60話 移動手段 1
長くなったので分割。本日2話投稿。1話目
会議を終えて街に出る。
「テラ〜、いい加減機嫌直してくれよ……もう置いてかないからさ」
ぷいっ
「はぁ……まぁ置いていったのは事実だしなぁ。でも俺もまさかボス戦があるとは思わなかったんだよ」
会議が終わった途端、テラが急に俺の脚をポカポカ殴り、身振り手振りでアマテラスのいた洞窟に行く際、置いていった事に怒っていると伝えてくる。
「そうプリプリするなよ。怒ってても可愛いけど、ニコニコしてるほうがテラは可愛いぞ?」
『テンキュ』
そう言ってやると、未だに視線は合わせてくれないが、渋々といった感じで俺の手を握り隣を歩いてくれる。若干機嫌が直ったようだ。
「ベガも、作ってくれた武器も壊しちゃったけど、このイベントが終わったらまた新しいヤツよろしくな!」
コクコク
テラと仲直りは出来たが罪悪感もあった為、テラだけ【同化】を解除し、夕焼けに染まる街を一緒に歩く。
すると、以前助けたNPCが酒場に入るのが見えた。
「そういえば名前も聞いてないし、育成林のお礼もまだ言ってないな……酒の1杯くらい奢ってやろうか!」
NPCの後を追い、俺も酒場に入る。中は大衆酒場となっているようで、大きなテーブルをNPC達が囲み盛り上がりを見せている。
目当てのNPCがカウンター席に1人で居るのを見つけ、隣に座る。
「よう、元気になったんだな!」
『っ!?……あぁ、以前助けて頂いた冒険者さんですか。その節はお世話になりました』
そう言って振り向くNPCと視線が合うと、違和感があった。
「…………スマン、兄弟とかだったか。アンタは前に会った人の兄ちゃん?弟?」
『な、なな、何を言ってるんですか!私に兄弟などいません。アナタに助けてもらったのは、正真正銘私ですよ』
NPCがそう言うと、膝の上にいたテラが俺に振り返り、何やら訴えかけてくる。
「ふんふん、だよな?…………アンタ、あの時の人とは顔が微妙に違うし声も違う。テラだって匂いが違うって言ってるぞ?何か訳ありか?」
『あはは、冒険者さんはどうやら既に酔っているようですね!飲みすぎは良くないですよ?』
「悪いがアンタは別人だと確信してる。そこまで否定されると逆に怪しいぞ?」
『は、はは……いやぁ兄弟なんて本当にいませんよ、はは……もうこんな時間だ、私は帰らなくては。冒険者さん、先日は助けて頂きありがとうございました。では』
「酒の1杯奢るつもりでいたけど、別人のアンタには関係ないよな。気をつけて帰れよ?それとも家まで送ろうか?」
『はは、私は大丈夫ですよ。冒険者さんの方こそ、少し酔いを醒ました方がいい』
そう言って酒場を出るNPCを視線だけで見送り、せっかくだから飯でも食おうかと正面に振り返る途中、さっきまでNPCが座っていた席のイスの上に何やら光る物があった。
「これは……服のボタンか?いや、バッジだな」
―手作りのバッジ―
・丁寧に手作りされたバッジ。とても大事にされている。
「大事にしてるなら届けてやるか!」
カウンター席についた瞬間に頼んでおいた【シュワシュワぶどう酒】とテラ用のオレンジジュースをそれぞれ一気に飲み干し店を出た。
テラはゆっくりしたかったのか少し不満げだが、遠くに見えるNPCの後を追いかける。
そしてNPCが街の中心から外れにある1軒の家に入る。恐らくここが自宅なのだろう。
「いきなり訪ねたら驚かせちゃうけど、仕方ないよな」
コン、コン、コン
『…………はい、どなた……アナタはっ!?』
「遅くに済まないな、アンタの兄弟がコレ、酒場に落としていったから届けに来たんだ」
出迎えてくれたのは間違いなく俺が以前助けたNPCだ。バッジを見せると一瞬引きつった表情をし、観念したのか息を大きく吐き、扉を開いて中に招き入れてくれた。
『……どうぞ』
「バッジ渡したかっただけだけど、まぁいいか。お邪魔します」
『そちらにお掛け下さい』
「じゃあ遠慮なく」
そんな会話をしていると、奥から足音が聞こえ近付いてくる。
『兄さん、なんの音?物音が……っアナタは』
「よう、さっきぶりだな!このバッジ、アンタのだろ?」
『済まない兄さん!俺の不注意だ……冒険者さん、お願いだ!兄さんには手を出さないでくれ、頼む!!』
『良いんだトール、いずれこうなる事は予想出来た』
『くっ……ダッツ兄さん……済まない』
何やら兄弟で勝手に盛り上がっているようだが、俺が助けたNPCが兄で【ダッツ】、弟が【トール】という名前で、双子の兄弟のようだ。
「まぁ待て……俺は別にアンタらをとって食おうなんて思ってないよ。それより他にも兄弟はいるのか?」
『いえ、誓って私とトールしかいません』
うーん、傍から見ると完全に俺が尋問してる形だな。軌道修正しないと……
「さっきも言ったけど、俺は別にアンタらをどうこうする気はない。だけど良かったら話を聞かせてくれ。なんで兄弟である事を隠していたのか、とかな!」
『分かりました!私の知っている事は全てお話します』
『兄さん!!』
『トール、私が話す。少し黙っていろ。冒険者さん、何からお話しましょうか』
「じゃあ……弟のトールがさっき隠した魔導照明、それをどうやって手に入れた?」
『そんな物は隠していない!』
『トール黙っていろ!すみません、冒険者さん』
「いや、良いよ」
この事を皮切りに、兄ダッツが自身達の過去について話し始めた。
この兄弟、元は【マジックラフト】の住人だったそうだが、親を不慮の事故で亡くし、【ハーヴェスト】に仕える先代の魔法使い【ポロフ】の好意によりこっちに引っ越してきたそうだ。
だが、やはり他国からきた者をすんなり受け入れてもらえるとは兄弟も思っていなかったようで、万が一の事を考え双子である事を利用し、交互に街に出て暮らしていたようだ。
「なんで双子である事を隠したんだ?意味がないように思えるけど……」
『異界の冒険者であるアナタには理解し難いかも知れませんが、この世界で双子というのは"裏表がある"とされ、気味悪がられるのです』
「なるほどねぇ」
"裏表がある"と気味悪がられる双子が他所の国からやってきた。その背景はどうであれ、悪い印象を与える事が分かっていながら、わざわざ正体を明かす必要はないとこの兄弟達は思ったのだろう。
しかし先代魔法使いであるポロフも寿命を迎え、頼る者が居なくなり、遂には国同士の争いが増えていく事に危機感を覚えた兄弟は、双子である事、双子である事が知られていないことを利用し、自分達で身を守る方法を模索したそうだ。
その方法というのが【ハーヴェスト】では手に入れる事が出来ない【マジックラフト】独自の魔法素材を手に入れ、祖国で学んだ技術を使って作り出した結界や、魔法防壁、スクロールという簡略的に魔法を発動出来るアイテムなどを揃えたそうだ。
『大した技術など持っていないので、結界などの効果は無いよりはマシといった具合ですが……それでも自分達の身は自分達で守りたかった』
「それは確かにそうだな。危機感を持つのはいい事だ…………なるほど、そんな事をしていたから俺に見つかった時、スパイを疑われると思って誤魔化そうとしてたのか」
『お恥ずかしい話です。しかしまさか祖国からの帰りにアナタに助けられるとは思っていませんでした。やはり積荷の中身を御覧になったので?』
「いや見てないよ……っちょっと待て!!ということはつい最近マジックラフトに行ったんだな!?見張りを掻い潜って!!」
『は、はい。祖国を旅立つ際、友人に餞別として貰った素材を使い、私達兄弟しか知らない転移陣を作成しました』
「転移陣って、マジかよ……それ俺は使えないのか?」
『ダメだ!!!絶対教えないぞ』
『トール……冒険者さん、弟は私とは違い、まだ貴方の優しさに触れていない。どうか無礼を許してやってください』
「自分達の生命線を秘密にしたいのは理解出来る。だから気にしなくていい。でもトール、俺は、俺達異界の冒険者はこの戦争を止めたいんだ!協力してくれないか?」
『そ、そんなこと信じられるか!』
「それもそうだな……じゃあ協力はしなくていい。その転移陣を1回だけ使わせてくれ。その後は関わらないから」
『そんな事__』
『トール!冒険者さん、私がご案内します。アナタは見返りも求めず見ず知らずの私を助けてくれた。そのご恩をお返ししたい。1回と言わず好きに使って頂いて構いません』
『に、兄さん……』
『ご案内致します』
これはかなりの進捗だ。転移陣を好きに使えるのなら【マジックラフト】にいるプレイヤー達と連携がとりやすい。【オーガスト】に関してはとりあえず後回しだ。
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