67話 尻尾を鷲掴み
アマテラスの聖域に各国の王、聖獣、プレイヤー達の代表が集まりクッコロが司会を務め密会が始まった。
「まず初めに各国の王達、目前に迫っているこの世界の戦争は意図的に引き起こされている事を理解して欲しい。この話し合いではそれを前提として話す」
そう切り出したクッコロは主に王達に向け、俺達プレイヤーがこの戦争をどう考えているか掻い摘んで説明したあと本題に入った。
「私達がいるハーヴェストでは聖獣の死を偽装し、黒幕がどう動くか暫し観察していたが、黒幕を明確に見つけ出すことは出来ていない。しかしほぼ同時期に各国が動きを見せ始めた事から、少なくとも各国に黒幕が潜んでおり、なんらかの連絡手段を確保していると踏んでいる」
俺がアマテラスの偽物を倒した事で、【ハーヴェスト】だけでなく他の国も戦争に向け動きが加速したのだそうだ。この事からスパイ、もしくは黒幕が俺達のようにチーム通信に準ずる能力を持っている事が考えられる。
そして各国が本格的に戦争に向け動き出す前に、王達を【マジックラフト】、【オーガスト】では聖獣が直接王に命じてこの聖域に、【ハーヴェスト】ではほぼ拉致する勢いでここに連れて来たらしい。
「そこでハーヴェスト王に聞きたい。貴方に戦争を真っ先に進言したのは王妃、もしくは騎士団長どちらだ?」
『馬鹿な!軍を動かす騎士団長はともかく、余の妻を疑っておるのか!!妻は幼き頃より余を支えてくれたのだ。そんな事をするはずがない!』
「ハッキリ言うと私達は最初、貴方も同様に疑っていた。妻だからという理由だけで疑わない理由はない」
『ハーヴェスト王、問われた質問に答えよ。今はお主の感情を考慮する時間はない』
ハッキリとクッコロ、アマテラスに言いきられた王は拳を握り少し沈黙を保ったが、顔を上げ話し始める。
『余に戦争の進言したのは……確かに妻アイリーンだ。各国が本格的に動き始めた、準備が整う前に攻め入るべきだ……とな。しかしそれはこの地を、民を思ってのこと!余と妻は幼き頃よりこの地と民を守ろうと共に誓ったのだ!』
「ふむ……ゼル、これはほぼ確定で間違いないと思うのだが?」
「だろうな……王には悪いが、王妃アイリーンは既に死んでいて黒幕が成り代わっている、もしくは操られているって感じだろうな」
「魔獣の親玉である黒幕が各国の要人に成り代わる、もしくは操り情勢を動かしていると言うことか。それなら情報伝達が速い事も納得だ」
『しかしゼルよ、そうなるとここからが問題なのではないか?王妃を捕らえて首に刎ねようと解決にはならんじゃろ』
「決定的なボロを出すまで待てばいい。国の頂点である王が手を取り合えば、後はどうとでもなる」
その後、王達の話し合いに黙って耳を傾けていたが、【魔物が出現し、応援を要請したが聞き入れなかった】、【輸入した食料が規定より少なかった】、【輸入した魔道具に不備があった】などの理由から少しづつ関係が歪み始めたそうだ。
しかしその裏に黒幕の存在が関係していると分かった今、共通の敵である黒幕を倒すため王達は再び手を取り合う事になった。
【実績:真の平和に向けて(イベント限定)を達成しました。】
獲得・イベント貢献ポイント+20000
「よしっ!!これで後は黒幕を倒すだけだ」
「うむ、私に考えがある。私達だけでなく、王達が手を取り合った今だからこそ出来る作戦だ」
クッコロの作戦を聞き、皆が納得したことでこの場は解散し、俺もログアウトとなった。
そしてイベント5日目。
少々不安だったが、昨日俺はアマテラスの聖域でログアウトし、ログインするとアマテラスの尻尾をベッドにした状態で目が覚めた。
どうやら聖域はすでにセーフティエリアに認定されていたようで、城内の一室のようにログイン地点として登録出来ているようだ。
ログインしたが、相変わらず俺は聖域で過ごし、テラに作ってもらったアイテムを受け取り【共有収納箱】に入れるくらいしかやる事がないが、案外早く事態が動いた。
昼前、クッコロに城周辺まで来て欲しいとチャットで呼ばれ、小さくなったアマテラスと共に【ハーヴェスト】の街にいく。
どうやらクッコロの作戦がハマり、遂に黒幕がボロを出したようだ。
街に行くと住民は見当たらず、住民の全てが城周辺に集まっているようだ。
城のテラスには大勢の人の注目を集めるように王が立ち、隣には王妃、その後ろには騎士団長とクッコロの姿が見える。そしてまずは王妃が住民を静めるため口を開き、よく通る声で話し始めた。
『民達よ。静まりなさい。聖獣が全て居なくなった今、わたくし達は立ち上がらなければなりません。皆、陛下の言葉をしかと聞くのです』
『うむ……民達よ、時は来た!今この時より我らは邪悪を滅するための戦いに赴く事になる。しかと余の言葉を胸に刻むのだ!』
場は静まり返り、次の王の言葉を待つ。
『邪悪なる者……それは我らハーヴェストだけに留まらず、各国を意のままに操ろうと画策し国に潜んでおった!』
『へ、陛下なにを……』
『その者は、余の隣にいるこやつだ!騎士団長、今すぐ捕縛せよ!!』
『はっ!』
悲鳴が飛び交い、ざわめく住民をよそに王妃アイリーンが騎士団長に組み伏せられる。
『へ、陛下!これはどういう事です』
『貴様は余の妻アイリーンなどではない。口を開くな!』
クッコロの提案した作戦というのはとてもシンプルで、【マジックラフト】、【オーガスト】それぞれに、「聖獣が討たれた」という噂を流すというものだ。
当然これはデマであり、【マジックラフト】【オーガスト】の住民達は騒ぎ出したが、【ハーヴェスト】とは違い、実際その目で見ていない住民や兵士達はあと一歩踏み出せないという状況になっていた。
しかし【ハーヴェスト】の王妃アイリーンはそれをすぐさま聞きつけ王に進言。
各国内でしか出回っていないはずの噂を、王妃アイリーンが知っているのは明らかにおかしい。その為アイリーンを黒幕と断定し、住民達の前で大々的に黒幕の尻尾を鷲掴みにしたのだ。
『我が妻は聖獣様方をとても慕っておった。そんな妻が聖獣などと呼び捨てにするどころか、聖獣様が討たれたという未曾有の危機に乗じて、事を起こそうとするなどは有り得ん。我が妻を何処へやった!!』
『へ、陛下…………ふ、ふふ、ふはははははははは。大人しく我の手のひらで踊らされていれば良いものを……誰の入れ知恵だ?』
『動くな……ぐわっ!』
アイリーンは騎士団長に押さえつけられたまま不敵に高笑いし、その後騎士団長を謎の力で吹き飛ばす。
『便利な人形であったが、もう用済みだ。愚かな貴様に返してやろう』
そう言うと王妃の体から黒い煙のようにな物が立ち上り、王妃は力なく地面に倒れ込む。黒い煙は1つに集まり、雷雲のような真っ黒な雲を形成していく。
その瞬間、クッコロが黒い雲に斬り掛かる。
『ふははは、無駄だ』
「くっ……ダメか」
黒い雲には真っ赤な目と大きく裂けた口が浮かび上がり、クッコロの剣がすり抜けていく。
『き、貴様は誰じゃ!何が目的なのだ!』
王が王妃を抱え、黒い雲を問い質す。
『我は、貴様らの負の感情より生まれし者!その望みを叶えにやってきたのだ』
黒い雲がノリノリで自身の正体を語ってくれているため黙って聞いておくことにした。
どうやらこの黒い雲は、聖獣達に頼ってばかりいた住民達の負の感情が聖獣達に集まり、その負の感情が分離し意識が芽生えた事で生まれた存在らしい。
『ふははは、我は言うなれば聖獣どもの半身。聖獣亡き今、我を傷付け、ましてや倒すことなど不可能だ!そして異界の冒険者ども。それでも我の邪魔をするなら相手をしてやろう。我が城まで来るがいい!』
そう言うと黒い雲は、サラサラと風に溶けるように消えていった。
「アイツの城を探し出さないとダメなのか……めんどくさいな」
『ゼル、それなら安心せよ。すでに目星はついておる』
「おっ!?ホントか?」
『うむ、恐らくヤツは我ら聖獣達の力が及ばぬ地、そこにおるはずじゃ』
聖獣達には聖域を中心に守護領域が存在するらしいが、3体の守護領域が唯一届かない場所が存在しているらしい。
『その場所を妾達は【冥闇の地】と呼んでおる。恐らくヤツはそこにおるじゃろう』
アマテラスとそんな会話をしているとチームチャットが届き、【マジックラフト】では魔術師が姿を消し、【オーガスト】では騎士団長が姿を消したそうだ。
その後、【ハーヴェスト】に王達が再び集まり、俺やクッコロ達代表を交えて話し合いをしている最中、兵士から報告が届く。
『報告!冥闇の地にて巨大な城の出現を確認致しました』
『うむ、ご苦労!』
「アマテラスもそこにあの黒い雲が居るだろうって言ってたし間違いないだろうな」
「プレイヤー150名による攻城戦か!ここからは私達プレイヤーで作戦を立てるとしよう!」
イベントもいよいよ大詰め、あとはプレイヤー達皆で大暴れするだけだ!
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