第124話 監視用ドローン
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「監視用ドローン、奥多摩山中に入りました」
機動隊のロボット部隊、トクボ指揮車内に田中美紀技術主任の声が響いた。
今回のトクボチームは、機動ロボットのキドロを搭載した巨大なトラック、キドロトランスポーターが三台と、トクボ指揮車が一台の計四台である。だが指揮車は、いつものロングタイプのハイエース型ではなく、大型バスほどもサイズのある特別仕様だ。より多くの弾丸やキドロ用バッテリーの搭載が可能なタイプである。
四台は今、中央高速を奥多摩を目指してひた走っていた。
「内閣衛星情報センターから、付近の衛星写真が届きました」
内閣衛星情報センター(Cabinet Satellite Intelligence Center)は、外交・防衛などの安全保障や大規模災害などの危機管理のために必要な情報の収集を目的として、2001年に設立された。内調の佐々木が所属する内閣情報調査室に置かた組織で、情報収集衛星の開発・運用や、衛星が収集した画像の分析などが主な仕事である。
佐々木が、自分のスマホを操作して指揮車内のPCとその画像を共有する。
美紀、白谷部長、公安の花巻、そして佐々木もコンソールのディスプレイに目を向けた。
何枚かの写真を並べ、目を凝らしていく。沢集落近辺のほとんどは、緑の森に包まれていた。
「ここに何かありますね。拡大します」
そう言って美紀がコンソールを操作すると、衛星写真の一部が大きく表示される。
「これは……何かの建物ですね。コンクリート製?」
「50年前に廃村になった集落のものとはとても思えないな」
木々の間から見えているその建造物には、どこか真新しさが感じられた。
「他には何かないか?」
「衛星写真で分かるのはこれだけです」
「よし、この場所にドローンを向かわせろ」
「了解」
白谷が佐々木に向き直る。
「内調が衛星画像の分析をやっているのは知っていましたが、ここまで詳細なものをお使いとは」
「必要ですから」
表情も変えずにそう言った佐々木の隣で、花巻が肩をすくめる。
「たまにはこっちにもその情報、使わせてくださいよ」
「それは私ではなく、内閣情報官に言ってください」
「田代さんですか?」
「ええ」
「あの人は事務次官級ですからねぇ、私なんかが直接お話できる相手ではないですよ」
佐々木が珍しくニヤリと笑った。
「私もです」
そのやりとりを、美紀の声がさえぎった。
「もうすぐ沢集落跡に到達します」
ドローンからの映像はまだ森の木々で緑一色だ。
だが突然、まさに秘境と言える森が開け、以前はたくさんの人々が暮らしていただろう廃村に出る。朽ち果てた家々。苔むした井戸の跡。打ち捨てられた生活道具たち。
だが、それを超えるとすぐに無骨な四角い建物が見えてきた。壁はコンクリートの打ちっぱなしで、何の塗装も装飾も無い。
「さきほど衛星から見えていたのはこれのようです」
「これは……格納庫に見えるな」
白谷の言葉に、一同が目を凝らす。
美紀が手動で、ドローンの高度を下げていく。
無造作に開かれたその扉に、ゆっくりと近づいていく。ここで発見されたら、トクボ部隊の急襲に気付かれてしまう。慎重にゆっくりと……。
「何かありますね」
見えた!あれは闇売買されている軍事用ロボットだ!
三機のアイアンゴーレムと、二機のガーゴイル、そしてブラックドワーフの部品もあるらようだ。
「ビンゴですね」
美紀の言葉に、一同がうなづく。
「後藤さんのGPS信号と同じ場所ですか?」
佐々木の指摘に、美紀が何かの操作をする。
画面にオーバーレイされて、GPSの位置情報が表示された。
「ちょっとズレていますね。この位置まで、ドローンを向かわせて下さい」
「はい」
ドローンはゆっくりとその場所を離れ、後藤の脇の下に埋め込まれたマイクロチップ・インプラントの示す位置まで移動していく。
廃村から舗装もされていない道をしばらく進む。
「何だあれは?」
そこには不気味な形をした鳥居のようなものが立っていた。その向こうには、磨き上げられたような真っ黒な階段が続いている。
「この奥なのか?」
「いえ、ゴッドさんはもっと西方向にいるようです」
そして見えてくるいくつかの建物。木々の間に隠れるように、それらは建っていた。
「扉は閉まっていますが、さきほどのものから考えて格納庫ではないでしょうか」
「まずいな」
さっきの格納庫に五機、そしてここにも何機かの軍用ロボットが格納されているとすると、キドロ三機でどう対処すべきか?
「あれ……後藤さんからのGPS信号が」
あわてたような美紀に、全員が注目する。
「どうした?」
「信号が突然、途切れ途切れに」
ディスプレイ上の後藤の光点が明滅していた。
「ああ、申し訳ない」
佐々木だ。
「あれはとんでもなく精密な機械なのでね。ショックを受けると、電波が途切れることがあるんです。後藤さんにはお知らせしておいたので、注意して扱っているとは思うのですが」
「と言うことは、発信機の存在を気づかれて、ゴッドに何かあったのか?」
白谷のつぶやきに、美紀が何かを見つけたように声を上げた。
「これってもしかして……モールス信号?!」
どういうことだ?
指揮車内に不穏な空気が流れていた。




