眷属
考察多めです。
肉が傷んでもいけない。
気になることは多々あるが、一旦それらは脇に置いて蛇狐を食べ進めていくことにした。
図らずも血抜きがされている新鮮な死体だ。
さぞ美味しいだろう。
(火で焼いて塩胡椒でもかけられたらもっと美味しいんだろうけど)
横たわる死骸を剣で次々と切り刻んでいく。
皮を剥がしステーキ状になった肉を高速で口へと運んで行った。
食事の途中、ナイトオウルが外から飛んでくる。
ちょうど良かったので剣ですぱりと斬り落とし、スナック感覚でバリバリと食べた。
この身体には満腹という概念がないのか、いくら食べても限界が来ることはない。
現に詩音の百倍以上の体積を持つ蛇狐をペロリと平らげてしまった。
食べたものは一体どこに消えているのだろうか。
身体のどこかから排出される様子もないし、異次元にでも収納されているのだろうか。
ここでは前世の常識は通じない。
この世界ではそれが普通なのかもしれないな。
そんなことを考えながら、残された狐の頭部や皮もおやつとして食べていく。
肉よりも硬かったが、剣は問題なく切り裂いていった。
それらも全て食べ終えると、残されたのはポッカリと開いた荒れ野のみとなっていた。
完食である。
倒木に囲まれた円形の空間。
その中央に横たわり上を見上げると夜空が広がっている。
蛇狐を食べ始めてから、既に数時間が経過していた。
(……お腹も膨れたことだし、頭の痛い問題を解決していこうか)
剣を見ると、生物のパーツをごちゃ混ぜにしたかのような素材が柄の部分まで侵食してきている。
そして、その所々に金属質の棘が生えている。
詩音は現実逃避したくなる心を抑え、剣を対象に異能のツマミを回した。
『……【自己鑑定】』
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆名称
◇なし
◆種族
◇彷徨する闇獣
◇秘宝剣
◆状態
◇混沌
◆称号
◇〖シオンの眷属〗
◆存在力
◇128
◆スキル
◇【闇霧】
◇【脆弱化】
◇【眷属】
_____________
脳裏に浮かんだ情報の羅列を見て、詩音は頭痛がする思いだった。
(……なんか全然違うんだけど)
色々と気になることはあるが、最大の違いは自身のステータスと表記が近くなっていることだ。
以前見たものには種族の欄が無く、分類の欄があった記憶がある。
(より生物に近くなったってことなのかね)
詩音は自分のステータスと見比べてみることにした。
『【自己鑑定】』
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆名称
◇シオン
◆種族
◇ミミック
◇歩く者
◆状態
◇ダンジョンの支配
◆称号
◇〖勇者〗
◇〖異界からの尖兵〗
◇〖融合者〗
◇〖貪食者〗
◇〖秘宝剣の主〗
◆存在力
◇235
◆スキル
◇【隠密】
◇【自己鑑定】──【眷属鑑定】
◇【言語理解】──【波動言語】
◇【貪食】
◇【秘宝生成】
◇【光合成】
◇【侵食】
◇【肉体変化】
◇【眷属干渉】
_____________
(俺のもめちゃくちゃ変わってんじゃん……)
ここしばらくは、ステータスを見る余裕もないほどに切羽詰まっていて気が付かなかったが、随分と変化しているようだ。
(……気になるところを上から一つずつ考察していくか)
まず剣からまとめていこう。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆項目:名称について
◇器物から生物へと変化したためか名称がなしになっている。かつての自分と同じだが……これ以上の考察は自身の名称の分析時に行おう。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆種族:彷徨する闇獣について
◇今の剣の種族名のようだ。どのような種族なのかは不明。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆種族:秘宝剣について
◇元のステータス表記〝分類〟における秘宝、剣が統合されて生じたもののようだ。自身がミミックと歩く者の二種族に属するように、二つの種族に属しているようだ。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆状態:混沌について
◇生物のパーツをごちゃ混ぜにしたかのようなこの状態のことだろう。今はまだ剣身に侵食していないがどうにかしたいものだ。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆称号:〖シオンの眷属〗について
◇シオン……言わずもがなこれは俺のことだろう。自身の名称が〝なし〟から〝シオン〟になっていることには後で触れる。眷属というのは恐らく配下というようなニュアンスではないだろうか。謎が深い。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆スキル:【闇霧】について
◇使ってみてくれと剣に念じて見ると、体から黒色の霧を噴き出した。少しだけ力が抜ける感覚がある。逃走することがあれば、その際の目眩しに使えるだろうか?
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆スキル:【脆弱化】について
◇使ってみてくれと剣に念じて見ると〝できない〟と伝えるような振動が帰ってきた。やりとりを続けていくと、どうやら対象が必要なようだ。そこらの倒木を対象に発動し切りつけてみると、断面が脆くなりあっさりと切り裂かれた。剣としてはとても有用な能力だろう。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆スキル:【眷属】について
◇どうやら、剣がこちらの考えを理解できるのはこのスキルのおかげらしい。剣がそのような振動を出したのだ。【言語理解】のおかげなのか、振動のクセから剣の言いたい事が徐々に詳細に分かるようになってきている……。
_____________
(剣については一旦こんなものか。……次は、俺だな)
詩音は【自己鑑定】で表示された自身のステータスについて考察していく。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆名称:シオンについて
◇シオン──詩音のカタカナ読みなのは間違いない。問題は今までは〝なし〟となっていたものが何故シオンとなっているのか。そして、何故〝朽木詩音〟ではなく〝シオン〟なのか、だ。これは……恐らく剣が生物化した影響ではないだろうか。名称を決定するには自身で認識するのみではなく、誰かに認知される事が必要なのかもしれない。剣は俺のことを名字を含めず〝シオン〟として認識しているのだろう。
◇追記:名称の設定には認知が必要なのだとして、ならば、元の剣の名称は誰に認知されたものなのだろうか。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆状態:寄生の消失、及び称号:〖融合者〗について
◇寄生状態ではなくなり、〖寄生者〗が〖融合者〗となった。つまり、独立状態にあったミミックとウォーカーの肉体が癒着し、融合したということだろう。【肉体操作】が別のスキルに変化してるのもこれらが原因かもしれない。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆称号:〖貪食者〗、及びスキル【貪食】について
◇大食い、という意味だろうか? この称号の習得に伴い【捕食】が【貪食】へと変わっている。食べても食べても限界が来ないのはこのスキルを気付かぬうちに習得していたからなのかもしれない。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆称号:〖秘宝剣の主〗について
◇〖シオンの眷属〗と対になる称号だと思われる。この称号の獲得に伴い【眷属干渉】を習得したようだ。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆項目:存在力について
◇大きく伸びており、剣より100ほど多い。相変わらず細かい指標は謎である。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆スキル:【眷属鑑定】について
◇【自己鑑定】の眷属バージョンのようだ。〝──〟という表記は推測するに派生したスキルであることを表すのではないだろうか。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆スキル:【波動言語】について
◇ウォーカー達の使っていた言語のようだ。試しに使ってみると詩音もウォーカー達のように波動を放出し言葉を放つ事ができた。奴らを会話する日なんてくるのだろうか?
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆スキル:【肉体変化】について
◇【肉体操作】の上位互換のスキルだと思われる。いつの時点で獲得したかは不明だが、肉体を根のように変化させられたのはこのスキルのおかげだったのかもしれない。
_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆スキル:【眷属干渉】について
◇試してみると、どうやら自身を対象としたスキルを眷属に一部適用できるもののようだ。【隠密】を使えば剣の気配が希薄に。【光合成】を使えば少し艶が出る。そして、【肉体変化】を使えば……。
_____________
『【肉体変化】』
柄まで完全に侵食しきった剣の混沌を、【肉体変化】を使って整然とした状態へと整えていく。
濡羽色の剣体は綺麗に整えられていき、混沌さは鳴りを潜めた。
だが、【肉体変化】をやめてしまえば、直ぐに泡立つようにその混沌さが鍔や柄に現れていく。
もう一度【肉体変化】を試してみるが、解除すれば再び生物のありとあらゆるパーツをごちゃ混ぜにして金属質の棘を生やしたかのような混沌さが表出する。
詩音は、どこか不思議な手応えを感じていた。
(なんか、表面だけを撫でているような、一つの側面にしか触れられていないような、そんな感覚だ)
もっと内に秘めた部分を〝変化〟させなければこの混沌さは治らない、そんな気がした。
『……【眷属干渉】、【肉体変化】』
スキルの発動をより強く意識する。
もっと、もっと、深くまで。表面の奥の裏面。その更に奥。本質の本質にまで迫っていく。
干渉の限界。
深層の最奥に感覚が触れた瞬間、詩音は深い闇の中にいた。
(ここは……?)
明らかに現実世界ではない。上を見ても星空はないし、何より独特の浮遊感があった。
視界の見通しは良くないが、不思議と少し先にいる存在を捉えることができた。
薄暗闇の先には、微かに煌めく棘の生えた〝ナニカ〟が鎮座している。
それは、夢の中で見た異形。
あらゆる生体パーツをごちゃ混ぜにした容貌の怪物。
けれど、その存在と自身との間に確かな繋がりを感じてしまって。
詩音はそれが〝剣〟であることを確信した。
『……お前なんだよな。あの、剣の』
異形はブルリと震え、その身体のどこかから音を出した。
『そうだよ、シオン』
『え……』
『どうしたの?』
『しゃ、しゃべったァアアアアア!?』
詩音は こんらんしている!




