第122話 スーツの男
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「後藤さん、あなたのご活躍はうかがっています」
黒スーツの男の言葉に、後藤がニヤリと笑った。
「俺は活躍なんかしてないぜ」
「おとぼけですか?」
「本当のことだ」
後藤が肩をすくめる。
「ダスク共和国で人身売買組織をひとつ、つぶしたそうじゃないですか。これを活躍と言わずになんと言えばいいのでしょう?」
スーツ男はおどけたようにそう言った。
「俺はただの傭兵だぜぇ、ちょっとだけ手を貸したにすぎねぇ」
「そうでしょうか?」
こいつら、俺のことをどこまで知ってるんだぁ?
まさか、今は機動隊の警部補でもあるってことまでは……知らねぇとは思うが。
油断ならねぇやつらだぜ。
後藤の背中に、嫌な汗が流れた。
「なるほどなぁ、あんたらダスクのシャンバラとつながってるってわけか」
今度はスーツの男がニヤリとした目を後藤に向ける。
「あなたなら、私たちと砂漠の勇者たちのつながりをご存知でしょう?」
「どうだかね」
黒き殉教者とシャンバラは、軍用ロボットの闇売買で手を組んでいる。後藤はそれを知ってはいたが、あまり自分の手の内を明かすのは得策ではないだろう。あちらの情報が少なすぎる現在、後藤は無知のフリをした方が有利だと計算していた。
内調が俺に渡した情報にゃあ、マトハルのことなんて書いて無かったじゃねぇか。
しっかりしてくれよなぁ。佐々木さんよぉ。
後藤は心中で、公安の花巻から聞いた名前で毒づいた。
「今回の私たちの奉仕は、とても重要なんですよ」
「奉仕だと?」
後藤がスーツ男にいぶかしげな目を向ける。
「あなた方が言うテロ行為のことです。私たちはその活動を奉仕と呼んでいます」
「やっぱり神社じゃねぇかよ。神主とか、神職の仕事って奉仕って言うんだろ?」
スーツ男の目が感心したように、ほんの少しだけ見開かれた。
「よくご存知ですね」
「じゃあ巫女さんもいるのかぁ?」
スーツ男の顔に薄笑いが浮かぶ。
「お望みなら、ここへ呼びましょうか?」
「お望みじゃねぇよ。聞いてみただけだぜ」
他に何人の人間が、ここにいるのか?
どう探るべきなのか、後藤は頭を巡らせていた。
「先程も言いましたが、今回の私たちの奉仕は、とても重要なんです。例の素粒子は、なかなか入手できる代物ではありません」
スーツ男の目が、チラッと石井の手にあるアタッシュケースを見た。
「大げさな兵器や爆発物を用意しなくても、効果的な奉仕を簡単に行なうことができる。もちろん、かかる費用は通常兵器の方がリーズナブルですけどね」
「そんなに高けぇのかよ」
「聞いたら驚きますよ」
なぜか嬉しそうにふふふと笑うスーツ男。
その表情に、後藤はわけもなく禍々しさを感じていた。
「後藤さん、あなたにオファーを出したのは、奉仕の成功率を上げるためです。私たちのロボットパイロットも腕が悪いわけではありません。ですが、あなたほどの操縦テクニックを持つものは、この日本には数人を数えるだけでしょう」
「おいおい、そりゃあ買いかぶり過ぎだぜ。ダスクじゃ、俺より凄腕のヤツとたくさん出会ったからな」
「それはダスクだからでしょう?平和ボケした日本とは比較になりませんよ」
つい先日、そんな凄腕たちと一緒にヒトガタを制圧したんだけどよぉ。
後藤はそう思い、思わずニヤニヤとしてしまう。
「ターゲットはもうお話ししましたか?」
「もちろんです!」
浦尾が元気よく返答する。
「東京ロボットショーの会場警備は、とんでもなく厳しいと言えます。私たちが得た情報によると、機動隊のキドロが、複数ある入口付近にそれぞれ張り付くようです。あなたなら、キドロが相手でも平気でしょう?」
警察の警備情報が漏れている?
内調や公安ならともかく、こいつらに漏れるのはヤバすぎるぜ。
「それは分からんだろがよぉ。俺をどんな機体に乗せてくれるかによるしなぁ」
突然、真っ黒な部屋が静寂に包まれる。
パチパチと護摩木の燃える音だけが、黒々とした空間に響いている。
スーツ男は逡巡した後、フッと息をついた。
「いいでしょう。奉仕の決行はもう来週ですし、機体にも慣れておいていただかないといけませんからね。後藤さんを案内してあげなさい」
スーツ男のその言葉に、浦尾、田村、石井の三人が立ち上がった。
「ではアヴァターラ様、例の報告はまた後ほど」
浦尾の言葉にスーツ男がうなづく。
「ほらこっちだ」
「ついて来い」
田村と石井も、後藤の前を歩き始める。
それは本殿から歪んだ鳥居をくぐった先、後藤の想像よりもずい分と大きな格納庫に隠されていた。
「ヒトガタだ」
浦尾が誇らしげな表情で後藤を見た。
25式人形機甲装備、通称ヒトガタ、陸自の最新鋭軍用ロボットだ。
しかも、それが三台も並んでいた。
まさか、もうコピー品を作っちまったのか?!
後藤の目は驚愕に見開かれていた。




