第125話 モールス信号
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「ちゃんと気付いてくれよなぁ」
後藤は、奥多摩山中の黒き殉教者のアジトで、トイレにこもっていた。
そろそろ機動隊のトクボ部隊がこちらに向かっている頃だ。
これまでに後藤が得た情報の中で、最も重要なものだけでもなんとか伝えたい。
「これ、脇の下がかゆくなってくるなぁ」
ブツブツと愚痴を言いながら、左の脇の下をトントンと右手の人差指で弾く。
「こんな思いつきがうまくいったら、めっけもんだけどよぉ。そん時ぁ内調に、通信方法として正式採用させて、アイデア料をたんまりいただくってのもいいかもなぁ。まぁ成功したら、だけどよぉ」
苦笑する後藤。
「そろそろ出ないと、だな」
あまり長時間ここにいると、アジトの奴らに怪しまれかねない。
ただ、このアジトに連れてこられた直後、後藤は厳しい身体検査を受けていた。文字通り、素っ裸にされて全身くまなくチェックされたのだ。拳銃やナイフなどの武器、そして盗聴機などの電子機器を持っていないか疑われたのだが、もちろんそんな検査は楽々パスしていた。後藤も内調も、ぬかりがないのである。
後藤は左の脇をポリポリとかくと、シャツの乱れをしっかりと直し個室を出た。
「長かったじゃねぇか、何か小細工してたんじゃねぇだろうな?」
見張るためについてきていた浦尾が後藤をにらみつける。
「こんな所に連れて来られたんだ、出るもんも出なくなっちまぅぜ」
ひょうひょうと答える後藤。
「それに、俺がな〜んにも持ってねぇことは、あんたもよく知ってるだろぉ?」
ニヤリと笑った後藤に、浦尾がけっと吐き捨てるように言う。
「まぁいい。ミーティングルームに戻るぞ」
「へいへ〜い」
後藤はのんきな声でそう答えると、トイレを出ていく浦尾の跡を追った。
「田中くん、それはどういうことだ?」
中央高速を奥多摩へとひた走るトクボ指揮車で、白谷が美紀に聞いた。
「後藤さんからのGPS信号ですが、二分ほど前から途切れ途切れになり始めました。それを見ていたんですが……」
美紀がディスプレイの光点に人差し指を当てる。
光の明滅に合わせて、トントンと拍子を付けたように叩いていく。
「トントントントン、一拍あいて、トントン……」
美紀がパッドに、その信号の様子を書き出していく。
「和文符号ではないようですね」
花巻が言う。
「欧文符号か?」
美紀の指の動きを見つめながら、佐々木もつぶやいた。
モールス符号は、短点と長音の組み合わせによって文字や記号を表す電信用の符号であり、それを使った信号のことをモールス信号と呼ぶ。アメリカの画家でありニューヨーク大学の教授であったS・F・B・モールスが1832年に考案したもので、電気信号がオンになっている時間が短い短点「・」と、オンの時間が長い長点「-」の2種類の符号の組み合わせで言葉を伝える仕組みだ。
「ここからは繰り返しのようです」
美紀のパッドには不思議な記号が羅列されていた。
『・・・・、・・、-、---、--・、・-、-、・-、・・・--、-・-、・・』
「欧文符号だとすると……」
美紀がその下に、アルファベットを書いていく。
「H、I、T、O、G、A、T、A、3、K、I……」
パッドを持った手を伸ばし、読み上げる。
「ヒ・ト・ガ・タ・3・キ、ヒトガタ3機です!」
一同に驚愕が広がった。
「そんなものまで持っているのか?!」
白谷の叫びに、佐々木が眉をひそめる。
「あれだけ厳重に管理しているのに、どこから設計図が漏れたのでしょう……」
「乗用ロボットの部品は数千です。その全ての製造工場を管理することは不可能かもしれませんね」
花巻が佐々木に顔を向けた。
「その話は後だ。今は、これにどう対処すればいいのか、だ」
白谷が語調強くそう言った。
三機のアイアンゴーレムと、二機のガーゴイルに、陸自の最新装備25式人形機甲装備、通称ヒトガタ三機が加わったのだ。はたしてキドロ三機で太刀打ちできるのか?
指揮車内は重い雰囲気に占領されていた。




