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自己鑑定


 〝剣〟は不思議なほどに身体に馴染んだ。

 黒い骨でできたソレを携え、詩音は歩き出す。


 血の匂いでゾロゾロと他の獣が寄ってきても困る。

 これ以上の考察は離れて行うべきだろう。


(一旦ダンジョン方面に戻るか)


 〝なぜかダンジョンの位置を理解できてしまう〟という事実に、詩音も忌避感を感じはする。

 だが、損得よりも感情を優先するほどに子供というわけでもない。

 詩音は、それを最大限利用することに決めていた。


 ダンジョンの方角へと最短の道のりで進んでいく。

 とはいえ、この人跡未踏の地においては、道というのは詩音の後ろにできるものなのだが。




 森を抜けると、そこは陽だまりであった。


(今回は何とも遭遇することなくダンジョン前へと戻ってくることができたな)


 詩音は付近を素早く見回す。どこにも敵影はないものの、用心して【隠密】は発動させたままだ。


 足音を立てないように、ゆっくりとダンジョンへと戻っていく。


 数十秒歩き、無事ダンジョンに辿り着くことができた。

 そのことにどこかほっとしている自分に苦笑する。


(ここから離れたくて飛び出したのに、戻ってきて安心しちゃうとはな)


 気を取り直し向かったのは、詩音がこの世界に来て初めて見た場所。


 岩肌に木の扉が取り付けられた、あの小部屋であった。


 扉を閉め地面へと腰掛ける。

 ここならば色々と落ち着いて考え事ができるはずだ。


(そうだ、まずは〝アレ〟をやってみるか)


 詩音は一つのフレーズを脳裏で念じた。


『【自己鑑定】』


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

◆名称

◇なし

◆種族

◇ミミック

歩く者(ウォーカー)

◆状態

◇ダンジョンの支配

◇寄生

◆称号

◇〖勇者〗

◇〖異界からの尖兵〗

◇〖寄生者〗

◆存在力

◇93

◆スキル

◇【隠密】

◇【自己鑑定】

◇【言語理解】

◇【捕食】

◇【秘宝生成】

◇【光合成】

◇【侵食】

◇【肉体操作】

_____________


(存在力以外には特に変わってない……か。逆に存在力は大きく伸びてるな)


 前回から3倍以上伸びている計算になる。


(仮に存在力が総合的な強さを指すものだとして、自分の数値だけが分かってもそこまで意味がないんだよな……せめて接敵した相手の存在力が知れたら有用な情報になりそうだけど)


 まぁ、できないことを高望みしても仕方ない。そう思って【自己鑑定】を解除しようと思ったその時、手の中の〝剣〟が何かを訴えているかのような感覚を覚えた。


 まるで己に【自己鑑定】を使えと訴えてきているような、そんな感覚を。


(……〝剣〟に【自己鑑定】は効かないでしょ、流石に。これが普通の鑑定とかならともかく〝自己〟鑑定だし)


 頭を振って常識外れの考えを追い出そうとするが、依然と〝剣〟は己に【自己鑑定】を使えと訴えてきている。


(……効かなくても損はない。ダメ元で使ってみるか)


 詩音は〝剣〟を対象にすることを意識して『【自己鑑定】』

と念じてみた。


 すると、脳裏に浮かび上がってきたのは……


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

◆名称

◇ナイトオウルの闇骨剣

◆分類

◇秘宝

◇剣

◆存在力

◇24

_____________


 このような情報の羅列であった。


(【自己鑑定】なのに浮かんでくるんだ……。この〝剣〟は俺の体から、俺のスキルで生み出された物だから、俺とみなして鑑定できる。そういうことなのかな?)


 詩音は立ち上がり、木の扉に向かって【自己鑑定】を発動しようと念じてみる。

 しかしスキルが発動する気配はない。


 まるで〝コンセントにUSBを差し込もうとしている〟かのような手応えのなさであった。


(実は【自己鑑定】は他のものも鑑定できましたというオチでもない、と。っていうことは、やっぱり俺の身体から生み出された俺の一部だから鑑定できるということなのか)


 そう考えてみると、確かに腑に落ちる。


 まるで手足の延長かのように、この〝剣〟は自然と手に馴染んでいた。

 だが、()()()、ではなく()()()手足の延長だったのだ。


(剣にも存在力があるのか。ということは単純な強さの指標というわけでもなさそうだな。それが24か。……初期の俺より上じゃん)


 現時点ではあやふやな指標ではあるものの、自身の初期値より高い剣に少しショックを受ける詩音。


 だが、正直どうでもいいことだったのですぐに気を取り直した。


(名称から考えると、この剣はあのフクロウの黒い骨でできてるみたいだ。予想はしてたけど)


 フクロウの黒い骨、それは記述によるとナイトオウルの闇骨と言うらしい。


 艶を持った黒いそれは、ナイトオウルの目を突き破る程度には硬い。


 剣を持ち上げて素振りをしてみる。

 留意点としては、この剣は先が尖っているだけで刃を持たないので、突き以外は棒としての扱いとなることだろう。


 ウォーカーの肉体は膂力が予想以上に強く、剣に振り回されることなく振ることができる。

 剣道などといった武術の経験はないが、幼い頃から培ってきたリズム感覚に沿って振っていく。


 上げては下ろし。

 下ろしては上げ。

 左から右へ。

 右から左へ。


 そこに少しずつ突きを織り交ぜていく。

 敢えて型にハマった動きを繰り返し、裏拍で突く。


 詩音は時間を忘れてその動きに熱中していった。




 そして、数時間が経ち、


(腹減ったなぁ。……飯でも食いにいくか)


 詩音は再びダンジョンの外へと歩き出した。




 作戦はこうだ。


 まず、ダンジョン周辺でウォーカーを探す。

 数匹いても構わない。

 敵の目を惹きつけ、ダンジョンへと誘導する。


 ダンジョンの入り口周辺は狭く、ウォーカーが一体通るだけで埋まってしまう。

 なので、そこからは一体ずつ戦うことができる。

 それを一体ずつ各個撃破していく。


 単純明快な作戦であった。




 ダンジョンの入り口に到着すると、詩音は【隠密】を発動させ飛び出した。


 陽だまりから森への入り口に、獣道が二つ。

 右方の道は詩音が先程作ったものである。


 その右の獣道の手前。そこには4体のウォーカーがたむろしていた。


 詩音は【隠密】を発動したまま、忍足で近づいていく。

 幸い、奴らの視界は獣道の方へと向いており、未だに気がつく気配はない。


 剣は限界まで長く持った。

 そして【隠密】を解除。距離を詰め、右手に持った剣を突き出した。 


 怪我は微かに負わせるくらいでちょうどいい。

 刺さったのを確認すると、詩音は全速力でダンジョンへと引き返していく。


 微かに振り返ると、後ろから怒声──今ウォーカーの発した波動を【言語理解】は怒りの声だと捉えたようだ──を上げて迫り来る3体の人影を、遅れてもう1体を視界にとらえる。


(こいつら、思ったより速いな!)


 詩音はダンジョンの入り口に到着すると、その入り口の縁を左手で掴み減速。

 バックステップで後退し、雪崩れ込もうとしていたウォーカーを、その剣で串刺しにした。


 弱った動きで頭へと突き出してきた相手の拳を首を傾けて避け、その右腕に喰らい付き、剣で滅多刺し。


 それだけでどうやらウォーカーは活動を止めたようで、力が抜け、詩音の方へと倒れ込む。

 それを敢えて受け止める。後方からもう一体のウォーカーが突入。抱き止めたウォーカーの体ごと剣で貫き、用済みになったウォーカーを手放し後ろへと蹴り飛ばす。


 どうやらこの剣で串刺しにするごとに、ウォーカーの動きは鈍っていくようだった。


(確かにあのフクロウ──ナイトオウルの爪で貫かれた時は俺も動けなくなったもんな。この剣にもその効果が引き継がれているのかもしれん)


 今はそれが都合よかった。


 剣を短く持って頭部に突き。ウォーカーは首を横に動かし回避。向こうも一歩踏み込んでくる。

 剣を両手持ちに切り替え、頭へとフルスイング。


 2体目のウォーカーの頭が凹の字にへこみ、奴は足をふらつかせる。


 胸元を思いっきり足で蹴り付けると3体目の体に衝突。

 ボウリングのピンのように倒れていく。


 2体目は足腰が立たなくなっているようで、入り口の先で倒れている。

 だが、ぶつかられた程度でダメージを受けるほど柔でもないようで、3体目はスイッチするかのようにそのまま突入してきた。


 どうやらこの剣を警戒しているようで、大げさに避けるような動きを見せている。

 詩音は少しゆっくりと一定のリズムで剣を振っていく。


 ウォーカーはそれを避けていくが、当たらない剣を見てその脅威を下方修正したのか、懐に潜り込もうとしてきた。


 そこで裏拍で顔面に突き。距離感の掴みづらい突きということもあり、いきなり速くなった剣速についてこれなかったウォーカーの顔面に風穴を開けた。

 動きの鈍ったウォーカーに、抜いては刺し、抜いては刺し、滅多刺しにしていく。


 3体目もとうとう動かなくなり、4体目に取り掛かろうと入り口を眺める。


(……あれ、いない?)


 だが、そこにはなんの気配も、人影も残されておらず、


 ──4体目のウォーカーは忽然と姿を消していた。






 歩き慣れた獣道を全速力で駆けて行く。


 ──化け物だった。同族の面の皮を被った恐ろしき化生(けしょう)。何体もの同族が、奴の恐ろしき黒い棒で打ち倒されていった。

 奴の武器は、忌まわしきリズィーエイクの眷属の如く、我らを弱らせていった。

 奴に刺された傷から徐々に力が抜けていくのだ。恐ろしいことに。

 しかし、何よりも恐ろしいのは、あのお方に賜った我らが肉体に、見るも悍ましき獣の如き口が、そして牙が生えていたことだ。


 弱った体に鞭を打ち、ただひたすら走り続けていく。


 足が棒になるほどに走ったその先、宿営地に辿り着くと衛兵に呼び止められた。


『おい、そこのお前。どうした、何があった!』


『皆恐ろしき化け物に……命を、命を絶たれました! どうか徘徊する者(ストライダー)様にご報告を!』


 あの化け物を、同胞の仇を討ち取らねば!

 我らが神からすれば木端であろうとも、神の御手を煩わせるわけにはいかぬ。


 討ち取るのだ! ネイヴィジュ様の名のもとに!



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