼ四角くなる。で、スネのあたりから車輪が出てくる」
「カッチョいい〜!マジでアニメのロボットやん!」
両津は正雄の説明に夢中である。
ヒトガタの接近につれ、ヘリの後部ドアがゆっくりと開いていく。
「あれ、開いていくわよ」
奈々の指摘に正雄がニヤリと笑った。
「CH-47JAチヌークの後部ハッチは、それ自体スロープになって車両などがそのまま乗り込めるようになっているんだぜ、ベイビー」
「すげ〜」
「髭〜」
ひかりがアゴをさすっている。
「僕は、すげ〜、って言ったんや」
「ハゲ〜」
ひかりが頭をさする。
「もうええ!」
「もげ〜」
今度はどこもさすらない。
両津には最近気付いていることがあった。
遠野さんのいつもの反応って、他人より音に敏感なのかもしれんなぁ。
誰かが言った言葉を敏感に捉えて、似た言葉を反射的に言う。
そう言えば擬音にもよく反応するよな。
オノマトペとかに。
ちょっとやってみるか。
「オノマトペ!」
「おのまとぺ〜!」
やっぱり。
オノマトペはフランス語の「onomatopée」で「擬音語」や「擬態語」のことだ。音や声を人間の言語でそれらしく表した言葉、もしくはその状況を思わせる言葉などのことを言う。
遠野さんは感覚的に鋭いからこそ、そんな言葉たちに反応するのではないだろうか?
まあその他の行動はどう見ても鋭いとは言い難いのだが。
「天然で鈍感、の方が似合っとるけどなぁ」
両津がそうつぶやいた時、自走してきた車両タイプのヒトガタが、チヌークのスロープを登り始めた。
「どこへ運ぶのでしょう?」
奈央の疑問はもっともだ。
ヒトガタはつい先日、レスキューロボットの代替機として陸自から貸し出されたばかりの機体である。それがもう返却になるのだろうか?
そんな疑問の答えが見つからない中、二機のヒトガタはチヌークの格納庫へと乗り込んでいった。




