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第112話 めざめの時

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

 UNH(UNCF general hospital)国連宇宙軍総合病院の最寄り駅は、JR中央線・総武線の御茶ノ水駅と、東京メトロ丸ノ内線の御茶ノ水駅だ。JRだと御茶ノ水橋口、地下鉄からは出口1を出て、どちらからも徒歩5分の距離にある。

 UNHは厚生労働大臣の承認を得ている特定機能病院であり、高度な医療の提供や開発等を行なう病院として、救急医療を含め入院も可能な体制にある巨大病院だ。

 1838年(天保9年)に開設された江戸の診療所から始まり、20世紀後半には国連宇宙軍の指定総合病院となった。また、一般的な診療科のみならず、日本及び世界の袴田素粒子感染症の研究においてリーダーシップをとっている。

 後藤が奥多摩の廃村へ向かっている頃、ここUNHの袴田素粒子感染症候群隔離病棟に数名の研究者が集まっていた。

 このフロアのチーフドクター牧村陽子。そして東郷大学袴田研究室から、袴田伸行教授、助手の遠野拓也と小野寺舞の四人である。彼らの他にも、この病院のドクターやナースたちが数人、コンソールの前で何事か作業をしていた。

「あれからずっと、彼女の脳波と素粒子の反応をモニターし続けているのですが……こちらのグラフを見て下さい」

 四人が見つめるディスプレイには、互いに呼応するような動きをし続けている波形があった。

 陰圧感染隔離室のベッドに寝かされているのは、惑星調査船サン・ファン・バウティスタ号の元副長、山下美咲である。なぜ「元」なのかと言うと、サン・ファン号が地球に帰還したのが今から二年前のこと。地球到着時に袴田素粒子に感染していた彼女は、それからずっとこの病室で眠り続けている。

「彼女がここへ来てからの二年間と比較して、ここ数ヶ月の変化が著しいんです。もちろん、先生のHEEGを導入したからこそ分かった、ということもあるかもしれませんが」

 HEEG袴田脳波計は、感染者の脳波から袴田素粒子の反応を取り出し波形にする機能を持っている。この最新医療機器のおかげで、袴田素粒子感染症候群の治療は飛躍的に進歩しようとしてた。

「以前ここへ来ていただいた時にお話したように、もしこの波形が、彼女と素粒子の会話を表しているのだとしたら……」

「その内容を確認したい。ですよね?」

 袴田の言葉に、陽子はうなづく。

「それで彼女を起こしてみることにしたんです」

 今回の集合は、その状況を確認するためなのである。

「午前中から起床のプロセスを始めたので、そろそろ目覚めてくれると思います」

 全員がガラスの向こうの美咲を見つめる。

 彼女の腕からは、何本もの点滴チューブが伸びている。そしてその頭には、多数の電極を持つヘッドホンのような袴田脳波計のセンサーキャップがかぶせられていた。


「美咲さん、どうやら目覚めの時が近いようです」

 美咲はサン・ファン号の自室にいた。AIコンピューターのアイくんから、ここで待機しているのが望ましいと聞いたからだ。

「それって、ドクターが私を起こそうとしているってこと?」

 美咲はアイくんがいれた紅茶を楽しみながらそう聞いた。アイくんが味を知っているダージリンのアールグレイ、もちろんホットである。

「そうです」

「それじゃあ、あなたから聞いたことを話さないとね」

「よろしくお願いします」

 美咲はふむと小さくうなづくが、少ししてその顔を上に向けた。

「でも、信じられないことがたくさんあるじゃない。ちゃんと分かってもらえるかどうかよね」

 もうひと口、紅茶を飲む。

「私だって、あなたから聞かされたときは理解が追いつかなかった。信じてもらうには、どう話せばいいのかな」

 思案げな美咲に、アイくんが珍しくほんの少し明るめの声で言った

「大丈夫です。美咲さんは賢い人ですし、恐らく人類社会において信用がある方のはずですから」

「大げさね」

 美咲は少し微笑んだ。


「覚醒します」

 陰圧感染隔離室前のコンソールを操作している白衣の男性研究者の言葉に、一同の目はベッドの美咲に向けられた。

 ゆっくりと目を開いていく美咲。

 じっと天井を見つめ、そして顔を隔離室を仕切っている大きなガラス窓に向ける。

 目が合った?

 ガラスの前で息を呑んで見つめている一同はそう感じていた。

「山下さん、私はドクターの牧村です。ここは国連宇宙軍の総合病院なので、安心してください」

 陽子の声がコンソールのマイクから、隔離室内のスピーカーへ届く。その言葉が聞こえているのかいないのか、美咲はゆっくりとカラダを起こしていく。

「落ち着いて、まずは深呼吸しましょう」

 その言葉に従うように、美咲は大きく深呼吸した。

「良かった、大丈夫のようです」

 陽子は、袴田たちを振り返ってそう言った。

「そのようですね」

「まずは状況を説明してあげた方がいいかもしれませんね。彼女が混乱しないように」

「私もそれがいいと思います!」

 拓也と舞がそう言った。

 陽子はひとつ深呼吸してから、再びコンソールのマイクに喋り始める。

「山下さん、あなたは惑星調査の途中で宇宙病に感染したんです。その進行を遅らせるために、サン・ファン号のドクターがあなたを睡眠状態にしました。地球に帰還後は、そのままここに運ばれて、約二年間眠り続けていたんです」

 一気に説明する陽子。その目をじっと見つめて、美咲は突然ニッコリと微笑んだ。

「はい、聞いています」

 一体誰に?

 一同の困惑を感じたのか美咲はベッドから降り、ガラス窓の近くまでやって来る。

「時間の感覚はよく分かっていないかもしれません。でもこの数日で、色んなことを聞きました」

 美咲は続ける。

「彼は、私とコミュニケーションを取るために、私の脳内に仮想空間としてのサン・ファン号を作り出してくれたんです。紅茶もおいしいんですよ」

「彼、と言うのは?」

 陽子の問いに、美咲が思案顔になる。

「なんと言えばいいのか……私の中では、彼はサン・ファン号のAIコンピューターなんです。名前はアイくん。あ、私がつけたんじゃないですよ、船を設計したエンジニアの方の命名です」

 そこまで言って美咲は、誰に話しかけているのか小声になった。

「やっぱり説明が難しいわ。アイくん、交代してくれない?」

 美咲の目がゆっくりと閉じられる。

 そして再び開かれた時、その目つきはさっきまでと全く違っていた。

「美咲さんと交代しました。アイです」

 声からも感情が無くなっている。

「間に合いました。今何が起こっているのか、説明させてください」

 あまりの状況に、美咲を見つめる全員の顔に驚愕が浮かんででいた。

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