57話 探索の成果
探索班のプレイヤーから【松明】を数本貰い、洞窟を進む。
「いつも以上に気を付けて進まないとな……出てくる敵のレベル次第では即撤退だ」
俺がこの洞窟に来るまでプレイヤーが足踏みしていたのには理由があった。
それは結果的にプレイヤーが1人でしか入れない事に繋がるのだが、それでも何故、順次洞窟に入って探索をしなかったのか……
それはこのイベント中、死ぬとその後どうなるか分からないという事が理由だ。
通常であれば、死ぬと【脆弱】というデバフを受けた状態で復活し、デバフを受けた状態でさらに死ぬとアイテム全ロスと共にホームに強制送還される。
しかしこのイベントの場合、普通に進めれば最終的に3国間でNPCを交えてのPvP戦になると予想される。
それが分かっているのなら、決戦前にプレイヤーを暗殺などして戦力を削りたいと思うプレイヤーも多いはずだ。
さらには最終日に決戦があるまでは退場しない。などと明記されておらず、王を説得すれば初日でも戦争を仕掛ける事は可能で、その日の内に戦争の決着がついていたかもしれないのだ。
勿論考えすぎている可能性もあるが、このイベントでは死ぬと復活することは出来ず即退場、それ以降このイベントに参加する事が出来ないのではないか。という事をアル達は話し合っていたのだ。
それにわざわざ魔獣という、国を関係なく襲う共通の敵を用意しているのだ。死んで退場とならないなら存在意義が疑われる。
「アルに言われるまで思いもよらなかった……召喚者も同じだろうし、慎重にいかないと」
洞窟の入口から続く道は、道幅は広く天井も高いが、レラに【地形把握】を使ってもらうと、暗闇に紛れ人1人が通れるほどの細く枝分かれした道が脇に何本もあり、その先には小さな空間が点在している事が分かった。
少し足を止め、頭を悩ませる。
というのも、選択肢が多すぎたのだ。
死ぬと復活出来ず退場する可能性を考えると、敵の強さが分からない現状で下手に薮の中のヘビをつつく必要はない。
しかしその薮に探索の成果となる何かがあるかもしれないのだ。
「チーム通信は使えないか…………いや、覚悟を決めよう。この洞窟、俺が丸裸にしてやる」
この洞窟を踏破する決意を固め、1本目の脇道に入る。
そして先にある小さな空間に足を踏み入れた瞬間、光のカーテンが引かれた。
「マジか、いきなりボスとか……」
松明を振って周囲を確認するが、ボスらしい姿はない。
だが突然赤い光が宙に浮かび上がるのが分かった。
その赤い光は魔獣の眼と同じ光だが、光の位置が魔獣より高い。
レラから松明を受け取り、部屋の中央に投げ込む。
「人の影?……いや人型の魔獣か!」
鑑定すると【魔獣(人)Lv30】と表示された。
人型魔獣はゆっくりと松明の近くに歩み寄り、その姿を見せる。
人の影が立体化したような姿で、指先は異常に太く鋭く長い爪になっており、目に当たる部分には切れ長の赤い光が2つ光っている。
人型魔獣はゆっくりと腕を上げ、指先の爪を俺に向ける。
直後、その爪が触手のように伸び襲いかかってきた。
召喚者達が一斉に散開し人型を取り囲む。そして俺は正面から突っ込み、触手のような爪を武器で弾きつつ距離を詰め【ダブルホイール】を放つ。
腕で防がれてしまうが、その隙にドラの【ダークスラッシュ】、セラの銃撃が人型のHPを削る。
うねうねと動く爪が鬱陶しいが、数の優位で一気に倒しきった。
「ふぅ、皆お疲れ!ボスにしては結構弱かったな……うんっ?」
人型を倒した瞬間光のカーテンが消え、一息付くと周囲の地面から温かみのある淡い薄緑の光が漏れだし、空間を照らす。
その後全ての空間を巡り、人型魔獣を倒して回った。
人型を倒し明かりが灯ったからか、全体的に洞窟も明るくなり松明がなくても周囲の様子が見れるようになった。
あと行っていないのは、入口から続いている道幅が大きい通路の先にある一際大きな空間だけだ。
全員のHPを全快しているのを確認し、大きな空間に足を踏み入れる。
するとまたしても光のカーテンが引かれ、今度は三体の人型魔獣が一斉に現れる。
「転送、ベガ!……レラ攻撃はしなくていい、引き付けておいてくれ」
即座に【ベガ】を呼び出しレラを乗り込ませ、防御を固めさせる。
ライドに乗ったレラに人型が一斉に向かうが、俺とドラが人型を一体ずつ受け持ち分散、ミラ、セラがドラに加勢し一気に倒し、そのままレラの受け持つ人型を倒した。それと同時に俺も人型を倒す。
魔獣は心がない獣と隊長NPCが言っていたように、群れても連携してくるようなことはなく、人型も同じでそれぞれが思ったままに動くため、分散すると案外簡単に倒せた。
三体の人型を倒したことで洞窟全体がさらに明るくなった。そして明るくなった空間に、マップ上では表示されていなかった、さらに奥へと続く通路を見つける。
「この先に何か成果があると良いけどな……」
ここまで人型魔獣からは素材やアイテムのドロップはなく、経験値もLv30にしてはイマイチだ。道中に宝箱などもなく、今のところ成果は何も無い。
【ベガ】を送り返し、再び陣形を組んで通路を進む。すると奥から光が差し込んでいるのが分かった。
「おぉ、綺麗な場所!」
洞窟を出た先には森が広がり、中央には大きな泉があった。泉の水はエメラルドグリーンに輝き、泉の中心には円形に陸地がある。
泉に近付き水の中を覗くがそれ程深くはないようで、水に触れようと手を出した瞬間、頭上から影が舞い降りるのが分かった。
即座に距離をとる。
キラキラと輝く毛並みに反し、目は魔獣のように赤く、不自然に手足の先が真っ黒に染まったキツネが姿を見せた。
『い か い の …………あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁあああ』
俺達を見るなり何かを伝えようとしていたが、9本の尻尾を広げ叫び声に似た咆哮を上げる。
―アマテラス―
Lv ¢£%#&□△◆■
「な、なんだコイツ……」
レベルが訳分からないことになっている……
武器を構えると同時に九尾の狐アマテラスが飛びかかるように襲いかかってきた。
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