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4-9 もうすぐお別れ

「では、私は今から置物ですので」


 ツリーハウスの二階、クロエの部屋の扉の横に立つ黒い騎士服姿に身を包む近衛。彼はクロエに自らの事をそう説明した。


「はい、以前王城で見かけた、廊下に飾られていた甲冑の置物、あれの派生系だと思う事にします。いいですよね?」


「はい。それでお願いします」


 ニコリとクロエに微笑みかける近衛。クロエもそんな彼に応え軽く笑みを返す。


 普段はルカやココルと言った鳥類限定で居つかれる事の多いクロエの部屋。どうして鳥類に?という理由は至極簡単だ。クロエの部屋の天井には、ツリーハウスの土台となっている太い木の枝が見事にめり込んでいるからである。天井と同化したそれは、外にある太い幹から養分を吸い取り部屋の中で元気に枝を伸ばし生きている。鳥類にとってそれが自分の部屋にたむろす原因だとクロエは推測している。


 そしてそんな自分の部屋に居つくのは普段ならばルカ、ココル、クロエ。その三人しかいない。


 けれどちびルークと添い寝するという恐ろしく魅力的な権利の争奪戦が行われた結果、天使の一言「僕はクロエといっしょがいいな」という天使による啓示によりクロエが勝利を得る事となった。その結果夜になるとちびルークがクロエの温もりを求め部屋を訪れるのである。


 けれどちびルークある所に近衛あり。それは就寝している間も例外ではない。よってちびルークが就寝の為にクロエの部屋を訪れる時はもれなく近衛を引き連れてくるのである。


 そんな近衛の存在をクロエはルークほど気にならないわけではない。むしろ部屋の中を見張られているのは落ち着かない。けれど、彼らは二度とルークの身に何も起きて欲しくないと必死に任務をこなしているのである。


 ここ数日ちびルークから目を離すまいと必死に彼を警護する近衛達を見ていつしかクロエも「みんなルーク様が大好きなのね」と親近感が湧いてきていた。同じ推しを愛でる仲間――そう同担仲間なのである。


(お勤め、ご苦労様です。いざとなったら私もルーク様の為に全力を出しますので)


 クロエは心で先程の言葉通り、微動だにぜず気配を消し置物と化した近衛に敬礼をしたのであった。


「クロエ、ねぇ、まだこのモルフォ蝶を逃がしてあげないの?」


 頭からすっぽりと被るだけ、白い寝間着に着替えたちびルーク。

 彼は現在クロエが窓際に置いたモルフォ蝶の入った観察箱の中を背伸びをして覗き込んでいる。


「それがね、一度ルーク様、ええと、前に話した私のお友達のルーク様がここに遊びに来た時に見せてあげて、それからちゃんと逃がしてあげたのに、またこうやってここに戻ってきちゃったの」


 クロエはちびルークの隣にしゃがみ込んだ。そしてちびルークが観察箱の中を見やすいように自分の膝の上に彼を立たせた。


「じゃ、きっとクロエが毎日ちゃんと美味しいご飯をくれるから、クロエの事がすきなんだねぇ。僕と同じだ」


「そうだといいんだけど。って私もルーク様の事、大好きだよ」


 クロエは自分の膝の上に乗るちびルークを背後からギュッと抱きしめる。そしてそのままちびルークを抱っこしてベットに移動する。


「クロエ、今日も楽しかったね」


「そうだね。明日はルーク様、何をしたい?」


 クロエのベットに二人でゴロンと寝転がる。それから仲良く天井を向いてお喋りを楽しむ。就寝前、絶賛大人気中のちびルークを、独り占め出来る貴重な瞬間だ。


「んー、そうだな、明日も魔法の練習したいな」


「そっか、じゃ明日は野菜の収穫をしたら、お花を出す魔法の練習しよっか?」


 そう言えばルーク殿下に初めて見せた魔法がそれだったっけとクロエは懐かしく昔の事を思い出す。


(丁度今寝転がっているこのベットの上でルーク様に見せてあげたんだよね)


 あの時は目覚めたルークがクロエを見て死神だと驚いた。次いで魔女である事を告げたクロエをル―クが疑ったのだ。その事が悔しかったクロエは「本物の魔女の本気を見せてあげる」と意気込んだ。けれど攻撃魔法を部屋の中では使ってはいけないとクロエはアリアにきつく言いつけられていた。だからあの時クロエは、花を咲かせる可愛い魔法をルークに披露したのだ。


(思いの他喜んでくれて嬉しかった事、今でも覚えてる)


 クロエは次々と思い出すルークとの思い出に胸が熱くなる。


「お花のを教えてくれるの?いいの?あれ綺麗だから僕好き。昔練習したけど出来なかったんだ。それがとっても悔しくて残念で。だから嬉しいな」


「え、昔練習したの?」


「うん、昔クロエが僕に見せてくれたでしょ?魔女の本気を見せてやるってさ」


 クロエはドキリとして隣で寝転がるちびルークに体を向ける。

 目の前にいるちびルークは推定五歳。しかも今までのルークの記憶を持たないはずの真っ新な状態のルークだ。それに加え彼は魔法が使えない。


(もしかして、本来のルーク様の記憶と混同しはじめている?)


 クロエはその事に思い当たり何とも言えない辛そうな顔になった。


「魔女って凄いんだなってあの時僕は初めて魔法に感動したんだ。ありがとね、クロエ」


(まさか、もうすぐこの子とお別れ?)


 それは嫌だとクロエは泣きそうになる。けれどいずれ別れが来ることが正しい事なのだと言う事もちゃんと知っている。


(どうして二人のルーク様と一緒にいられないんだろう)


 どっちにも愛着があるクロエは悲しくなる。そして「やっぱり懐柔の魔法は最低の魔法だ」と心でルークにそんな魔法をかけた片目のイリスを恨む気持ちがどうしようもないくらい込み上げ、そのドロドロとした気持ちが外に出ないよう懸命に歯を喰いしばる。


 それからクロエは自分の気持ちを隠すように両手を伸ばしちびルークを後ろから布団の中で抱きしめる。


「ふふ、クロエ、あったかいや」


「うん、ルーク様もあったかい。心が物凄く温まる」


「絶対お花の魔法、僕に教えてね、約束だよ?」


「うん、絶対教えてあげる。約束する」


 クロエは自分の腕の中にすっぽり収まるちびルークを抱きしめながら、やりきれない思いを感じ、泣き笑いのようなそんな複雑な感情の波に呑み込まれていたのであった。


 それからしばらくして、ちびルークからすやすやと可愛い寝息が聞こえてきた。それを確認しクロエは魔法で部屋のランプを消灯する。そしてちびルークの呼吸音を聞きながらクロエは近い未来いつか来るさよならの日を考えないようにして目を瞑ったのであった。

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