70話 黒い雲
本日2話投稿。1話目
長く真っ直ぐな通路を歩いていると、俺達のコツコツという足音が反響してやたらうるさく感じてしまう。
「意外と中は綺麗な造りになってるんだなぁ……」
「そんなことを気にするとは余裕だな……私はいつ敵が出てくるのかとヒヤヒヤしているぞ」
「俺だって適度な緊張感は持ってるけど、余裕を無くしたら楽しめないだろ」
「それもそうだな……」
城の外観は周囲に雷鳴が轟き、おどろおどろしい雰囲気だったが、中に入ると元は綺麗な造りの城だったのか柱の装飾などからその名残が見て取れ、不釣り合いな青い蝋燭の灯火が怪しく通路を照らす。俺の前を歩いているドラにとても似合いそうな城だ。
長い通路に敵影はないが、たまに柱が独りでに倒れ、いちいち脅かしてくる。その度にクッコロの可愛く短い悲鳴が全員の緊張を和らげてくれたのだが、いよいよ通路の終わりである扉が見えてきた。
「準備は良いか?……行くぞ!」
クッコロが扉に手をかけると、扉はゆっくり自動で開いていき徐々に中の様子が見えてくる。
扉の先は広いエントランスになっているようで、黒い雲はおろか、敵すらいない。
「何も居ないな……」
そう呟きエントランスに俺が踏み込むと、他のプレイヤー達も続く。
しかし全員が入った瞬間、突然凄い勢いで扉が閉まった。
「開かない……閉じ込められたな」
「……今更引き返すつもりも時間もないだろ!」
突然周囲の蝋燭が勢いよく燃え上がり、黒い雲の声が響く。
『ふははは、よく来たな冒険者共よ。あの数の魔獣を退け、ここまで来たことは褒めてやろう』
「いかにも小物が言いそうなセリフだな」
『ほう?威勢だけは良いようだ……であれば我のもとまで辿り着いてみせよ。その時は望み通り相手をしてやろう。玉座で待っているぞ。ふははは……』
直後、周囲には光のカーテンが引かれ、エントランス中央の地面に3つの魔法陣が出現する。そして人型魔獣が姿を見せた。
1つの魔法陣から約10体、計30体の人型魔獣が立ちはだかる。
「コイツらが人型魔獣か!ゼルの情報通りに対処する。各パーティ、戦闘に移れ」
クッコロの言うように、俺も人型魔獣はアマテラスと戦う為に聖域に入った時しか見ておらず、他のプレイヤー達が聖獣達の聖域に踏み込んだ際はどういう訳か通常の魔獣しか出てこなかったそうだ。
人型魔獣はLv37と、多少レベルは高くなり数は多いが動きは前と同じだ。戦闘に特化した俺達3パーティの敵じゃない。すぐに殲滅が完了し、光のカーテンが消えていく。
「ふぅ、さて……この階見て回るか?それとも……」
自然と全員が中央に集まり、この後どうするか尋ねた。
このエントランスには上階へと続く螺旋状の階段、この階の奥へと続く通路が左右2つ、計3ルートある。
「私は一刻も早くヤツを倒すべきだと思う。階段で上階だ」
「俺も」「同じく」「私もですね」
「俺も。あの通路ボロボロだし、探索する所無さそうだし」
「……決まりだな!」
レラの【地形把握】が使えればマッピングは容易なのだが、チームメンバーが戦闘をしているからなのか【同化】が解除出来ず、レラを呼び出せない。
ともあれ探索はしないまま階段を上り玉座の間を目指す。
「……さっさとアイツ倒してハッピーエンドを迎えたいな」
階段に向かうメンバー達の最後尾をクッコロと歩きながら呟き、目に付いた地面に転がっている石を軽く蹴っ飛ばす。
「はは、そうだな……早く__」
クッコロが何か言っていたが、俺の蹴っ飛ばした石が偶然通路の方に転がっていったかと思うと、天井に魔法陣が一瞬で描かれ、そのままガラガラと音を立て通路が崩れ落ち完全に塞がってしまった。
「…………」
どうやら通路は罠だったらしく、通路に向かっていたら数人は崩落に巻き込まれていただろう。
「……罠がある可能性を忘れていたな。慎重にいこう!」
「おう、しかし罠とか……ボスのくせに、みみっちいことするヤツだな」
俺の一言に皆フッとうっすら笑ったかと思うと、すぐ表情を引き締める。
ここは敵地のど真ん中だ、一瞬の油断が命取りになる。再び心地よい緊張感を取り戻した俺達は階段を上り、その先にある通路を進む。
そして一層豪華な扉を見つけ、クッコロが無言で全員を見渡した後、扉に手をかける。
自動で開いた扉の奥には荘厳な玉座の間と、正面に見える壁に沿うように設置された煌びやかな玉座。
その玉座には漂うように黒い雲が浮かんでいる。
『ほう?全員が来たか……罠は発動したはずだが?』
「貴様の無駄話に付き合うほど暇ではない!今すぐその首たたっ斬ってやる!」
クッコロが剣を黒い雲に向けそう告げる。
『愚かな……良いだろう。我の姿を見て恐れ慄くがいい。しかと刮目せよ』
黒い雲がそう言うと、フワフワと漂っていた雲がボコボコと隆起し始め、ゆっくりと人の姿を形成していく。
『我は全ての者を黄泉へと葬り去る者……ヨミ、とでも名乗っておこうか』
黒い雲改め、ヨミ…………ボスは筋骨隆々の男性人型となり、上半身裸の上から、立った襟が馬鹿みたいに長いコートを羽織っている。
『ふははははは……どうだ?我の偉大であり、崇高で、威厳に満ちたこの姿は』
「凄そうな言葉繋げただけの馬鹿にしか見えないな」
『……そうか、愚物には理解出来ぬか。しかしそんな愚物に敢えて言ってやろう!我は聖獣の半身、三体の聖獣全ての力を宿し者。いくら異界の冒険者といえど我に傷をつけることなど出来ん……な、なんだ……力が、ぬあ"あ"ぁぁぁああ』
今まで余裕を見せていたボスが急に苦しみ始め、膝を折って地面に両手をついた。
『全く……馬鹿につける薬はないというが、まさにその通りよ』
「アマテラス!」
背後から声が聞こえ振り返ると、今の今まで声すら出さず、居なくなってしまったのではないかと思っていたアマテラスだったが、聖獣の名に相応しい神々しいまでの輝きを放つ9尾のキツネの姿がそこにはあった。
『ふははははは、愚物では動けぬであろう!そう、この我スサノオの力だ!』
『はぁ……似たような喋り方でどっちもベラベラとうるさいヤツらなのです』
続けて同様の輝きを放つクロヒョウとウサギ。スサノオとツクヨミも姿を見せた。
『ば、馬鹿なぁ……なぜ、貴様らがぁ……』
『そんな事も分からぬとは、崇高な我と違って貴様が愚物である証拠よ』
『ゼルよ、ヤツの聖獣としての力は妾達が押さえ込んでおく。今のうちにやってしまえ!』
『ぐぅ、貴様らぁ……ゆるさ__っ!?』
ボスが何か言いかけているがどうでもいい。アマテラスの言葉に甘え、即座に【魔装】を発動、一気に接近し【連続斬り】、【ダブルホイール】、【フルバースト】を連続で叩き込んでやった。
『ぐぁああああ…………はぁ、はぁ、貴様ァ!!!』
「ダメ押しだ!」
微動だにしないボスに一方的にダメージを与え、ダメ押しの【ノヴァインパクト】を放つ。
その間、他のプレイヤー達は呆気にとられた後、戸惑っているようだ。
「えっ!?あ、やっていいの?」
『冒険者達、何をしておる!ゼル達にだけやらせる気か?今のうちにトドメをさせ!』
「「お、おう!」」
「と、突撃ーー!!」
アマテラスが他のプレイヤー達を叱咤している間も、俺はボスを滅多斬りにし、セラなんかはボスの口の中に武器を突っ込みショットガンを連発している。
ピクリとも動かないボスを攻撃に加わったプレイヤー全員でタコ殴りにする。
そして__
ボスの体は灰のように崩れていき、サラサラと消えていった。
「ふぅ……なかなか頑丈なヤツだったな!」
「いや、なんというか後味が……」
「はぁ!?何言ってんだよ……追い詰められたヤツはなにするかわからないだろ!さっさと__どわっ」
突然建物全体が大きく揺れ始めた。
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