81話 包まれた想い
布張りのテントが燃え、周囲にある木が燃えている。
燃える拠点の中央、その開けた場所にライオネル達がいた。
ライオネル達は骨で造られた磔台に固定されピクリとも動かず、全員の手足がもがれている。そして今まさに磔にされた1人のライオネルの首元目掛け、1本の剣が突き立てられた。
「な、何を……何をやってんだお前ぇぇ!!!!」
俺の声が周囲に響き、剣を引き抜きながらライオネルの眼前にいた何者かが振り返る。
ローブを纏いフードを目深に被り、ハーフマスクと呼ばれる目と鼻と頬の上半分のみの仮面を付けているが、骨格などから見るに恐らく男だ。
『があ"あぁぁ!!!……こ、殺してやる!!お前は絶対に、八つ裂きにしてやる!!!』
振り返った仮面の男の傍には、背中に何本もの剣を突き立てられ、地面に手足を剣で縫い付けられているゼノンの姿が見えた。ゼノンは咆哮と共に自らの手を無理やり剣から引き抜き、裂けた手を何者かに伸ばす。
それを見た俺はすぐに武器を抜き、仮面男に斬り掛かる。
ライオネル達やゼノンから距離を離すように立ち回り、すぐにミラを呼び出した。そしてその間にゼノンにはパーティ申請を飛ばしておく。
「ミラ回復しろ!!」
そう言いながら仮面男に斬り掛かるが、仮面男は何も言わず手に持った剣で俺の一撃を受け止める。ゼノン達から十分に距離をとったところで仮面男は大きく後方へ跳躍し、自ら距離をとった。
《あらら、これは面倒な事になりましたね。貴方も黄道十二メダルを狙っていたとは驚きです》
余裕を見せつけ仮面男がそう言うが、仮面男は不可解な事が多く喋っている内容が頭に入ってこない。仮面男はマップ上の反応ではプレイヤーと同じ反応を示し、NPCではないと思われるが、NPC達を攻撃しブラックリスト登録された独自のプレイヤーの反応でもない。
さらに不可解な事がある。
「あ"っ!?……お前、その声」
そう、この仮面男の口から聞こえた声は俺と全く同じだったのだ。
そして仮面男が手に持っているのは俺と同じ武器、ガンズブレイドだ。
《はは、今回は失敗ですかね。ここは素直に引くとしましょう。しかし誰もメダルを持っていませんでしね……まさかあのザコが……いやいや、そんなはずは……》
俺と同じ声でそう告げる仮面男は、独り言をブツブツいったあとさらに驚くべき行動を見せた。
なんと仮面男の体から光が飛び出し、巨大な漆黒のドラゴンが姿を見せたのだ。仮面男はそのドラゴンの手のひらの上に飛び乗ると、ドラゴンは翼を羽ばたかせ、巨体を宙に浮かび上がらせる。
《はは、引きはしますが、せっかくなので邪魔者は掃除しておきましょう》
仮面男はドラゴンの手の上でそう告げながら、自身の右手を空に掲げる。
(や、ヤバい!!!)
何故かは分からないがとてつもなく嫌な予感がした。すぐにミラと【同化】し、ある程度回復したゼノンを連れ【簡易転移石】を使用する。
そして……
《メ テ オ__》
仮面男のそんな言葉の途中で【簡易転移石】が作動し、俺達はホームへ転移した。
▽▽▽
「……クソがっ!!なんなんだよアイツ!!!」
ホームに戻ってすぐ、あまりの苛立ちに地面を殴りつけながら不満が爆発する。仮面男の何もかもが気に入らない。ちょっとした仕草や声、アイツがやった事、とにかく全てだ。
『……ゼル』
そんな様子の俺に、ゼノンが力ない声で俺の名前を呼んだ。
「ゼノン……お前……」
『すまない……最初アンタの事を疑ってしまった……アイツは__』
「待て、今は喋るな。ミラ、回復の続きを。あとは……」
『無駄だ……俺はもう助からない。回復もしなくていい』
「黙ってろ!俺が勝手に助けるんだ。ミラ、構わず回復を続けろ」
ミラも俺と同じ想いだったようで、ゼノンの静止を聞かずすぐに回復に取り掛かる。ゼノンの手足を貫いていた剣は転移前にすでに抜いているが、背中に刺さった剣はそのままだ。
出血も酷いようで、背中の剣はそのままにしてとにかく回復するように祈る。
「俺はあのクソ野郎を追いかける。ミラは残ってゼノンの治療を__」
そんな俺の遮るようにゼノンが語りかけてくる。
『……ゼル、聞いてくれ。俺は強くなりたい。せっかく分かり合えた仲間を殺したアイツを…………俺は、強くなりたい』
「分かったから今は黙ってろ!」
『ゼル……俺は、俺だけじゃこれ以上強くなれない……だからアンタの力を貸してくれ……俺を強くしてくれ。どんな奴も打ち破れる強い体を俺にくれ……誰にも負けない強さを俺に……』
訴えかけるように口を開くゼノンに、ミラが必死に回復を続けているが効果はないようで、次第にゼノンは足の方からゆっくりと光に変わっていく。
「ふざけるな!こんなところで諦めんなよ!お前が!お前の力でアイツをやれ!!それを俺が手伝うから」
『あぁ……ゼル…………俺を……強くしてくれ…………頼んだぞ』
そう言うとゼノンは背中に刺さったままの剣と一緒に光の粒となり消えてしまう。
「クソっ!!!こんなのって……こんなのってないだろ!!」
自然と涙が溢れ、俯きながら地面を叩きつける。
何度か続けていると、ミラが俺の腕の服を引っ張ってきた。そんなミラに視線を向けると、ミラは先程までゼノンがいた場所を指差した。
ミラの指差す方にゆっくり顔を上げると、そこには黄金の光を纏う半透明のメダルが浮いていた。
そのメダルにそっと手を伸ばす。手に取るとそのメダルが纏っていた黄金の光は失われるが、熱いと思えるほどの不思議な力がメダルに漲っていた。
「ゼノン……約束だ!俺が持つ全てを注ぎ込んでお前を強くしてやる。一緒にあのクソ野郎を粉々にしてやろうぜ」
―黄道十二メダル・獅子―
・強い想いが込められた獅子の力を宿すメダル。合成専用。
たった数日、しかしその数日の間にあったゼノンとの出会いから何があったか思い返し、ゼノンが何を望んでいたかを考える。
そして__
「……ゼノン、お前の望みは俺が叶えてやる。お前の想いは俺の召喚者となって自分で叶えろ」
俺は立ち上がり、ゆっくりと召喚の祭壇に向かう。
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