第111話 山道の先
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「ここで降りてもらう」
後藤を乗せた車は、東京の芝浦から二時間以上走った後、静まり返った場所でゆっくりと停車した。
都心から車で二時間となると、北は宇都宮、西は熱海や甲府、東は千葉県のほとんどと、とんでもなく広いエリアになってしまう。いくらカンの鋭い後藤でも、自分がどこに連れて来られたのかを予想するのは難しい。ただ、芝浦の廃工場に止められていたのは、トヨタのランドクルーザーだった。フルタイム4WDシステムによる圧倒的な走破性能。この車がオフロードの王者と呼ばれるゆえんである。そのことから、後藤は舗装されていない山道に入るだろうとは予想していた。
後部座席のドアが開かれ、後藤は車内から乱暴に引き出される。もちろん、頭からかぶされた真っ黒な袋はそのままだ。
「ここからは歩きだ」
「どれぐらい歩くんだ?」
後藤の問いには誰も答えない。
とことん場所を知られたくないってわけかよぉ。
後藤は心のなかで舌打ちをした。だが、車を置いて徒歩で進むとなると、舗装どころか車では進めない細い道である可能性が高い。けもの道であってもおかしくはないだろう。後藤はここでひと芝居打つことに決めた。
「おっと!」
なにかにつまづいて道に転がる後藤。もしそこに岩でもあれば大怪我だ。一世一代とは言わないが、かなりの覚悟が必要な行動である。
「おい!大丈夫か?!」
黒き殉教者の浦尾が、後藤の腕を取り引き上げる。
「この袋、どうにかなんねぇのか?このままじゃまた転んじまうじゃねぇか。俺をどこに連れて行くのか知らねぇが、到着前にロボットのパイロットが怪我なんてしちまったらシャレにならねぇぜ」
浦尾康史、田村和宏、石井雄三の三人は顔を見合わせた。
仕方ないかとうなづいて、浦尾が後藤にかぶせられている真っ黒な袋に手を伸ばす。
後藤の視界が、パッと明るくなった。
そこは、まさに山奥と言うべき風景だった。後藤たちはその中をくねくねと走る細い山道に立っている。登山道だろうか?それとも林道か?
「ほら見ろ、こんな景色じゃ見えたって、ここがどこだかサッパリ分かんねぇじゃねぇか」
「だから外してやったんだ。さあ、行くぞ」
先頭を浦尾、次に田村、後藤をはさんで最後尾は石井だ。
歩きながら後藤は考えていた。
これから行く先には、おそらくこいつらのアジトがあるのだろう。しかもこれだけ警戒しているとなると、そんなに小さなものとは思えない。ヘタをすれば本部や本拠地ってことだってあり得る。もしかすると、こいつらの主力兵器、軍用ロボットの数台が隠されていてもおかしくはない。そんな場所へ行くのに、ここまで荒れた山道しかないなんて、ちょっとおかしくはないか?
俺にこの道を歩かせること自体が、目くらましのためなのかもしれないぜ。
後藤は油断の無いように、全身の神経を尖らせていた。
そのまま進むことおよそ一時間、いきなり後藤たちの視界がパッと開けた。それまで歩いていた山道から、突然広場のような場所に出たのである。
「ここは……廃村か?」
後藤たちの前に広がっていた空間には、崩れた木造の家が数軒。それも、ここ何年かで朽ちたものではない。おそらく、数十年単位の昔に打ち捨てられた村に違いない。
「どこだここはよぉ?東京から二時間で、こんなところがあるのかぁ?」
「詮索はやめろ」
浦尾が後藤にすごんだ。
「へいへ〜い」
それには全く動じず、後藤がひょうひょうと答える。
ボロボロの木造家屋。
緑に苔むした井戸の跡。
確かに誰かが生活していた痕跡もある。ヘコんだ鍋や一升瓶が足元に転がっている。子供用の玩具だろうか、プラスチック製の何かは、割れてはいても腐ってはいない。崩れたテレビのようなものがあるのは、当時は電気が引かれていたことを表していた。青い目のプラスチック人形が、後藤たちをうつろな目で見つめている。
「しかし、こんな場所でなにするんだぁ?」
「もう少し先だ」
廃村を進むと、すぐにそれが見えてきた。
朽ち果てた廃屋たちで隠れていたそれは、違法軍用ロボットの整備工場だ。表から見えるだけで、三機のアイアンゴーレムと二機のガーゴイルが立っている。ブラックドワーフの部品らしきものもあるようだ。
「違法ロボットが大集合じゃねぇか」
やっぱりだ。ここへ来るのにあんなに細い林道だけってことはなかった。こいつらを搬入したり、このロボットたちが出撃するのに必要な道路があるに決まっている。
「たいしたアジトだぜ」
後藤は不思議な高揚感に包まれ、ニヤリとした笑顔を浮かべていた。
「マップの分析が終わりました」
内閣調査室の男、佐々木の声が機動隊のロボット部隊、トクボ部の会議室の沈黙を破った。彼は手元のパッドを操作し、その画面を会議室に設置されたプロジェクターへWi-Fi経由で送る。すると会議室のスクリーンに、その画面が大きく映された。
「奥多摩の山中、標高約600メートルにある廃村、沢集落です」
沢集落は1972年(昭和47年)に最後の住民が下山した廃村だ。打ち捨てられてからすでに50年以上もの時間が過ぎ、この場所へ立ち入るものは誰もいない。
確かにアジトを構えるにはもってこいの場所と言えた。
白谷部長が内調の佐々木、そして公安外事四課の花巻にうなづく。
「よし、出動準備にかかれ!」
「了解!」
会議室内は緊張に包まれていた。




