第120話 奥多摩の鳥居
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「おいよぉ、まだ山奥に入るのかよぉ?」
奥多摩の後藤たちは、ふたたび森深い山中に踏み入れていた。
さきほどまでいた廃村、沢集落もかなりの秘境だと言えるのに、そこからより深い森の奥に進んでいる。
「いいから黙ってついてきな」
先導する浦尾が、振り向きもせずにそう言った。
しまったなぁ。まだ他にも施設があるのかぁ?
そう思いつつ、後藤は苦虫を噛み潰したような顔で浦尾の後を追う。
「ゴッドさんよ、我々のアジトがあの程度だと思っていたのかぁ?」
後藤のすぐ後ろを歩く田村が、ニヤニヤしながら後藤に声をかけた。
「違うのかぁ?」
「あそこはここのアジトの入り口にすぎないのさ。敵襲があった時に、まずはあそこで防衛することになってる」
田村の後ろを歩く石井の手には、例のアタッシュケースがあった。
「それとなぁ、あんたみたいな新入りとか傭兵は、すぐには信用できねぇ。もし敵の手先だと分かったら、あそこで殺すことになってるんだぜ」
「もしあんたが盗聴機とかを持ってたら、一発アウトだったのさ」
石井が右手の親指を立て、自分の首のあたりで真横にスッと動かした。
そんな田村と石井に、後藤は肩越しに振り向き不敵な笑いを見せる。
「そんなもん持っちゃいねーぜ」
「分かってる。沢集落に着いてすぐ、あんたを素っ裸にしたからな」
「まぁ、見たくないものは見ちまったけどよ」
そう言って田村と石井は下品な笑い声をたてた。
10分ほども歩いただろうか。後藤たちの目の前がぱっとひらけ、森が無くなった。
いや、そうではない。ロボットや兵器の格納庫が、森林の間に数多く立っているのだ。
さすがの後藤も、驚きのあまり目を見開いた。
「おい、こりゃあ……」
これだけの数の格納庫だ。いったい何機の軍用ロボットを隠しているのか、見当もつかない。しかもそれぞれ格納庫の屋上は、ご丁寧にも森の木でカモフラージュされている。これでは、監視衛星でも発見できないに違いない。
「これでもここの規模は、日本のアジトじゃ三番目ぐらいなんだぜ。すげぇだろ」
よくもまぁペラペラと……。
後藤にとっては情報を得られてありがたいことだが、この三人からはどうも典型的なザコ臭がする。この場所にもっと上の人間がいるのではないか?
そう考えている後藤に、浦尾が呼びかけた。
「おい、まずはあっちだ」
浦尾が指差す方に目を向けると、そこには赤い鳥居が立っていた。
「ん?鳥居じゃねぇのか?」
それは鳥居では無かった。朱色に塗られた木材で作られてはいるが、その形は鳥居からはかけ離れている。門のような形状だが、左右非対称だ。枝のように左右に伸びた部分は禍々しく歪んでいる。
「ありゃあ何なんだ?」
「傭兵とはいえ、俺達と行動を共にするんだ。ちゃんとあいさつしてもらわねぇとな」
赤く禍々しい門をくぐり、その先の石段を登る。
やはり神社に似ている。だが、石段やその周りに立っている石灯籠のようなものは、全て真っ黒だ。しかも鏡のように周りを映し出している。
誰かが毎日磨き上げているのか?
後藤の想像は当たっていた。この石段は全てインド産の高級御影石で作られている。そしてこの社を守る信者たちの手によって、毎日のように磨かれているのだ。
「キレイなもんだろ?あんたの汚い顔も、しっかり映ってるぜ」
「明日はあんたにもみがいてもらうから、覚悟するんだな」
田村と石井の下卑た笑いが聞こえる。
石段を登りきるとそこには、神社で言う本殿と思われる大きな建物が後藤たちを見下ろしていた。切妻屋根に高床式の構造が、まさに神社の本殿のように見える。だが全く違っているのは、朱色なのはほんの一部分だけで、ほとんどは真っ黒なのである。こちらは石ではなく木材だが、タールのようなもので塗られているようにも見えた。
なんだか分かんねぇけどよぉ、こりゃあ禍々しいぜ。
後藤は嫌そうに顔を歪めた。
「さぁ、中に入ってもらおう」
「これって、入らないパターンは無しかぁ?」
田村が後ろから後藤の背中を強引に押した。
「無しだ」
「しゃーねぇなぁ」
後藤は嫌々ながら、浦尾に続いて本殿へ歩き出した。




