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78話 雷鳴高原

 盲目の小さな獅子ゼノンと別れた後【地底の街】の転移登録を済ませ、ログアウトの時間まで軽く探索する。

 この街は【照明鉱石】と呼ばれる、名前そのままの鉱石が街を明るく照らし、鉱業が盛んな街のようだ。



 そんな【地底の街】では様々な種類の鉱石やインゴット、作業台なども販売されており、店を見つける度にテラの足が止まってしまう。



「テラ、買い物はまた今度だ。今日は見るだけ」


 ……コク



 さらに探索を続けていると、この街の中央にある遺跡からさらに地下へ行く事が出来るという情報を得た。しかし今回は時間がないため探索を切り上げホームに戻り、そのままログアウトとなった。

 ちなみにこの【地底の街】では【戦士】、【テイマー】、【鍛治】、【彫金】、採取系のギルドが存在しているのを発見した。



 ―翌日―



 この日はログインしてホーム内での日課を終わらせた後、朝になるまで【地底の街】で鉱石などの買い物をし、そのまま【機械の街】にやってきた。



【地底の街】のさらに地下を探索しても良かったのだが、ずっと地下にいると景色が変わらず気が滅入ってしまう。今の俺は冒険に飢えているため、色んな景色を楽しみたいと思い、【機械の街】からさらに先へ行ってみようと考えたのだ。



【機械の街】もしっかり探索出来ていないが、街の探索はしないまま、まずは街周辺の情報を集めた。

 集めた情報によると、街の周囲に広がる【カラクリの平原】から行けるのは3つのフィールドで、西には【炎の岩山】、北には【雷鳴高原】、東には【カラクリの丘】という場所に行けるとのこと。そして【カラクリの丘】をしばらく進むと山があり、その山を越えると新しい街があるそうだ。



「ふーむ、そうなると丘は後回しだな……岩山も昨日と似たような景色だろうし……今日は雷鳴高原って場所に行ってみるか!」



 早速街を出てライドに乗り真っ直ぐ北を目指す。しばらく進むと簡易的な関所があり、ライドを降りて関所を通ろうとすると、見張りをしていたNPCに声をかけられた。



『待ちな冒険者。この先は雷鳴高原、立ち止まると雷が降ってくる危険な場所だ。止めはしないがしっかり準備してから行くんだぞ』


「あぁ、ありがとう!」


『あぁそれと、今さっき高原へ向かった奴がいる。もしそいつが危ないようなら助けてやってくれ』


「分かった」



 そう言って関所を抜けたが…………これは今すぐ引き返すべきだろうか……



 NPCが言っていた通り、このフィールドでは至る所で雷鳴が轟き、雷がガンガン落ちている。雷避けになるような物も見当たらず、地面も落雷で抉れてボコボコだ。



「絶対あの雷、俺らにも落ちてくるよな……この地面じゃライドは無理だし……」



 何か安全に抜けられるようなアイテムが必要なのか、それとも何かのアイテムが雷避けとして転用出来るのか、関所のそばで色々と考えていると、先程のNPCが再び声をかけてきた。



『凄い光景だろ?無知のまま進めば丸焦げだ』


「だよなぁ……何か安全に渡る方法とか必須のアイテムとかあるのか?」


『安全かどうかは分からないが……進む方法はある』



 NPCによると、この高原の落雷には法則があり、落雷がある場所の地面には落雷の規模によって変わる円形の白い光が浮かび上がり、数秒後その円形の光に沿って雷が落ちるそうだ。



 NPCにそう言われ落雷の様子を見ていたが、確かに落雷のある場所の地面には円形の白い光が目印のように浮かび上がっている。



『さらにこの高原の地面は特殊でな、雷の力を即座に吸収してくれるんだ。衝撃までは無理だけどな。だから雷が地面に落ちさえすれば、人や物に伝わる事はない』



 なるほど、早い話が落雷の範囲と位置が地面に白い光として印され、その数秒後に雷が落ちる。感電することも無いため落雷を躱しながら先に進めという事だ。



「地面が特殊だから雷が落ちる場所が事前に光ると……」


『おっ、さすが異界の冒険者!頭が回るな』



 リアルな落雷を再現している訳ではなく、この高原の落雷をゲーム内のギミックとして考えれば話は簡単だ。



「いい事聞けたよ、ありがとう」



 NPCに礼を言った後、召喚者達を【同化】させる。落雷の影響からか敵の姿も見えない為、ここは俺1人の方が進みやすい。



 探索目的の為とりあえず先に進んでみたが、結構楽に落雷は躱せる。だが規模が小さい落雷は範囲も狭く、落ちてくる間隔も短いため落雷の直撃を受けてしまった。



「おわっ……ちょっと痛いけど少ししかHP削れてないな。まぁこれくらいなら小規模の雷は無視して大丈夫か」



 その後も順調に進み高原を走り回っていると、遠くで俺と同じように高原を進んでいる人影が見えた。

 だがその人影は落雷の直撃を何度も受けているようで、遠くから見ている俺の方がハラハラしてしまう。



「そう言えば見張りのNPCが先に行ってる奴がいるって言ってたな……回復アイテムくらい渡してやるか!」



 人影を追いかけどんどんと距離を詰める。しかし距離が縮まる度、その人影が知り合いに似ているような気がしてくる。



 だが、ゆっくり向かう余裕はない。遂に人影が巨大な落雷の直撃を受け地面に倒れ込んでしまったのだ。急いで駆け付ける。



(あれは……)



 体が焼け焦げ、うつ伏せで倒れていた人影を抱き起こし声をかける。



「おい、ゼノン!!聞こえるか!?」



 倒れていたのは昨日知り合ったばかりの獣人NPC、ゼノンだ。ゼノンは俺の声を聞くと僅かに耳を動かし、弱々しい声で応える。



『アンタ……昨日の……』


「話は後だ。パーティに入れ」



 ゼノンを担ぎ、落雷を避けながらそう言うとすぐにゼノンがパーティに入った。それを確認し【簡易転移石】をすぐに使用する。



 すぐにゼノンを担いだままホームに帰還し、ミラにゼノンの回復を頼む。ミラもすでに理解していたのか、ホームに着き【同化】が自動で解除されると同時に動き出し、俺が指示を出すより先にゼノンの治療に取り掛かろうとしていた。



「ミラ頼んだ!」


 コクコク



 フレンドでもなく、NPCであるゼノンがいきなりホームに入れるか不安だったが、どうやら大丈夫そうだ。



 ミラの回復を受けてすぐに元気になったゼノンは、申し訳なさそうに座り直す。



『ありがとう……』



 ミラに礼を述べた後、ゼノンはキョロキョロと顔を動かしている。いきなり見知らぬ場所に飛ばされたのだ、無理もない。



「ここは俺の家だ。危険はないぞ!」


『あ、あぁ。そうじゃなくて、ここはアンタの気配がいっぱいだからアンタが何処にいるか分からなかったんだ……』


「あ、そういう事か!今は声の位置で分かるか?」


『あぁ』



 ゼノンは周囲を警戒していたのかと思っていたが違ったらしく、ホームからも俺の気配がし、さらには同じ気配の召喚者達が周りにいる。俺が声を出さないと何処にいるか分からなかったようだ。

 ゼノンの感覚が俺にはイマイチ分からん。



「それにしても随分と無茶したなぁ……雷鳴高原はお前にはキツイだろ」



 落雷の目印となる光も見えず、音を頼って落雷を避けようにも雷鳴が邪魔する。雷鳴高原はゼノンにとってかなり厳しいフィールドのはずだ。



『だけど!!俺は雷くらい速く動けるようになりたい。あそこなら良い修行になるかと思って……』


「雷を避けれたら雷のように速く動けるだろうって?バカ言うな。それで死んだら意味ないだろ」



 ゼノンの強くなりたいという想いは理解出来るが、やり方が無茶苦茶だ。



『でもっ!…………いや、俺がバカだった……助けてくれてありがとう』


「分かれば良い。それにお前は急ぎ過ぎだ。今でもお前は十分強いんだから、焦らず自分に合った強くなる方法を見つけろよ」


『あぁ……』



 まぁゼノンが焦っている理由に、俺との出会いが多少なりとも影響しているはずだ。ゼノンが勝てなかったボスに俺は召喚者達有りきとはいえ勝ったのだ。そんな相手と多少なり親しくなれば焦る気持ちも分かる。



『世話になった……ここから出るにはどうすればいい?』


「目的地があるなら送ってくぞ?機械の街まで戻るか?」


『それはいい……』



 随分と落ち込んだ様子のゼノンを【始まりの街】まで送る。ゼノンはそのまま街の外へと向かっていった。



「…………」



 強くなろうと頑張っているゼノンに何かしてやりたいが、余計なお世話になりそうで怖い。トボトボと歩いていくゼノンに何も言ってやれなかった。

読んで頂きありがとうございます。

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