58話 アマテラス
9本の尾を持つキツネ、アマテラスが腕を振りかぶり襲いかかってくる。それと同時に周囲には光のカーテンが引かれていく。
召喚者達は一斉に散開、俺は正面からアマテラスの振り下ろされた腕をパリィで弾く。
「ちょっ……嘘だろ!?」
パリィが成功したにも関わらず、【機械の街】で新調した速射型ガンズブレイドの全体に亀裂が入る。
面食らってしまったが、せっかくパリィでアマテラスの体勢を崩し隙を作り出せたのだ。そのまま強撃型の武器でカウンターを放つ。
首元に直撃したがアマテラスのHPは全く削れず、代わりに俺の武器が速射型同様に亀裂が走った。
堪らず距離をとるが、アマテラスが9本の尾それぞれが交互に鋭くしなやかな刺突を繰り出し、俺達に襲いかかる。
(クソが、どんだけ範囲広いんだよ!ベガを__)
全員直撃は避けたものの、レラを庇ったドラが4割程のHPを削られ、かなりのダメージを負っている。
これだけ広範囲に鋭い攻撃をされると【ベガ】を出してもただの的になる。何よりレラ一人では【ベガ】を十分に動かせず、何も出来ないままやられてしまう。
一瞬の思考の間にミラがドラの回復を終え、俺に【ダークヒール】が飛んでくる。
「転送、ベガ……レラ乗らなくていい。ベガを盾にして上手く攻撃をやり過ごせ」
動かせないなら盾にするまでだ。装甲はかなり厚くしてある為、数回なら攻撃を防げるはず……
しかし俺の攻撃を受けたにも関わらずアマテラスのHPが減らない。防御がデタラメに高いのだろうか……さらにヘイトだ。ダメージは与えられていないはずだが、俺のヘイト値が異様に跳ね上がっている。
「だったら防御無視で攻めるだけだ!」
【魔装】を使用し、今にも砕けそうなガンズブレイドで【連続斬り】を放つ。全て防御無視の特殊アクションを付与した攻撃だ。
しかし結果は変わらずHPが全く削れない。と思ったが、急にガリガリと削れ始めた。
「セラか!……コイツ物理効かないのか?マジかよ……」
セラが【マジックエンチャント】を使用し、攻撃に魔法属性を付与した瞬間、アマテラスのHPが削れ始めた。
しかし魔法属性を持っているのは、ミラの魔鎌による武器攻撃とセラしかいない。
ミラには回復に専念してもらう為、攻撃に参加してもらうわけにはいかず、そうなるとアタッカーはセラだけだ。
しかしセラの攻撃が通ると、今度はアマテラスのヘイトがセラに向ってしまう。しかしヘイトを集める為、俺やドラが攻撃を加えると武器が損傷し、俺の武器は恐らくあと数回で破損してしまう。
「この状況はヤバい……けど!!」
武器なんか後で作れば良いだけだ。
そう割り切り、効かないと分かっていても武器を振り、ヘイトを可能な限り集める。
セラもヘイトの調整は上手くやってくれているようで、やり過ぎない程度に攻撃を加えてくれる。
必死に攻撃を躱しつつアマテラスに張り付いているが、カスるだけでHPの2割程が飛んでいく。
一発カスって直撃を喰らえば即死亡だが、直撃だけはきっちり避け、たまにドラとタンクを交代しながらアマテラスを削っていった。
(コイツの攻撃自体はなんとかなるけど……)
アマテラスは腕による攻撃と、尻尾による広範囲攻撃の2種類しか攻撃手段がない。慣れてきた事もあって捌くことは出来るが、俺の速射型の武器は既に剣先が折れている。強撃型もそれに近い状態だ。
今までの経験上、ボスのHPが半分になると攻撃手段が増え、さらに激しさを増してくる。
そうなれば被弾も増えるし、攻撃するタイミングもより少なくなりヘイトが集められなくなってしまう。そうなるとダメージを与える事が出来るセラにヘイトが多く集まり、万が一セラがやられてしまうとアマテラス攻略は確実に不可能になってしまう。
「戦闘中は武器の入れ替えが出来ないし……不味いな」
アマテラスのHPは、あと数発セラの攻撃が当たれば半分といったところ。
武器を1本捨てるつもりでアマテラスの腕振り攻撃を躱し、そのまま【ダブルホイール】を放つ。
バキンっと音と共に速射型の武器が空中で砕け散り、光の粒となって消えていく。
だが俺の背中を飛び越す形でセラが跳躍し、空中で姿勢を反転、アマテラスの頭部目掛け【マジックエンチャント】が施された武器をショットガンに変形させ【デッドレンジ】を放つ。
アマテラスは頭部に直撃を受け、HPが一気に4割程まで低下する。途端に腕と尻尾をがむしゃらに振り乱し、周囲を薙ぎ払う。
『がぁああ"あ"あ"あああ!!!!』
腕を広げ、天に向かって咆哮するアマテラスから距離をとる。セラが一撃受けていたが即座にミラが回復、俺はドラとアマテラスの正面に立ち、2人を護る。
『こ"ろ"す"!!!!』
そんなアマテラスの声が聞こえたかと思った瞬間、アマテラスが腕を振りかぶり地面に叩きつける。
地面が大きく揺れ視界がブレる。そんなブレる視界でアマテラスが両腕を前方に構えるのが見え、影のような指先が俺達に向かって伸び、全員を貫いた。
「ぐっ……っ!?」
全員HPは全快だ。一撃死はない。しかし体勢が大きく崩された。
その隙にアマテラスは筋肉でパンパンに膨れ上がり丸太程にまでなった右腕を振り上げ、真っ直ぐ俺に向かっており、すでに拳が繰り出している。
(やばっ……)
あぁ……ここで俺は終わりかな。そもそも、ソロ専用のダンジョンに出てくる敵にしては強さが明らかにおかしいんだ。コイツは強過ぎる。
イベント、まだ2日しか楽しめてないのに、残念だ……
実際に死ぬ訳では無いが、迫る拳を前に死を覚悟したからか思考が一瞬で巡る。
だが、諦めきっていた俺の視界が横から入ってきた何かに塞がれる。
「えっ……」
俺の視界を塞いだ何かは空中で派手にバラバラとなり、空中分解した破片の中にはレラがいる。
何が起きたか考える間もなく、自然と体が動く。
「ドラ!!」
空中に投げ出されたレラはドラに任せ、俺はボロボロになった武器を再び強く握り締めアマテラスに肉薄する。
あと1回でも武器を振るえば強撃型も破損する。ならばと思い、俺の切り札【ノヴァインパクト】を発動しつつ、アマテラスの振るった左腕を頬をカスりながらも掻い潜る。
【ノヴァインパクト】の溜めが完了し、武器を振りかぶったその時、洞窟全体に、いや頭に直接響くような声が聞こえてくる。
『ここじゃ、ここを切り裂け!』
そんな声と共にアマテラスの額に光が集まる。
歯を食いしばり、渾身の力でアマテラスの額に集まった光に【ノヴァインパクト】を放つ。
『ぎぃいっ!!あ"あ"ぁぁぁああああ』
額にあった光を【ノヴァインパクト】が一瞬で打ち砕く。
砕けた光から真っ黒な光が血のように噴出し、空中に掻き消えていく。同時に俺の武器も砕け散って光の粒に変わっていく。
「ど、どうだっ!?やったか?」
武器を無くしたが警戒は解かず、一瞬だけレラの方に視線を向けると、ドラに抱えられたまま回復を受けているレラが見えた。
消えていないということは死んでない。レラのほうは大丈夫そうだ。
しばらく続いた黒い光の噴出が終わり、アマテラスがドサっと地面に倒れ込む。
力なく倒れたアマテラスだったが、それに反し全身がキラキラと黄金色に輝き始めた。
アマテラスのHPバーが消え、どれだけHPが残っているか分からない。再び鑑定を使ってみる。
―聖獣アマテラス―
・呪縛から解放され真の姿を取り戻した。
「なんとなく分かってたけど、コイツが聖獣か……」
それは分かったが迂闊に近付けない。アマテラスのレベル表記が消え、まだ光のカーテンが引かれたままだ。
そんな事を考えていた矢先、アマテラスがゆっくりと顔だけを持ち上げ、視線を俺達に向ける。
『異界の冒険者……こっちに』
「…………」
『警戒する必要はない。今の妾にお主をどうこう出来る力はないのでな』
アマテラスがそう告げると同時に光のカーテンが消えていく。
【実績:聖獣アマテラスに"まさか"の勝利を達成しました】
獲得・アルカナ【至高の湯】
(久しぶりの実績達成だけど……まぁ後にするか)
「お前には色々と聞きたいことがある。答えてくれるか?」
『良かろう。いっそお主に嫁入りしても構わぬぞ?』
「それはいい」
『……つれないのぅ。だがそれも……うふ』
「良し、皆も無事だな!お疲れ様」
『テンキュー!!』
「特にレラ、ホントありがとうな。お前がいなかったら完全に死んでたよ」
今回は本当にレラに感謝だ。【ベガ】を必死に動かし致命的な一撃の盾となってくれたのだ。尻尾をピコピコ振っているレラの頭をポンポンした後、アマテラスのもとに歩み寄る。そしてドカッと腰をおろした。
さて、アマテラスから色々聞き出すとしよう!
読んで頂きありがとうございます。




