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第110話 七草粥

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「すごい混み混みやなぁ」

 両津が感嘆のため息を漏らす。

「こりゃ、席を確保するのも大変だぜ」

 正雄はキョロキョロとあたりを見回している。

 正月気分も抜けてきた今日、都営第6ロボット教習所の学食は大いににぎわっていた。

 約50人の全生徒、教官や非常時に対応する救急隊員、対外的には事務員とされている白衣の研究員たち、そして教習ロボットの整備班などなど合計約100人、この施設のほぼ全メンバーが大集合している。松の内も明けた今日は、学食で七草粥がふるまわれるのだ。

 セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロ。

 この時期になるとテレビなどでもよく取り上げられる、春の七草を刻んで入れたお粥が七草粥だ。ちなみにスズナはかぶ、スズシロは大根のことである。

 早春早くに芽吹く七草は、古くから邪気を払うとされてきた。七草粥は無病息災を祈る伝統の食事であると共に、胃腸に負担がかからないお粥と一緒に食べることで、正月疲れが出はじめた胃腸の回復にも役立つとされている。七草は日本のハーブなのだ。

「ジョニー!両津くん!こっちこっち!」

 ひかりが立ち上がってブンブンと手を振っている。どうやらいつものメンバーで席を確保しているらしい。

「助かったぜ!」

「ホンマやで」

 両津と正雄が合流、ひかりたちのいるテーブル席に向かう。

 ひかり、奈央、愛理、マリエが二人を迎えた。

「あれ?泉崎さん、おらへんやん」

「俺のライバルさんはどこへ行ったんだ?ベイビー」

「奈々ちゃんすごいんだよ!七草粥作れるからって、調理場のお手伝いに行ってるの!」

 ひかりがなぜか誇らしげに、そのドヤ顔を二人に向けた。

「今日のお粥は、泉崎家のレシピなんだそうですわ」

「先輩すご〜い!」

 奈央も愛理も、ひかり同様に少し誇らしげだ。

「しかし教習所でお粥食えるなんて、ええセンスしとるわ」

「私、お粥もお菓子も大好き!」

「ひと文字違いで大違いや」

 みんなが笑顔になる。

「わたくし、こういう季節の行事って大切だと思うんです。最近では七草粥を食べる人は、全体の二割ぐらいに減ってしまっているらしいですわ」

「お菓子といっしょでおいしいのに〜!」

「ひと文字違いで大違いや」

 そう言った両津が何かを見つける。

「お!お粥、配り始めたみたいや!」

 一般的に七草粥は一月七日に食べるものである。今日はそれを少し過ぎてはいるが、ついでと言うことで鏡開きも同時にやってしまうことになっていた。教習所の正面玄関に飾られていた大きな鏡餅を七草粥に入れると言うのだ。鏡開きは毎年1月11日に、無病息災を願ってお供えしていた鏡餅を食べる行事のこと。 供え物に刃物を向けるのは縁起が悪いので包丁は使わず、木槌で叩いて割るのが正式だ。だが、「割る」という言葉も縁起が悪いとされ「開く」という言葉が使われるのである。

 もちろん、いくら玄関に飾られていた鏡餅が大きいとは言っても、100人分にはならない。つまり、餅のカケラでも入っていれば大当たりだと言える。今年の鏡開きは、そんな運試しの遊びでもあるのだ。

「お待たせ!」

 奈々が大きめのお盆に、全員分の粥を乗せての到着だ。小ぶりな茶碗とレンゲを、手際よくそれぞれの前に並べていく。

「七草粥よ、我が家の味をお試しあれ」

「おいしそ〜!いっただっきま〜す!」

 ひかりの笑顔が弾ける。

 レンゲでひとすくい。パクっと口に入れる。

「無くて七草!」

「なんじゃそりゃ?」

「それは七癖!」

 いつものやりとりを横目に、一同ひと口目を食べて、おや?と、表情が変わる。

「このお粥、とってもおいしいですぅ」

「そうですわね、とっても良いお味がついていますわ」

「見た目は普通の七草粥やのに、めっちゃうまいやん」

「もしかして、何か隠し味でも入っているのかい?ベイビー」

 奈々が両腕を腰に当て、不敵な笑みを浮かべた。

「正解よ!」

「出汁のうま味がしっかりと感じられますわ」

 普通七草粥の味付けと言えば塩のみであることが多い。だが泉崎家では、カツオや昆布の合わせ出汁と、いくつかの調味料を使っているのだ。しかも真っ白いご飯に刻んだ緑と言う美しい見た目を変えないよう、醤油など色のつくものは入れないのが奈々の流儀であった。

「調理場で、久慈教官にもホメられたわ」

「久慈教官も、お料理してたの?」

「うん、なにしろ100人分でしょ、私ひとりでなんて無理だから」

「奈々ちゃん、お料理できてすごいな〜」

 ひかりが羨ましそうにそう言った。

「ひかりだって、覚えればできるようになるわ。私が教えてあげようか?」

「ホント?!」

 ひかりがレンゲをくわえたまま勢いよく聞いた。

「食べながらしゃべらないの。ごはん粒飛んだわよ」

「えへへへ」

「今度うちに来る?私の家でお料理教室してあげる」

「やった〜!」

 そんな二人を、一同ニヤニヤ顔で見ている。

「あらあら、またイチャイチャが始まりましたわ」

「嫉妬ですぅ〜」

「Special Investigation Team!SIT!」

「それは警察や!」

 両津が正雄にすかさず突っ込んだ。

「ホンマにみんなボケ倒すよなぁ……お?!」

 両津の目が輝く。

「モチみっけ!これでおみくじの大凶は帳消しや!」

「いただき!」

 両津の椀からレンゲで餅を強奪する正雄。

「なんじゃそりゃー!」

 学食に両津の声が響き渡る。

「お粥、まだおかわりできるわよ〜!」

 久慈のその声に、このテーブルの全員が立ち上がった。

「食べま〜す!」

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