79話 思いがけない出会い
「……よしっ!気分を変えよう」
沈んだゼノンの雰囲気に引っ張られ、俺も少し暗い雰囲気になってしまっているが、俺が一緒に落ち込んでいてもどうにもならない。気分を変えて冒険を再開しよう。
「とはいっても、また雷鳴高原に行く気にはならないな……あっ、そうだ!」
ゼノンの事もあって今回は【雷鳴高原】をしっかり探索出来ていないが、再び戻って探索する気にはなれない。近場で探索がまだ出来ていない所がないかと思い返していると、あるフィールドの事を思い出した。
回復アイテムなどを補充し、ついでにお昼ご飯を食べてから【始まりの街】の外へ出る。
俺がこの街を中心に活動していた時に比べ、街にいるプレイヤーの数は飛躍的に増えており、まだ珍しいマシン型のライドを転送すると驚きの声が周囲から聞こえてくる。
大勢のプレイヤーの視線を浴びながら、ライドに乗って街を出発し向かったのは【始まりの荒野】の先にある【荒れた大地】というフィールドだ。
ここには以前ソロで探索に来たことはあるが、ユニークモンスターであるイアイタチとの戦闘や、敵のレベルが高くしっかりした探索はほとんど出来ていない。
到着した【荒れた大地】はカラカラに乾いた地面に枯れた木が所々に生えているだけで障害物になるような物はなく、かなり広い。そんな景色がずっと広がっている為、真新しい発見はないかもしれないが、過去に何度か来ている時に気になっていた場所と併せ広大なフィールドを巡ってみる。
「イアイタチは居ないか……」
まずは再戦を約束したイアイタチの居た場所に来たが、イアイタチは居なかった。再開には何か条件があるのだろうか……
再戦は諦め別の場所へ向かう。
「うーん、ライドに乗ってるとやっぱり敵に狙われるなぁ……かといって歩いて探索出来る広さじゃないし」
ライドに乗って移動している俺の背後を、岩石で出来た巨人や大型バスほどもある怪鳥、岩石を纏い巨大な何かの頭蓋骨を被った大型のサソリが追いかけてくる。レベルは全て40越えで、追いかけてくる様子は中々に迫力があった。
「殺っちまうか!」
ずっと追い回されるのも面倒だと思い、ライドを止めて降りると召喚者達が飛び出してくる。そして即座に【シリウス】を送還し、代わりに【ベガ】を転送する。
「アイツら殺るぞ!テラとレラはベガで時間を稼いでくれ」
岩巨人【ストーンエレメントLv43】はテラ達に【ベガ】で足止めしてもらい、怪鳥【ズ・ズーLv41】は俺とセラ、岩蠍【スカラピオーンLv43】はドラとミラ、といった形で分かれそれぞれ対峙する。
怪鳥は空高くは飛べないようで、低空飛行をしばらく続けた後は必ず着地するのだが、着地した後も素早く動き回り、走った方が速いくらいだ。そして巨大な翼で強風を巻き起こし、鋭い牙で噛み付いてくる。
アーツと通常攻撃を織り交ぜ、怪鳥のターゲットを俺に固定しセラに削ってもらう。強風に煽られている間に噛みつきの直撃を受けてしまったが、数発なら耐えられる威力だ。
俺は多少の無理をしたがすぐに怪鳥を倒し、そのままテラ達が足止めしている岩巨人に向かう。俺の防御無視とセラの魔法が抜群に刺さり難無く討伐、全員で残った岩蠍を取り囲みフルボッコにしてやった。
「皆強くなったなぁ……今じゃ分散して戦えるもんな!」
ボス以外でレベルが格上の相手と戦うのは久しぶりだが、かなり強くなった実感がある。この様子だと、この辺りの敵なら問題なさそうだ。だが油断大敵、探索は慎重にやっていく。
その後も敵と戦いつつ探索を進め、"気になっている場所その2"にやってきた。
ここはかなり【冒険の街】側に近い場所で、このフィールドで唯一緑がある、いわゆるオアシスと呼ばれるような場所だ。そのオアシス内には不気味な石像が二体存在し、見るからに怪しい。
ライドを降りて石像に近付くと、突然物陰から何かが飛び出してきた。
「あっ……」
「なんだプレイヤーか……あっ!ゼルさんですよね!どうもです」
飛び出してきたのは4人組のプレイヤーだ。
この【荒れた大地】で他のプレイヤーは全く見かけなかったが、装備などの見た目からしてかなり強いプレイヤー達だ。
「こんにちは。ここ探索しようと思ってたんだけど……」
「あー…………こっちにどうぞ」
1人のプレイヤーに先導されついていくと、二体の石像の間には地下へ続く階段があり、さらにその先には強固な金属扉がある。
「あの扉以外に、ここは何もありませんよ」
「そうなのか……ありがとう」
プレイヤー達を警戒しつつ階段を下り扉に手をかける。
【この先へ進むには条件が不足しています】
「ん?条件?……」
この扉の先に行くには何か条件を満たす必要があるようだ。ゲーム進行においてシステムメッセージが表示されるというのはこのゲームでは珍しいが、システムメッセージは絶対だ。何か条件を満たさない限り先には進めなさそうだ。
階段を引き返し地上に戻ると、プレイヤーに話しかけられる。
「入れなかったでしょ。あそこ制限があるんですよ」
「みたいだな。アンタらは入れるのか?」
「はい!今から向かいます」
「そっか!分かった、ありがとう」
人によって意見が変わるだろうが、このプレイヤー達はとても親切だ。探索したいという俺の気持ちを汲み取り、実際に俺が扉を確かめるまで詳細を話さないでいてくれた。
調べればすぐに分かる事だがネタバレしないように気遣ってくれたのだろう。
(システムメッセージと高ランクプレイヤー……多分レベル制限だろうな)
アイテムが必要だったり、何か仕掛けを解く必要がある場所などはシステムメッセージでは表示されない。となれば真っ先に考えるのがレベル制限、もしくは人数制限だ。他にも考えられることはあるが、とりあえず今は進めないということだ。
(そうなると別の場所を探索しようかな)
プレイヤー達と別れ、再びライドに乗って探索を再開する。
粗方フィールドを巡ったが他にめぼしい発見はなかったが、このまま帰っても時間が余る。
「レベル上げでもするか!」
目的を探索からレベリングに切り替え、フィールドを巡って順調に敵を倒していたが、ここでちょっとしたハプニングがあった。
スカラピオーン3体と戦っていると、ズンズンと足音を響かせ、別のモンスターが戦闘に乱入してきたのだ。
乱入してきたモンスターは俺達ではなく、1体のスカラピオーンに背後から噛みつき、そのまま何度も地面へ叩きつける。
「んん?アイツは見たことがあるな……」
乱入してきたモンスターはティラノサウルスによく似た恐竜型のモンスターだ。イベントで知り合ったNPCソニアが瞬殺したユニークモンスター、【超紫・ノルン】が"寄生していた"恐竜にそっくりだったのだ。
「ギガノトダジョーLv45……ここは漁夫の利を狙うか」
見た目と名前からして恐らく"ギガノトサウルス"がモデルになったモンスターだろう。スカラピオーンと戦っている為、恐竜は警戒しつつ放置し、まずは残りの岩蠍を片付けた。
そして恐竜とも戦闘になったが、過去に寄生され戦った個体と動きは全く同じだ。途中までノーダメで圧勝だったが、1度距離をとった時にそのまま逃亡され、仕留められなかった。
「くそー、逃がしちゃったか。足速いなぁ……」
逃げ始めたのを見て追いかけようとライドを入れ替えをしていたが、そうしている間にギガノトダジョーは姿を消し見失ってしまった。
「まぁこういう事もあるな。レベリング再開だ」
さすがに夜【荒れた大地】で活動するのは躊躇われ、ペースを上げてレベリングしていると丁度暗くなる前にレベルが上がり全員Lv40になった。
キリがいい所まで上がった為、帰り道を急いでいるとその道中、巨大な恐竜ギガノトダジョーが横たわり、傍に人影がいるのが見えた。
俺が取り逃した個体と同じではないだろうがギガノトダジョーはピクリとも動かず、人影がギガノトダジョーの上に立って勝利を誇示している。
(おっ!?あのシルエットはまさか……)
屈強な肉体に鬣のような髪。尻尾がユラユラ揺れているのが遠目でも分かった。
「おーい、ゼノーン!!」
近付きながら声をかけると、人影が振り返る。
『むっ!?なんだお主は』
「あれ……ごめん遠目だと知り合いに似てたから……人違いだったみたいだ」
近付いてよく見て見ると、鬣が黒くシルエットも似ていた為ゼノンかと思ったがどうやら人違いだったようだ。ゼノンとは違い体も大きく、ゼノンの3倍程はありそうだ。しかしゼノンと同じライオネルという種族の獣人に間違いないだろう。
獣人は急に近付き話しかけてきた俺に対して警戒しているようで、訝しみながら話しかけてくる。
『お主、今ワシを見てゼノンと言ったな……』
おっとぉ!?これは……
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