第114話 ヘリコプター
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
冬晴れである。
東京湾の埋立地、東京24区に温かい日差しが降り注いでいる。ポカポカとして、真冬とは思えないのどかさである。
そんな少し暖かい日差しを求めて、ひかりたちは都営第6ロボット教習所の玄関前広場でくつろいでいた。時間的には授業の真っ最中のはずだが、なぜか突然自習になったのだ。
「せっかく太陽出てるんや。広場のベンチで自習しよ!」
そんな両津の言葉に、もちろん全員が賛成した。それぞれ交通法規の教科書とノート代わりのパッドを手にここへ来たのである。
「今日は珍しくあったかいね!」
ひかりがそう言うと、ここにいる全員、奈々、マリエ、奈央、愛理、両津、正雄がうんうんとうなづく。もちろん誰ひとり教科書を開いてはいない。例によって雑談タイムとなっていた。
「こんな日を何て言うか知ってる?」
奈々が皆を見渡す。
「そうですわね……小春日和?」
奈央がちょっと首をかしげる。
「甘いわね」
奈々がにやりと笑った。
「確かに、ちょっと前なら小春日和と言いたくなるんだけど、お正月も過ぎたし、冬日和って言うのが正しいわ」
「ほえ〜」
「泉崎さん、物知りやな」
「小春さんって誰ですかぁ?」
愛理の言葉に、一瞬の沈黙が訪れる。
そして大爆笑。
相変わらず、このメンバーでおしゃべりするのは楽しい。
その時、正雄が空を指差した。
「おい、あれを見るんだ、ベイビーたち!」
そこには一台のヘリ。青い機体に真っ赤なラインが縦に入っている。
「ありゃ、おおとりだな」
「寄席の?」
たまには両津もボケてみた。
「いや、紅白歌合戦のだ」
正雄がボケをかぶせてくる。
「デラックスマンに変身する、」
「おおとりゲン!」
奈央と愛理は素でボケているようだ。
「あのヘリコプターの名前でしょ?」
ちゃんと泉崎さんが突っ込んでくれた!
両津はホッとひと安心だ。これで永遠と続くボケの海で溺れなくてすんだのだ。
「そう、あれは警視庁警察航空隊のヘリだぜ」
「知っとるんやないかーい!」
今度の両津は突っ込みだった。
「私、警察のショーで見たことあるわ。たぶん警視庁のヘリよね」
さすが警察一家である。
奈々のその言葉に正雄がうれしそうにニヤリと笑った。
「そう!ベル・ヘリコプター・テキストロン社が開発した汎用ヘリコプター、ベル式412EPさ!ベル・エアクラフト社のベル 212の発展型で、日本じゃ防災航空隊、警察航空隊、海上保安庁で使われているぜ、ベイビー!」
ロボットだけでなく、正雄はメカ一般に詳しいのだ。
「警察さんって、何かあったのかなぁ?」
ひかりが心配そうにつぶやいた。
「ヘリポートに行ってみぃひん?」
両津の言葉に、一同校舎裏へと走り出した。
「ありがとうございました!」
伊南村愛菜は白衣をひるがえしてヘリを降りる。
四枚のブレードが1分間に約200回転して巻き起こす強烈な風である。
愛菜は移動中もずっと考えていた。
ISSに残っているアメリカ人宇宙物理学者のダン・ジョンソンと、フランス人宇宙生物学者レオ・ロベールからの連絡で、異常な動きをしている人工衛星のことは把握していた。
「休暇中に悪いが、ちょっとおかしな衛星があることを知っておいてくれ」
「今コチラで識別ナンバーから、どの国のどの衛星なのかを照会中だ。分かったらまた知らせる」
正月明け早々の連絡だった。
ある衛星が、ジワジワとその高度を下げている。
本来は落下しないはずの高度にあるにもかかわらずだ。
そして今日、東郷大学の袴田研究室から連絡が入った。
おそらく、これは偶然の一致ではないだろう。
そこでここへとやって来たのである。
「あれ?お母さん?」
ヘリを見物にやってきたひかりたちの中から、愛理の声が聞こえた。
「あの白衣の人、愛理ちゃんのお母さんなの?カッコいい〜!」
「デキる女って感じですわね」
「伊南村さんとはあんまり似てへんなぁ」
両津がチラリと愛理を見て言った。
「どうせかっこ悪いですよぉ!」
「だいじょうぶだよ、愛理ちゃんは可愛いもん」
ひかりのフォローがあまりお気に召さないらしく、愛理はぷくうっと頬をふくらませていた。




