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ユオ


『しゃ、しゃべったァアアアアア!?』


『そりゃしゃべるよ』


『え、だって、え? 剣だよね?』


『剣でもあり生き物でもあるからね、ぼくは』


 バラバラなパーツの集合体なのに、どこかドヤ顔をしているように見えた。


『……どこから声出してんのそれ?』


『どこでもいいでしょ。それよりもぼくを綺麗な姿にしようとしてたんじゃないの?』


『まぁ、うん。でも気づいたらここにいたんだけど……ここどこ?』


『ここは、ぼくの魂の在処(ありか)だよ。シオンに見えているのがぼくの魂さ』


『え、お前の魂ってこんな見た目してんの』


『こんなとはひどい言い草だね』


 グチャグチャとした見た目なのに、何故かため息を吐いていることが伝わってくる。


『って、今気づいたけどお前が話してるのって日本語だよな?』


『そうだよ。シオンの思考は大体日本語だからね』


 そこから学習したと宣う剣の学習能力に驚くが、


『シオンの持ってるパッシブで発動するスキルは、ぼくにも常に若干はたらいてるのさ』


 とのことだった。【言語理解】で日本語を理解したようだ。


(自分もあの程度の例でウォーカー達の【波動言語】を習得できたんだし、思考がダダ漏れだったなら習得できてもおかしくないけど)


 こちとら10年以上かけて習得したものなのに。

 と思うと、この世界の〝スキル〟というものはまさにチートと言うべき性能だった。


『それで、綺麗にしてくれるんでしょ? 楽しみ』


『はいはい、やってやるよ』


 詩音は剣の魂に近づくと、ふわふわとした体毛の生えた部分に触れる。

 そして(おもむ)ろに唱えた。


『【眷属干渉】【肉体変化】』


『んくっ』


 異形の表面は(さざなみ)のように微かに揺れ動く。


 が、それ以上の変化は起こらなかった。


 かつて木の扉を対象に【自己鑑定】を使った時のような、規格の合わない感覚が鈍くある。


(肉体じゃないから【肉体変化】が効かないってことなのか……?)


『んっ。……できないのシオン?』


『うるさい』


(やるって言っちゃったからな。……それに体が動く限り、もう諦めるつもりはないし)


 方策は思いついていた。

 【肉体変化】の効きが弱いなら【眷属干渉】を強めれば良いのだ。

 眷属の魂も、その何もかもを掌握する。


『【眷属干渉】!』


 より強烈な発動を意識して、再度唱えた。


 理解できない概念を、ストッパーなしで脳みそに無理やり刻みつけられるような、そんな感覚が詩音に走る。

 だが、それをねじ伏せて理想の姿を描いていく。


(なんだ、案外簡単じゃないか……ただの立体版の福笑いだ、こんなもん)


『んぐッ……!』


 瞳は瞳のあるべき場所に。

 口は口のあるべき場所に。

 棘は一纏めにして(つの)に。

 グチャグチャな骨格を入れ替えて四肢を削り出し。

 翼も形を整えて背中につけてやる。

 尾もつけてやり、その全身を濡羽色の体毛で覆っていく。

 残りの要らないパーツは全て【貪食】で詩音が喰らってしまった。


 全ての工程を終えた時、詩音の目の前にいたのは一つの獣であった。


 ユニコーンでも、グリフォンでも、ペガサスでもない新たなる種族。

 犬と狐の中間の様な顔貌に嵌められた瞳は紅く輝き、その背には翼が一対。鋭い牙を人間における犬歯の部分に持ち、肉食獣の身体を漆黒の毛皮が覆っている。細くしなやかな尾がついており、その先は少し膨らんでいた。

 前世にも今世にも存在しなかった生き物が、そこに屹立(きつりつ)していた。


『はぁ、はぁ、シオン……』


『どうだ?』


『……ぼく、シオンみたいな人型になれると思ってたんだけど』


 詩音は異形を人型に作り替えていくのを想像してみる。

 が、すぐにその想像を打ちやめにした。


(いやいやいや、あのパーツから人型は無理だろ)


『……お前にはこっちの方が似合うと思ったんだよ』


『そ、そっか。ならいいや』


 剣はどこか納得したようで、それ以上は何も言わなかった。


 黙って下を向いている〝剣〟に詩音は声を掛ける。


『そういえば、ずっと〝剣〟って呼び続けるのもなんだから、お前に名前をつけようと思う』


『え、名前。くれるの?』


『ああ、ずっと考えてたからな』


 詩音は一拍置いて、告げた。


『──ユオ。お前の名前はユオ。夜っていう意味だ』


 剣──改めユオは、何度かその名前を噛み締めるように呟くとぱぁーっと顔を輝かせた。


『……ユオ、ユオ! それがぼくの名前なんだね! ありがとう詩音!』


『お、おう、大事にしろよ』


 あまりの喜びように少々気後れしてしまう詩音だったが、駆け寄って抱きついてくるユオを静かに抱きしめ返した。

 ユオの毛皮は想像よりももふもふとしていた。


 撫でようと背中に手を伸ばした時、詩音は頭部に鈍い痛みを感じ、手を泳がせる。

 

 本来できないことを無理やりやった反動が、今になって訪れたのだろう。


 意識がゆっくりと遠のいていくのを感じる。


『もう行っちゃうの?』


『外でも一緒だろ?』


『そうだね!』


 薄れゆく視界の中で、黒い尻尾が揺れ動いていた。




 (もや)がかった景色は薄れ、夜空が再び視界を埋め尽くす。

 いや、夜空というよりも夜明けの空という方が適切かもしれない。


 ぽっかりと森の中に開かれた空間にやさしく光が注ぎ込んでいく。

 少しずつ明るくなる空を見ながら、詩音は安堵していた。


(危なかった。結構な長時間無防備だったみたいだけど、何にも襲われてなかったみたいだ)


 今度あの〝魂の在処〟とやらにいく時は、安全が確保された場所でするとしよう。

 詩音はそう心に決めた。


 立ち上がろうとした詩音の隣でバイブレーションがする。

 そこには一つの剣が落ちていた。


 ユオである。


 刀身は以前と同じ見た目だが、鍔と柄は大きく異なっていた。

 混沌さは鳴りを潜め、すっきりとした柄に、鍔の中央にパチリとハマった紅い宝玉。それは元来ぎょろぎょろと動く瞳だったが、今では一見無機物のように見える。

 不気味さなど一切ない、美麗な宝剣がそこにはあった。


『ユオ、おはよう』


 【波動言語】で話しかけてみるが、応答はない。

 どうやら剣の姿では発声できないようだ。


 だが、持ち上げてみると振動でユオの心情が伝わってくる。


 できるだけ【波動言語】で話しかけてほしいとのことだった。


 その理由は伝わってこなかったが、断る理由もないので暇を見つけては【波動言語】で声をかけてやることにした。




 さて、一息ついた詩音は朝陽の注ぐ空間であぐらをかき、ある物を作ろうとしていた。


 それは外套。闇に紛れ、他者の目を欺く装い。


 闇に隠れ闇を纏う蛇狐の毛皮を素材に、作るのは全身を覆う外套。


 作るに至った経緯は以下のようなものであった。


 ユオの魂の在処から抜け出てしばらく、詩音の中の本能──主に【貪食】や【秘宝生成】辺りから何か訴えかけるような感覚を感じたのだ。


 それは〝蛇狐の毛皮はエネルギーとして使うより素材として使った方が有用だぞ〟と言ったようなものだった。


 そして、幸いにも詩音は毛皮を加工する技能を持っている。


 【秘宝生成】である。


 なにか今後役立ちそうなものをこのスキルで作ってしまいたい。


 しばらく考えてみた結果、思いついたのは身を包み隠すものだった。

 すなわち〝外套〟である。


 詩音の目標というのは結局のところダンジョンの支配から逃げ切ることである。

 ストライダーや、その他様々な生物と死闘を繰り返していて忘れそうになるが、第一目標はそれであった。


 となると、戦闘に必要なものというよりは戦闘を避けるものを作るべきだろう。

 そう思ったのだ。


 もちろん、戦闘に堪えるだけの耐久性は必要だ。

 だが、追求するのは隠れ潜む機能にしよう。


 そういった経緯だった。




 詩音は、作業に取り掛かる。


 まず、【貪食】がその胃袋に溜め込んでいる物の中から蛇狐の毛皮を見つけ出す。


 そして、毛皮が本来持っていた性質を捻じ曲げていく。


 地に隠れ、闇に潜み、闇色の霧を纏っていた蛇狐の毛皮から。


 森に隠れ、影に潜み、身体を見えなくする霧を纏う外套へと。


 かつての特質を歪ませ、求めるものとして再解釈していった。


 詩音は固めたイメージを、そしてその概念を強く念じる。


 側でユオがなにやら大きく震えているが、今は心を揺らがせない。

 外套を作ることに全ての集中を注ぎ込んでいく。


 そして唱えた。


『【秘宝生成】』


 詩音の体内で膨大な力が渦巻いた。

 蛇狐の毛皮に【貪食】で溜め込んだエネルギーが吸い尽くされていく。


 素材の見た目はそのままに。

 しかし、その性質は築き上げた概念に沿って再構成されていく。


 やがて、渦巻く力は一つにまとまり収束し、詩音は口からそれを取り出した。


 それは、一見ただの黒色のコートであった。

 縫い目が存在しないので、店売りの品と比べて(いささ)か不自然さはあるだろうが、特段変なところはなかった。

 強いて特異な点を挙げるならば、至るところにポケットがついていることくらいだろう。


 詩音はその物体を持ったまま、異能のツマミを回した。


『【眷属鑑定】』


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

◆名称

◇フォックスネイクの外套

◆分類

◇秘宝

◇装束

◆存在力

◇63

◆スキル

◇【偽装】

◇【影潜】

◇【霧纏】

_____________


 脳裏に浮かぶ情報。


(これが外套のステータスか。スキルもいくつかあるし悪くない。……って、え)


 何の変哲もなかった鑑定結果(それ)は、思考を逸らした隙に別物へと切り替わっていた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

◆名称

◇なし

◆種族

◇霧纏う闇霊

◇秘宝装束

◆状態

◇半混沌

◆称号

◇〖シオンの眷属〗

◆存在力

◇52

◆スキル

◇【偽装】

◇【影潜】

◇【霧纏】

◇【霧手】

◇【眷属】

_____________


 外套についたポケット、そのそれぞれから朧げな輪郭の白い手が溢れ出す。


 霧で構成された手は詩音を覆うように取り囲んでいった。


(襲い掛かられてるのかね……?)


 一瞬そう思ったが、どうにも敵意が感じられない。

 そも、霧の手に物理的な抵抗はほとんどなく、抜け出そうと思えば抜け出せそうだ。


 どうしようかと逡巡していると、白色の霧を上書きするように闇色の霧が広がっていった。


 詩音はそれに見覚えがあった。

 検証の際に見たユオの【闇霧】で間違いないだろう。


 闇色の霧が全てを侵食すると、その霧は一気に消失し視界が晴れる。

 霧の残った場所を見れば、作り出した外套が闇色の霧に包まれていた。


 何度か闇色の霧を突き破って白い霧手が飛び出すが、すぐに黒に呑まれて抑え込まれていく。


 少しして外套は沈黙し、ユオの【闇霧】も消失した。


 ユオが微振動を繰り返しているので持ってみると〝この外套に名前をつけてほしい〟とのことだった。


(何がどうなってるんだ……)


 頭痛がした。

 それはきっとユオを再構成した時の後遺症ではなかった。



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