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第106話 熊さんの太鼓

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

 薄暗い部屋に、いくつものディスプレイの光がちらついている。ここは都営第6ロボット教習所の地下に作られた袴田素粒子の研究用ラボだ。殺風景で何の装飾もないその部屋には、所せましと様々な機械やコンピュータ、測定器などが並んでいる。

 対袴田素粒子防衛線中央指揮所よりは上の階だが、厳重なセキュリティで入るものを限定していた。

「この数値を見て下さい」

 陸奥がディスプレイの1点を指し示す。

 現在この部屋にいるのは四人。陸奥と久慈、そして南郷。雄物川所長の姿もあった。

「これって、陸奥さんが予測していた通りですね」

 興味深げに画面を見つめる久慈が言った。

「そうやなぁ、ちゅーことは例の話が当たってるってことか?」

 南郷の声も、いつになく真剣である。

 雄物川が、ふむとひと息ついて陸奥に目を向けた。

「それで、君たちが言っている予測とか、例の話しってのは何なんだ?」

 三人の教官は見つめ合い、陸奥が口火を切る。

「実は、生徒たちの検査結果に少し気になることがありまして」

「ほんで、陸奥さんが中心になってちょいと深堀りしてみたんですわ」

「あまりにも突飛な仮説でしたので、所長に報告するのは、ある程度ハッキリしてからがいいのではと」

 久慈の目がディスプレイの数値へと戻る。

「なるほど。では、私に報告可能な程度には確信がつかめて来たのかね?」

「いえ、確信とまでは断言できないのですが」

 陸奥は少し言いよどんだが、意を決したのか雄物川に向き直った。

「先日の新型軍用ロボット、通称ヒトガタの暴走で、思わぬデータが手に入ったのです」

 戦場での作戦行動において、ロボット本体のコンディションと同等、いやそれ以上に大切なのは搭乗者の体調だ。最新鋭であるヒトガタには、操縦する者のバイタルサインを、リアルタイムで指揮車に送る、また記録する機能が備わっている。一般的な生命兆候である脈拍、血圧、呼吸、体温はもちろん、袴田素粒子感染症候群に備えて、機体内と操縦者体内の袴田素粒子を検知可能なセンサーも装備しているのだ。

「その動きがおかしいと?」

 雄物川の質問に陸奥がうなづいた。

「暴走したのは、あくまでも三台目のヒトガタでした。つまり、遠野と泉崎の乗ったヒトガタには素粒子は感染していません」

「それに、あの二人のヒトガタはシールドを起動しとったからなぁ」

「そうなんです。なので、機体内に袴田素粒子反応は全く記録されていない」

 そこまで言うと陸奥はふぅっとひと息ついた。

「ところがです。遠野のバイタルサインの記録を見て下さい」

 陸奥はディスプレイ上のグラフ群を指差した。

「これは?!」

 雄物川の驚きに、陸奥が苦しげに答えた。

「遠野の体内に、袴田素粒子反応があるんです。しかも、暴走がひどくなるにつれ、反応が大きくなっている」

 ディスプレイでは、ドローンが捉え続けたひかりの暴走の様子に、激しく増減するグラフの様子がオーバーレイされている。

「ほんで、泉崎くんの方にはそんなデータはあらへん」

「というのが、これまでに判明した事実です」

 その場の一同に一瞬、沈黙が走った。

 その沈黙を破ったのは雄物川だ。

「これは……遠野くんが宇宙病に感染しているということなのかね?」

「いえ、ここへ戻ってから徹底的に検査しましたが、遠野にその兆候は全く見られませんでした」

「では……袴田素粒子はいったいどこから?」

 雄物川の言葉にしばらく逡巡した後、ゆっくりと陸奥が話し始める。

「ここからは私の仮説、と言うか今の段階ではいち研究者の妄想、たわ言にすぎないかもしれません」

 一同の息を呑む音が聞こえた。

「このバイタルデータをより詳しく分析した結果、素粒子反応があるのは遠野の左脳あたりです。でも、感染はしていない……」

 陸奥は顔を上げ、三人をキッと見つめた。

「脳細胞のエックス染色体が、袴田素粒子と同様の効果をもたらしている可能性があります」


「奈々ちゃん!見て!見て!」

 ひかりと奈々の部屋に、軽やかな太鼓の音が響いていた。

「クマしゃんかわい〜!」

 兄の拓也からひかりに送られてきたクリスマスプレゼント、タンタンと太鼓を叩く鼓笛隊の熊の玩具だ。

「年末年始、何度も見てるじゃない。可愛いのは知ってるわよ」

 奈々は少し呆れ気味だ。

 大好きなお兄ちゃんからもらった大好きなクマの玩具。ひかりが夢中にならないはずはない。だが、正月が明けたというのにずっとタカタカと響き続ける太鼓の音に、奈々は少々参ってもいた。

「それにね、タイコの叩き方が増えたんだよ」

「増えたってどういうこと?」

「見てて!」

 ひかりが鼻歌を歌いだす。すると熊は太鼓のリズムをひかりの歌に合わせてきた。

 ひかりの歌が変わる。熊はすかさずそれに合わせてくる。

 最近のおもちゃってすごいのね、

 奈々は感心していた。

「ねえ、その熊の説明書って残してある?」

「うん、そこに落ちてる」

「ちゃんと拾いなさいよ。だからこの部屋、ひかりの側の半分だけ散らかってるのよ」

「てへへへ」

 奈々はいつものお小言を言うと、その説明書を拾った。

 ひと通り目を通す。

 おかしいわね……太鼓のリズムを変える機能なんて、書いてないわ。

 奈々は首をかしげたまま、楽しげにカラダを左右に振っている熊を、不思議そうな目でながめていた。

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