第108話 マイクロチップ
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「GPS発信機ですか。しかもマイクロチップの」
トクボ会議室内に白谷部長の声が響く。
「ええ、そうです」
「あなた方はいつも、そういうことを?」
「詳しくは言えませんが、」
内調の男、佐々木はそう前置きをしてから説明を始めた。
「我々の実働部隊は、ほぼ全員カラダのどこかにマイクロチップを入れています。GPSであることは珍しいですが」
米粒大のマイクロチップを自らのカラダに入れる。ちょっと前ならSF映画の設定のようなそんなことが、今では世界中で広がっている。
特に進んでいるのは北欧のスウェーデンだ。現在3000人を越える国民が、手の親指の付け根や甲に、マイクロチップを埋め込んでいる。この小さなチップにはクレジットカードなどで利用されているNFC機能があり、キャッシュカードになったり電車に乗ったり、家の鍵を開けることも可能だ。スマートウォッチがもう一歩進み、体内に入ってしまったようなものである。価格は一万円以内と手頃で、人体に特に害は無いと言われている。
また、毎年誘拐事件が1000件近くも発生するメキシコでは、誘拐対策に自分の子供にチップを埋め込むことが広がっている。もちろん世界中のスパイ組織が、この最新技術を放っておくはずはない。内調もしかり、と言ったところだろう。
「公安さんも、似たようなものですよね?」
そう言って目を向けてきた佐々木に、公安外事四課の花巻は苦笑した。
「でも、受信機ならともかく、発信機の方をそこまで小型化する技術があるなんて、私は聞いたことがありません」
田中美紀技術主任がいぶかしげにそう言った。
「どこの国の製品なのかは軍事機密扱いなので言えませんが、某国が成功した、と言うことです」
可能性があるとすれば、イスラエルあたりだろうか。
美紀はそう考えていた。
「後藤さんについてですが、移動が止まって目的地がハッキリするまでは、こちらからは動かないほうが良いと考えています」
佐々木がパッド上のマップを移動している赤い光点を見つめて言う。
「もしもこちらの動きを察知されたら、本当の目的地には向かわなくなると見ていいでしょうから」
「確かに」
「それには私たちも賛成です」
白谷と花巻も同意した。
後藤を乗せた車は、奥多摩山中をどんどん奥へと進んでいる。今のところ、その動きを止める気配は見せていない。
「では今のうちに、我々の間での基本的な情報を統一しておきたいと思います。私ども内調と公安さん、そしてトクボの皆さんの間で認識が違っていては大変ですからね」
そう言ってから、佐々木は内調が持っている情報を語り始める。その内容に関する認識に何か相違点があった場合、その場で指摘する、ということになったのだ。
まずは黒き殉教者について。
世界中に手を広げる国際テロ組織黒き殉教者。その思想は、人類が宇宙に出ることに反対すること。なので宇宙開発に先進的な国家は彼らのターゲットとなる。
だが、人々が持つイメージとは違い、黒き殉教者は海外ではなく日本で生まれたテロ組織だ。日本の宇宙開発が諸外国と比べ特に進んでいるわけではないため、これまで日本でのテロ行為を行ったことは無い。
今回のテロは袴田素粒子を用いたもの。そこで、袴田素粒子研究で世界でも先頭に立つ日本を、初めてターケットに選んだのだろう、そう推測ができた。
「彼らの思想の根源は、どこから来たものだと思いますか?」
佐々木の問いに、一同無言になる。
地球こそ人類の唯一の居住地であると叫ぶ、宇宙開発反対主義者……そこまでは皆の共通認識だ。だが、その思想の根源とは?
「マトハル教、ですね」
花巻がそう言うと、白谷も小さくうなづいた。
「花巻さんと白谷さんはご存知でしたか。彼らの思想は日本の古代宗教、マトハル教から来ているのです」
マトハル教のマトハルは、日本語の【纏はる】まとわる、から来ている。その意味は、まきつく、からみつく、絶えずくっついていて離れない、など。現在の「まつわる」の語源でもある。
日本の古代宗教は、仏教やキリスト教などの外来宗教の影響を受ける以前に存在していたとされる宗教のことだ。純神道、原始神道、神祇信仰などと言われる「古神道」がその主たるものだが、マトハルは、それらとも全く違う謎の宗教なのである。
「そこで、我々内調では黒き殉教者のことを、マトハル過激派とも呼んでいます」
佐々木がそう言った時、後藤の行方を表示しているパッドからピロリンというチャイムが鳴った。
「どうやら停止したようですね」
全員の目がパッドの光点にそそがれる。
「ここは?」
「たしか、50年以上前に廃村になったところではないかと」
佐々木の言葉に、会議室に緊張が走った。