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第104話 ハッピーニューイヤー!

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「ハッピーニューイヤー!」

 たくさんの声がISS(国際宇宙ステーション)の娯楽室に響いた。と同時に、パンパンと言うクラッカーの音がいくつも轟く。

 昔なら、クラッカーから飛び出した紙吹雪や紙テープの掃除が大変になるところだ。なにしろ無重力では、そいつらがどこへ入り込んでしまうのかが分からないからだ。ISSにはたくさんの精密機器がそこらじゅうに溢れている。そんなもののスキマなどに入り込んでしまったら、とんでもなく面倒なことになってしまう。だが、現在のISSではセントリフュージ技術によって人口重力が発生しているため、パーティーの後片付けも地球上とほとんど変わらなくなっていると言えた。

「あっぶな〜、日付変更線を越えた瞬間に叫ぼうと思ったけど、こいつが速すぎて遅れるところだったよ」

 アメリカ人宇宙物理学者のダン・ジョンソンが言った。

「愛菜が日本列島を見逃した時の気持ちが分かるよね」

 そう言って、フランス人宇宙生物学者レオ・ロベールが笑う。

「しかし、毎日地球の周りを16回も回ってるなんて、なんだか現実味ないですよ」

 ダンやレオとは違うプロジェクトメンバーの日本人、野口守が苦笑した。彼はつい最近、ここに赴任してきたのだ。

「地上での訓練で知識としては知ってますけど、実際に体験すると面食らいます」

 守の参加プロジェクトは、運用が終了した古い人工衛星をモニターすること。

 人工衛星の中には次第に高度が下がり、やがて地上に落下するものがある。高度600キロぐらいまでは大気が存在するため、それ以下の高度を周回する衛星は空気抵抗のために徐々に高度が下がり、最終的には大気圏に再突入してしまう。おおよその寿命は、地球を周回する衛星(低軌道衛星)で2~3年、常に静止したように見える衛星(高軌道衛星、または静止衛星)で5~10年ほどと言われている。もちろんそのほとんどは大気圏突入の加熱で燃え尽きるのだが、中には国際協定に違反する大きなものや、その規格が定められる前に打ち上げられた古いものなどが地上に到達し、大きな被害を出す可能性があるのだ。そんな事態にならないよう、各衛星の動きを日夜モニターするのが守たちプロジェクトチームの役目なのである。

「今ごろ愛菜は、日本のお正月で娘さんと一緒なんだろうな」

「伊南村さんは休暇中でしたっけ?」

「ああ。滅多に無い休みだ。思いっきり楽しんで欲しいね」

 三人は、娯楽室のテーブルにたくさん用意されている新年を祝うごちそうに舌鼓を打つ。

「あれ……ちょっとおかしいな」

 守がふと目に入った壁のディスプレイに注目する。

「どうかしたか?」

 ダンとレオもその画面を見つめた。

「この赤く点滅してる衛星なんですが、徐々に高度が下がってきているんです」

「そろそろ寿命ってことだろ?」

 ダンがチキンを頬張りながらそう言った。

「いえ、この衛星の高度は約800キロなので、本来落下しないものなんですよ」

 ISSの高度は408キロ、そしてHSN・対袴田素粒子防御シールドサテライトネットワークの衛星高度は780キロだ。つまり、この衛星はシールドの上からそれを突っ切って落下しようとしているのかもしれない。素粒子をはばむシールドも、もちろん衛星のように大きなものを食い止めることはできない。

「愛菜がいないってのに、ちょっと面倒なことになってきたな」

 ダンはそうつぶやくと、自らのプロジェクトルームへと向かった。レオも後を追う。

「お二人とも、急にどうしたんですか?」

「いや、ちょっとヤボ用でね」

 もしもあの衛星が、袴田素粒子に感染していたら?

 二人の胸に、嫌な予感が走っていた。


「芝浦にこんな廃工場があったなんてよぉ、灯台下暗しってヤツだなぁ」

 後藤が国際テロ組織「黒き殉教者」のアジトを見渡してそう言った。

 小さな町工場の集合体のような一角に、この廃工場はある。町工場と言ってもそれなりの広さがあり、テロリスト御用達のロボット、アイアンゴーレムが三台格納されていた。

「だがよ、まだ正月だってぇのに、いきなりの呼び出しってぇのは、俺にのんびりするなってことなのかよぉ?」

 そううそぶく後藤に、真面目そうな男が目を向けた。

「年末年始、この界隈は全て休業だ。俺たちの活動にもってこいだとは思わないか?」

「ちげぇねぇ」

 そこには後藤の他に三人の男たちがいた。三人ともやけに目付きが鋭い。どう見ても、カタギとは思えない顔つきをしていた。

「なぁゴッドさん、だったか?日本人のあんたをゴッドなんて横文字で呼ぶのは、なんだかおかしな気分だな」

 そんな疑問に、後藤はひょうひょうとして答える。

「本名で呼ばれてサツに聞かれたらマズいだろ?それに、あんたらだってみんな本名を名乗っちゃいねぇんだろーが」

「そいつはそーだ」

三人の男たちはニヤリと笑った。

 三人はそれぞれ、浦尾康史、田村和宏、石井雄三と後藤に名乗っていた。もちろん、それが本名だとはとても思えない。コードネーム程度に思っておいたほうがいいだろう、そう後藤は考えていた。

「俺はあんたらを、どんな根拠で信用すりゃあいいんだぁ?」

「それはお互い様だろう」

 後藤は、テロの情報をつかむために、内調(内閣情報調査室)の依頼で黒き殉教者に潜入している。だが、この三人とは初顔合わせである。場合によっては、別の組織が黒き殉教者を名乗っている可能性だってあるのだ。用心に用心を重ねるのが後藤のいつものやり方である。

「いつもの連中と違って、俺とあんたら三人は初対面だろぉ?じゃあ何か根拠を言ってくれてもいいじゃねぇか」

 三人は顔を見合わせる。

「我々の組織が傭兵のあんたをスカウトしたのは、シャンバラでの活躍を聞いたからだ」

「ほう」

 後藤がニヤリと片方の口角を上げた。

 ダスク共和国の反政府組織シャンバラと黒き殉教者に思想の一致点はない。敵対こそしていないが、組織間につながりも無いとされている。だが、その闇の部分……軍用ロボット売買の分野では、実は裏で手を組むこともあるのだ。しかし、それを知る者はほとんどいない。もちろん後藤はその情報を持っていた。

「なるほど。信用できそうだぜ。じゃあ本題に入ろうじゃねぇか」

 後藤の声に凄みが乗った。

「今日俺を呼び出したのは何のためだ?」

「例のテロの決行日が決まった」

 浦尾と名乗った男の目がギラリと光った。

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