第123話 協力体制
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「はじめまして。アイと申します」
その女性は、リモート会議の画面からそう自己紹介した。
教習所地下にある対袴田素粒子防衛線中央指揮所で、愛理の母・愛菜と陸奥、南郷、久慈、そして雄物川が、コンソールのディスプレイを息を呑んで見つめている。
「彼女は山下美咲さん。二年前に地球に帰還した惑星調査船、サン・ファン・バウティスタ号の元副長です」
リモート会議の画面は彼女の姿しか写してはいないが、そこから聞こえる袴田教授の声がそう紹介した。袴田とその助手たちは、UNH・国連宇宙軍総合病院の袴田素粒子感染症候群隔離病棟からノートPCでリモート会議にログインしているのだ。
「ですが、今しゃべっているのは、袴田素粒子のアイくんなのです」
「それはいったいどういうことなんだね?」
袴田の、その理解を超えた言葉に、思わず雄物川が問いかける。
「説明が長くなるので、今はかいつまんで話させて欲しい」
「もちろんだ」
指揮所内は重い沈黙に包まれている。雄物川たちはもちろん、さっきまで忙しく動いていた所員たちも、この異常な状況に呑まれていた。
「今私達は、国連宇宙軍総合病院の袴田素粒子感染症候群隔離病棟にいる。彼女は入院患者の一人なんだ」
「では、調査船で感染を?」
「はい」
それにはアイが答えた。
「あ、すいません、今は山下です。アイくんと交代しました」
指揮所内で、雄物川たちが顔を見合わせる。
「私は調査船サン・ファン号で火星の調査に向かう途中で袴田素粒子に感染、そのまま眠らされ、地球に帰還してすぐにここに入院となりました」
美咲は落ち着いた口調で説明を進める。
「その睡眠中に見た夢の中……と言うか、素粒子のアイくんが私の脳内に作り出した仮想空間で彼と知り合ったんです。ひとことで説明するのは難しいんですが、今このカラダには、私とアイくんの意識が同居している状態なんです」
美咲はひと息つくと、カメラ越しに指揮所の面々を見つめた。
「ここまでは理解していただけましたか?」
「ああ。混乱はしているが、あなたが言っていることは理解した」
雄物川のその言葉に、美咲はホッとしたように笑顔になる。
「ここからはアイくんに交代します」
ふと目を閉じる美咲。笑顔がスッと消える。そして再び開いたその目には、確かに違った自我が宿っていた。
「さて、今皆さんは、廃棄された宇宙ステーションの落下を観測していると思います」
「ああ、確かに宇宙ステーションが落下中であることは確認している」
「素粒子の感染は?」
少しの逡巡の後、雄物川が答えた。
「その確認も取れている」
「やはりそうですか」
今度はアイが逡巡する。
「では、その落下時間と落下地点は?」
「うむ、現在ISSとこの場所で、観測と計算によって割り出そうとはしているのだが、いまのところまだ不明だ」
アイが右手をアゴのあたりに乗せて考える。どうやら、物を考える時の、それが彼のクセのようだ。
素粒子にもクセがあるのか?
雄物川の心中に、そんな疑問が浮かんでいた。
「いいでしょう。私はまだ彼らの通信網に接続されています。私が得られる情報をお渡ししますので、協力して落下時間と場所を特定しませんか?」
指揮所内にざわめきが広がった。
袴田教授の説によると、袴田素粒子は人類、そして地球に対する侵略者の可能性が高い。そんな素粒子自身が協力を申し出ているのだ。
「君たちが混乱しているのは分かる」
その時、リモートの向こうから袴田の声が聞こえた。
「私もまだ全てを信じているわけではない。だが、彼が言うには、素粒子サイドも一枚岩では無いとのことなんだ。そして、彼と同一になっていると言ってもいい山下副長によると、彼からは誠意が感じられると」
「ありがとうございます、袴田教授」
アイが軽く頭を下げる。
陸奥が雄物川に振り向いてうなづいた。
雄物川もそれに返すようにうなづく。
「分かりました。私の責任で、あなたと協力体制をとることにします」
アイの表情が明るくなる。
「良かった。では、そちらにあるデータを、私と共有してもらえませんか?」
雄物川はコンソール前に座っている愛菜を見る。
「分かりました。ISSからのデータを、こちらのコンソールとそちらのノートPCとで共有します」
愛菜はそう力強く言うと、共有作業を始めた。




