第1話 手紙
「超機動伝説ダイナギガ」の原作者ハビタこと土井武志です。なんとダイナギガが今年(2023年)25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。
『おにいちゃん、ひかりです。私は今東京湾の真ん中の、と〜っても広い埋立地の、そのまた真ん真ん中に来ています。2学期から学校の授業で必要になるロボットの普通免許を取りに来たんです。1学期の最後に先生が、
「遠野さん、今学期の授業中に免許取れなかったのあなただけなんだから、冬休みの間に必ず取得しなさい。さもないと、ひとりだけ進級できませんからね!」
なんて、眉毛を三角にして怒っちゃったんです。いつも優しい菊池先生なのに、その時はちょっとだけ怖かったです。
で「習ってニコニコ教えてニコニコ・たった十五日でロボット免許が取れる!」のテレビコマーシャルでお馴染みのニコニコロボット教習所にやって来たと言うわけです。
最初は、もっと近くの教習所にしようと思っていたんだけど、菊池先生がどうしてもここがいいと言って、私をムリヤリこの教習所の寮に入れてしまいました。
そんなわけで、ひかりは毎日厳しい教習に励んでいます。免許取ったら、ロボットでおにいちゃんの所へ遊びに行きますね! 待ってて下さい。
ではまたお手紙します。 ひかり』
ひかりはメールが苦手だった。いや、メールだけではない。パソコンそのものが苦手なのだ。だから兄への手紙はいつも、昔ながらの紙の便せんを使っている。
「こっちの方がカワイイもん。メールなんて味気なくて嫌い」
そうつぶやくとひかりは今書いたばかりの手紙を折りたたみ、可愛くキャラクター化された熊の絵が一面に描かれている封筒に入れた。もちろん手紙の模様とおそろいだ。ひかりが一番好きな動物は「くまさん」なのだ。
宛名書きの下に、お得意の熊の顔を書く。漫画のような吹き出しを付け、セリフは、
「ボク、くまさんでしゅ!」
そう書いておかないと、パッと見は恐らく誰にも熊だとは分からないだろう。ひかりは絵がとことん下手なのだ。だが、兄に手紙を書く時、ひかりにとって一番楽しいのがこの瞬間だ。この「くまさん」こそ、ひかりの自分らしさの表現なのだ。この絵を描いていると、自然に顔がニコニコになって来る。
封をして切手を貼る。
「これでよし!」
ひかりは立ち上がると手紙を上着のポケットにしまった。もう9時をまわっている。急がないと1時間目の教習に遅刻してしまう。
「奈々ちゃんひどい……私を置いて先に行っちゃうんだもん。でも、しょうがないか。私、今日も寝坊しちゃったし」
ひかりと同室の泉崎奈々は、この教習所きっての優等生だ。性格も成績も、ひかりとは対照的である。もちろん遅刻などとんでもない。鳴り続ける目覚まし時計を夢だと思いこんで、より深く布団にもぐり込んでいった今朝のひかりを尻目に、自分はさっさと支度をして出ていってしまった。
「これは朝ごはん!」
ダイエット中の自分に言い訳するようにひかりはそうつぶやくと、テーブルの上にあったチョコレートをひとつ、ひょいとつまんで口に放り込んだ。
「やっぱりチョコっておいし〜っ!」
口いっぱいに広がる幸せを感じながら、ひかりはカバンを手に部屋を駆けだしていった。今日は昨日までよりも少々難易度の高い、車庫入れの教習だ。