第117話 テロ計画
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「しかし、すげー場所にアジトを作ったなぁ」
黒き殉教者のアジトに後藤の声が響いた。
ここは奥多摩の山中、標高約600メートルにある廃村、沢集落だ。最後の村民が下山してから50年以上の時を経て、誰も訪れない秘境と化している。だがこのアジトは、小規模な軍事基地の様相を呈していた。
後藤たちがいる格納庫には三機のアイアンゴーレム、二機のガーゴイル、そして一機のブラックドワーフが立っている。闇市場で販売されている軍事ロボットの劣化コピーとは言え、どれも第一線で活躍できる代物だ。しかもここには軍用ロボット1〜2小隊の運用が可能になる十分な整備設備が整っていた。
「よくもまあ見つからずに、こんな施設を作れたもんだぜ」
「ゴッド様におホメいただくなんて、うれしいぜ」
黒き殉教者の一人、浦尾康史がニヤリと笑った。
「ホメてるんじゃなくて、呆れてるんだけどよぉ」
後藤が肩をすくめる。
「で、俺をこんな所まで連れてきたんだ。決行が近いってことだよな?」
この場にいる黒き殉教者の三人、浦尾、田村、石井が顔を見合わせた。
「俺を雇うってことは、今回のテロはお宅らにとって最重要ってことだ。俺は安くないからなぁ。なら、そろそろ計画のこと、ちゃんと聞かせてくれてもいいんじゃねぇのかぁ?」
「そうだな」
浦尾が田村に目配せをする。田村はそれにうなづいて、席を立った。
「今回のテロは、これまで世界でも例のない画期的なものとなる」
浦尾の言葉に、後藤がごくりとツバを飲みこんだ。
「あんたなら、最近頻発しているロボット暴走事故の原因は知っているだろう?」
「ああ」
「あれの原因となる素粒子をばらまく」
「ひでぇことを考えついたもんだぜ」
「そして……決行日は来週だ」
後藤が口笛を吹く。
「おいおい、もうすぐじゃねぇか」
「ビッグサイトで開催される東京ロボットショーを狙う」
後藤の額に、嫌な汗が浮く。
自動車の展示会「東京モーターショー」は2023年から「ジャパンモビリティショー」に名称が変更された。「東京ロボットショー」はその姉妹イベントではあるが、特に名称の変更は行われずに今日に至っている。
「ロボットショーには、新型やコンセプトモデル、他にも色んな自家用ロボットが1000台以上展示される予定だと聞いている」
「それが全部暴走するってわけか」
後藤は思わずつぶやいていた。
「1000台のロボットが人質ってこった」
石井がニヤリと笑う。
「さすがに、そんな事態は避けたいだろ?そこで日本政府に要求だ」
浦尾は一瞬間をおいてから、顔を輝かせて言った。
「宇宙開発の全面停止だ!」
両手を広げて、どうだと言わんばかりである。
「だがよぉ、どうやって素粒子をバラまくのかは知らねぇが、その場にいる俺たちのマシンも暴走しちまうんじゃねーのか?」
「安心しろ。そんなことが分からないほど、俺たちゃバカじゃないぜ」
「だといいんだけどよぉ」
「ここにあるアイアンゴーレム三機とあのブラックドワーフには、素粒子の感染を防ぐシールドが装備されてるんだぜ」
後藤の目が驚愕に見開かれた。
「対袴田素粒子防御シールドか?!」
「よく知ってるなぁ、やっぱりあんたは只者じゃねぇ」
対袴田素粒子防御シールドの存在は、まだ世間には発表されていない。現在はより確実に、より安価にを目標に開発が続いており、安定した運用が可能になればロボット全ての標準装備とする方向で政治が動いている真っ最中である。
「そんなもん、いったいどこから?」
後藤のつぶやきに、浦尾はアッサリと種明かしをする。
「上の話じゃ、イスラエルあたりの研究所が開発したらしいぜ。まぁ、日本製の軍事ロボットからのコピーって話しだけどよ」
スパイか?
陸自か、それとも宇奈月グループからの情報漏えいか?
「持ってきたぜ」
そこに田村が戻ってきた。ジュラルミン製のアタッシュケースを持っている。
いかにも怪しげだ。
「それは?」
後藤の問に、浦尾はアタッシュケースをゆっくりと開いていく。
中で、鈍く輝くステンレスの輝き。旋盤で削り出したようなステンレスだ。
そのカタチは円柱形で、500mlの水筒、真空断熱式のマグボトルのようにも見える。
「おい、まさかこいつは?」
「お察しの通りだ。この中に袴田素粒子が封印されている」
驚きとともに、そのシリンダーに手を伸ばそうとする後藤。
「やめろ!」
その手を浦尾がパチンと払った。
「こいつはひとつしか無いんだ。ここでバラまいちまったらどうするんだ!」
なるほど、たったひとつしか入手していないのか。
後藤はその重要な情報に、心中でニヤリとほくそ笑んだ。
「また手に入れればいいじゃねぇか?」
「これはシールド発生機と一緒にここに届いたんだ。また手に入れるとなると、イスラエルかどっかの外国からの輸送になる。それじゃあ来週のロボットショーに間に合わなくなるじゃねぇか!」
「へいへ〜い」
後藤はひょうひょうとした声をあげて手を引っ込めた。
ロボットの数、テロのターゲット、素粒子、そして決行日、これだけ分かればじゅうぶんだぜ。
後はお嬢ちゃんを待つばかりだ。
急いでくれよぉ、お嬢ちゃんよぉ。
後藤の表情に、不敵な笑みが浮かんでいた。




