常識はずれな話とピエロ
異界の門が開いた。
静寂と暗闇。
満月の夜。
月明かりが映し出したのは。
一人のピエロだった。
「…あなた死神?」
『キミがそう思うなら、そうなんだろうね』
私が作りだしたピエロはそう答えた。そう、これは私が作り出した幻……私の心が作り出した幻影なんだから。
だけど、そうなら私は自分の思考力というか想像力に文句を言いたい…何故、ピエロ?私の短い16年の人生でピエロに関するエピソードを探してみたが全く思い出なんてなかった。
私の世界なら、どうせなら片想いの相手とか、好きなアイドルを登場させなさいよ。夢の中でさえ自分の思い通りにならない。
『それは困るよ、それはボクの仕事じゃない、それにキミがボクを呼んだんだよ、ボクだってこう見えて結構忙しいんだ、見たいアニメがたまっているんだ、依頼が無いなら帰るけど良いかい?』
私の想像物のくせに、創造主をもっと構ってよ…
「ちょっと待って、あなた私の病気…治せる?」
自分でも唐突に、しかもピエロに…何故こんなことを言ったのか分からなかったが、夢?幻?幻影?夢のなかだったら、叶わない事だって叶えてくれるでしょ?夢のなかでぐらい希望を持たせてよ。
そのピエロの仮面のせいで、表情は分からないが、ピエロは大袈裟に困った芝居を見せた。
『たまっているアニメはどうするんだいッ!?拷問だ、虐待だ、ママに言い付けてやる』
「そんな大袈裟な…たかだアニメじゃない、観れなくても死にはしないわよ」
『そっか、なら仕事をしよう』
そう言いと、私の患部に手を当てた。
「…な、なに?」
『静かに…すぐ済むから』
しかし、急に襲ったきた眠気によって意識が戻ったときには、朝になっていた。
夢の中にいたピエロを探したが、もちろん居るわけもなく…
今日も、昨日と変わらない今日が始まる。
しかし、数日後
今日は昨日と違う事が起こった。それは、私の病気が完治したことだった。余命一月と宣告されていた。担当医は、奇跡としか言いようがないと、中には余命を宣告されて数年長生きする人もいるそうだが、私の場合は、確定的な宣告だったため、医者の困惑ぶりに、私は何故か「すいません」と謝ってしまう始末だった。
数日後、私は無事に退院の日を迎えた。短い入院生活だったが、仲良くなった看護師さん達が私の部屋に来てくれ退院祝いをしてくれた。その場で、看護師が言った一言に私は、夢と現実の境が分からなくなってしまった。
「防犯カメラに映ってたピエロの人、まだ正体が分からないんだって」
「他の病院でも、防犯カメラに映ってた聞いたことあるよ」
「死神だったり?」
「それがね…ピエロが現れた後には、不治の病の人が治ってるって」
「だから、千里ちゃんも治ったとか」
「千里ちゃんッ! ピエロに会った?」
違う…あれは夢
「私は、知りません……」
『あッ! 良い忘れたけど、誰かにボクの事を話したら魔法が解けちゃうから気を付けてね、それでは楽しい人生を』