66話 話し合うモノ達
2本投稿。2話目
『なんとも切ない話じゃのぅ』
「お前の顔はそう言ってないけどな!」
【ハーヴェスト】の街を出た俺は、そのままアマテラスの聖域に向かい、今アマテラスの正面に座っている。
「住民に慕われてるのが分かって嬉しいって顔に出てるぞ」
『そ、そんな事は……しかしじゃ、お主がせっかく積み上げた住民達の信頼がガタ落ちではないか、本当に良かったのか?』
「まぁ結果が出てくれればそれで良いよ。後はクッコロ達に任せる」
『左様か……暫くはここを我が家だと思って寛ぐといい』
「ありがとう。でもまだやる事はいっぱいあるから、それが終わってからだ!」
作戦と呼ぶには不安要素たっぷりで雑なものだが、これは黒幕を焙り出す俺の考えた作戦だ。
黒幕は各国にいる聖獣達の動きを封じたことから、間違いなく聖獣を邪魔だと思っている。その聖獣が目の前で仕留められたら、少しくらい尻尾を見せるのではないかと思ったのだ。
さらには住民達が戦う意志を大々的に示した。
しかしそれでも住民は兵士じゃない。戦う意思はあるが手に取った剣を何処に向ければ良いか分からないはずだ。
俺がもし黒幕で、戦争を起こす事が目的だとしたら、間違いなく勇み立つ住民達を扇動し、なんらかの行動を起こす。
それに加えて魔獣が攻めてきた事は、またとない好機でもあった。
住民達は聖獣が死んだことに悲しみ怒っていた。本来はその強い感情を自国の防衛に向けるはずだが、その矛先がいつの間にか他国に向き、戦争に向け誘導する者がいればそいつが黒幕で間違いない。
恐らく今【ハーヴェスト】にいるプレイヤー達は、怒る住民達に俺が暴走してアマテラスを討ったと説明している頃だ。
多少冒険者全体の信頼は落ちるだろうが、今の俺程ではないはず。街に残り黒幕と街全体の動向を監視してもらわないといけない。
「しかしアマテラスの能力は助かった。あれが無いと成り立たない作戦だったしな」
『少しは役に立てたようでなによりじゃ』
隻狼と共に【オーガスト】に向かう途中にあった砦を通る時、アマテラスが使った幻術のような能力を見て思い付いた作戦だ。
アマテラスは幻覚を見せたり、今回のように実体を持つ幻も創り出せるらしい。
『あとの不安は……やはりロクでなしのスサノオじゃな。大人しくしておればよいのだが……』
スサノオの魔獣に対する怒りは相当のようで、魔獣が攻めてきたと聞いた時は話も聞かずすぐに向かおうとしていたくらいだ。
事前に作戦を説明しておいたお陰で、寸前で思い留まったようだが、今スサノオ、というより聖獣が俺達と協力していることが大々的に判明し、さらには好きに暴れられるのは避けたい。
ツクヨミとスサノオには、暫く表に出るのは控えてもらい、待機をしてもらう予定だったのだ。
「まぁなんだかんだでスサノオも大丈夫だろ。討つべき敵が誰なのかちゃんと分かってるさ」
『そうだと良いがのぅ』
そんな会話をしていると、【転移扉】の扉が開く。
『聖獣様、失礼してもよろしいでしょうか?』
『うむ、良かろう』
「ダッツ、街はどうだ?」
やって来たのはダッツだ。ダッツは扉を潜ると靴を脱ぎ、懐に仕舞いながら近寄って来ると俺の傍に正座する。
ダッツにとって聖獣とこの聖域は、そこまでする相手と場所のようだ。
『今はまだなんとも……それより、その大丈夫ですか?』
「顔か?これでもアマテラスと戦えるくらいの力量はあるんだぞ?1発殴られるくらい、なんてことないよ!」
『もう私にあんな大役任せないで下さい。心臓が潰れるかと思いましたよ』
「はは、2度目はないように俺らも頑張るよ」
『そうしてください。これ、不要かもしれませんが食事と飲み物です。どうぞ』
「ありがとう。頂くよ」
『では、私はこれで戻ります。聖獣様、それでは』
『うむ!』
その後は召喚者達の同化を解除し、少しアマテラスと雑談していたが、いつまでもそうしている訳にもいかない。
各種作業台や【共有収納箱】を取り出し設置し【簡易転移石】や回復アイテムなどの製作をテラに頼む。
そして何も起きないまま夕方を過ぎた頃、クッコロからチャットが届き、ネヴィラ、のりスケ、聖獣達と共に聖域に来るそうだ。
アマテラスから了承を得たと返すと、すぐに【転移扉】の扉が開く。
『ここは……むっ!?あのお方は、まさかアマテラス様!!ということはここはアマテラス様の聖域……しかしなぜ討たれたはずのアマテラス様が……余は夢でも見ておるのか……』
『えぇい、ごちゃごちゃとうるさい奴じゃ。入るか帰るかハッキリせぬか!』
『も、申し訳ありませぬ。で、では失礼いたします』
「いや、帰るなよ!!!」
『ぬっ!?お、お主はアマテラス様を手にかけた冒険者!なぜここに居る!いや、アマテラス様は生きておられる。ではこれはやはり夢?余は夢を見ておるのか。いや、そもそもどこからが夢なのだ?たしか____』
「……クッコロ、コイツ殴っていいか?」
「まったく、1発だけだぞ」
『そこは止めぬかバカタレ!』
少々茶番が長くなったが、王も次第に状況が飲み込めたようで、頭を地面を打ち付け、そのまま削る勢いでアマテラスのもとに向かう。
『先程は少々取り乱しておりました。この度のこと、この地を任された者としてお恥ずかしい限りでございます』
『責めはせん。妾にその資格はないのでな』
アマテラスと王のやり取りを聞き流していると、また扉が開き、スサノオ、のりスケと共にオーガスト王もやってきた。続け様にツクヨミ、ネヴィラ、マジックラフト王もやってくる。
「各国の王が来たってことは、黒幕が分かったのか?」
「どうだろうな……」
王達も突然連れてこられたようで、まさかの会合に目を白黒させている。
『みな、好きなところに座るがよい。ここは妾の聖域、まずは集まった理由を問うとしようか』
「それは私から。王達の不在を誤魔化すのもそう長くはもちません。手短にお話します」
クッコロがそう切り出し、王達の密会が始まった。
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