56話 2日目の始まり
イベント2日目。
「変な気分…………まずは報告だな。ログイン……っと」
見慣れない城の中にある部屋で目が覚めた。俺がログアウトする時に召喚者達は強制的に【同化】させられるようで、いつもの様に、起きると同時に召喚者達から抱き着かれる事がなく、どこか寂しい気持ちがあった。
早々に召喚者の皆を呼び出す。
「皆おはよう。今日もよろしくな!」
昨日クッコロに言われ、ログインした際にチーム通信のチャットで一言残して欲しいという提案があった。
チーム通信ではボイスチャット機能に加え、チャット機能があり、まずは皆にログインを知らせる。
チャットを見ると俺と同じ時間にログインしたプレイヤーが多いようで、大半が揃っている。俺達のサーバーでは遅くてもAM2時には全員が揃う。
全員が揃うまでは派手な行動は控え、代わりにプレイヤー間の友好を深めようという話にもなっている。
コン、コン、コン
突然部屋の扉がノックされ、体が跳ね上がる。
「客っ!?……えっと、どうぞ」
「失礼する……ログイン早々に済まないな。少し話がしたい」
なんと来客はクッコロだ。いつもはログインするとホームでのんびりする事が多い為、早々に誰かが訪ねてくるのは変な気分だ。
「……あぁ、うん。どうした?」
「その前に……ぅう"ん、ドラきゅーん、ほらお姉ちゃんのお膝においで!!怖くなーい、怖くなーい」
クッコロはベッドに腰掛け、ドラを見つめて自分の膝をパンパンと叩いている。顔は笑っているが目が怖い。
「目が怖いよ……まさかドラと遊びたいだけか?」
「冗談だ……さて本題だが__」
渋々クッコロの膝に座るドラを抱きしめ頭を撫でながら、クッコロが昨日夜会に参加した時に得た情報を語る。
夜会に来ていたのは国王、王妃など王家の関係者、そして政務を補佐する宰相や大臣、さらには貴族達、護衛として騎士団長や騎士などがいたようだ。そして、口元を布で隠し、露出の多い衣装を纏った魔術師の女性もいたらしい。
「ふむ、それで?」
「なに……在り来りな話だが、国を動かす人物が裏で糸を引いているのではと思ってな……格好からして魔術師の女は怪しいと思わないか?」
つまりクッコロは見るからに怪しい魔術師の女が戦争になるように仕向けたのではないかと疑っているのだ。
「さらに聞けばその魔術師、宮廷勤めになったのは2年前、そして2年前からこの世界では、小さくはあるが争いが各国で起こり始めたようだ」
「……まぁそれだけ聞けば完全に黒だろうな」
「ふふん!そうだろう?だから__」
「でも、多分その魔術師は白だと思うぞ?」
「へっ!?な、何故だ?これほど条件が揃っているのに!」
「だからだよ。出来すぎだ……ホントにその魔術師が黒幕なら、まだこの世界に来て丸一日も経ってない俺達プレイヤーに、そんな情報をみすみす握らせると思うか?」
「あ……確かに、そう言われれば……」
「魔術師に俺達の目を向けさせようとしてるんだよ。で、その情報は誰から聞いた?」
「騎士団長や貴族達、王妃も私に付いて案内してもらったから、その時少しだけ耳にしたな」
「……それだけじゃなんとも言えないな。黒幕なんていない可能性もあるし、疑いだしたら皆が怪しい……それより今更なんだけど、なんでそれを俺に相談した?頭の良い奴は他にもいるだろ」
「いや、なんとなくだ……黒幕説いや、マルチエンディング説を初めに唱えたのは君だからな」
「うーん、まぁそうなるか…………なんにせよ情報が足りないな」
「他の国と連携を考えるのであれば、今日か明日中には決定的な証拠がほしいところだ。襲撃への備えも並行してな!」
「あぁ!ホントにこのゲームは暇しないな」
「うむ……さて、私は行くとしよう」
「分かった……クッコロ、纏め役ホントにありがとう。皆助かってるよ」
「……ふふ、そうか」
クッコロは目をパチクリさせ暫くキョトンとしていたが、手を振りながら部屋を出ていった。
「自分だって色々やりたいだろうに……頭が下がる」
皆がやりたがらない事を率先してやってくれている。集まった情報なども分かりやすく纏め指示も的確、クッコロのおかげで俺達はかなり動きやすい。何か礼をしないとな。
▽▽▽
「じゃあアル、テラとレラの事はよろしく頼む。何回も言ったけど……」
「大丈夫です。戦闘班のフルパーティが一緒に行くんです。召喚者の2人とは言わず、採取班は護ってみせます!」
「そうか……任せた!」
全員が集まった後、チームを組んでいる状態だと、なんと召喚者達は俺以外のプレイヤーとパーティーが組める事が分かり、俺はテラとレラを自国に残し、他国に踏み入ることが出来るか検証することにした。テラとレラは貴重な【クラフター】と【ギャザラー】だ、やれることは数多くある。
テラには製作班と一緒にアイテムの製作を、レラには採取班と一緒に素材採取をしてもらうのだが、俺がいない間はしっかり護ってくれと念を押し、寂しそうに手を振るテラとレラに見送られながら、ライド【シリウス】に乗って出発した。
【ハーヴェスト】の国を北に見た時、西に【オーガスト】、東に【マジックラフト】が存在し、俺はまず東に向かう。
街が見えなくなるくらいの距離まで来ると平原にもモンスターが出現し始め、レベルは30~40と結構高い。
「全部新種のモンスターだ……メダル化とか出来るのかな」
独り言を呟くが、そんな事をしている時間が無いのは承知の上だ。戦争を回避するには他国にも行き、証拠を提示するか説得した後、その国にいるプレイヤー達にも足並みを揃えてもらう必要がある。
まだ夜が明けない内に出発し、俺が単独で他国を目指したのも役割分担を考えての事だ。
俺以外のプレイヤーにテイマーや召喚士がおらず、プレイヤー1人の力は1人分、対して今の俺は4人分の力がある。単独で行動しても4人パーティー分の戦力が俺にはあるのだ。
クッコロが夜会で手に入れた情報を頼りに暫く進むと、遠くに砦が見えてきた。この砦の先には樹海フィールドが広がり、【ハーヴェスト】と【マジックラフト】を分かつ境界になっているそうだ。
樹海からの唯一の出入り口を塞ぐように建てられた砦に近付くと、兵士に声をかけられる。
『お待ちください、異界の冒険者様!お一人のようですが、ここにはどんなご要件で?』
「この先に行ってみたいんだけど無理か?」
『なりません。これより先は入る者を惑わし、骨まで喰らい尽くす魔の樹海。さらにその先は別の国の領地となります。許可出来ません』
「それは分かってるんだけど……」
『も、もしや裏切り……我が国を他国に売ろうというのですか?それならば……』
兵士達が武器を手に取りはじめ、慌てて否定する。
「待て待て待て、そんな気はないよ。ただ先がどうなってるか気になっただけだ」
『そ、そうでしたか。攻撃を仕掛けるなどという指示も受けてなく、冒険者様が単独で行動をしていたのでつい……』
「紛らわしい事して済まなかった。俺達は冒険者だ。色々気になることは調べておきたいんだ」
『左様でございますか!』
なんとか誤魔化せたが、この砦を正面から越えるのは無理そうだ。怪しまれない程度に周囲も見てみたが、都合よく抜け道になるような場所もない。
砦の先に行くことは諦め、チャットで現状を報告し帰路に着く。
【ハーヴェスト】の街に辿り着き、チャットを確認すると、どうやらレラと一緒にいる探索班が山の中で洞窟型のダンジョンを発見したそうで、俺もそっちに向かう事にした。
ちなみにテラは製作班のエースとなって街で頑張っているようなので、もう少しだけ別行動する事にした。
「あれ、中には入らないのか?」
ダンジョンに辿り着くと、入口にプレイヤー達が集まり、何やら相談しているようだった。
俺の声が聞こえると、真っ先にレラが人の群れを掻き分け飛びついてくる。
「ただいま!」
レラに痛いくらい体を締め付けられアタフタしていると、アルが声をかけてきた。
「ゼルさん、このダンジョンなんですが……」
どうやらこのダンジョンはプレイヤーが一人でしか入れないようで、誰が入るか相談をしていた真っ最中だったようだ。
「パーティーを組んでたら、このダンジョンには入れないのか?」
「いえ、詳しいことはまだ何も……」
ということで軽く検証してみると、プレイヤーの誰かが中に入ると、以降出てくるまでは誰も入れなくなるようだ。
「ちょっと俺に入らせて!」
プレイヤーが複数入ることはダメだったが、召喚者達はどうだろうか。
そう思ってダンジョンに足を踏み入れる。
「……入れるな」
「召喚者は召喚士一人の力の一部ってことなんでしょうか」
「まぁそうだろうな……じゃ俺が行ってくるよ!俺の召喚者だ。意思疎通も簡単だし、レラがいれば地形の把握も楽勝、5人パーティー分の戦力もあるしな!」
「分かりました。お願いします!」
さて、この洞窟には何があるんだろうな。
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