55話 緊急会議
本日2本投稿。2話目
少しすると順次プレイヤー達が集まり始め、会議室の雰囲気が引き締まる。
「急な呼び出しに付き合わせて済まない。まずは探索の成果を聞いておきたい」
採取の方では主に木工、錬金、裁縫、調理で使える素材が豊富に手に入り、洞窟で鉱石類も発見したそうだが、まだ奥深くまでは入っていないらしい。
モンスターも森には普通に出現するようだが、浅い場所には弱いモンスターしかいないようだ。
「ふむ、明日には本格的に周辺の調査をしたいところだな……あとは__」
コン、コン、コン
クッコロの話の途中で扉がノックされ、直後クッコロが「どうぞ」と返すと、とても穏やかな声が俺達に届いた。
『失礼いたします。皆様にお茶をご用意いたしました』
「これはアイリーン様……殿下自らの訪問とは恐れ入ります」
さすが騎士ロールプレイをしているだけあってクッコロが丁寧な対応をしてくれる。
NPCのネームプレートには【アイリーン】と表示され、俺にはこの女性NPCが殿下と呼ばれる偉い人、くらいしか分からないが、階級の高い人物なのだろう。
給仕の女性NPCを従え、豪華なドレスを纏ったアイリーンが俺達プレイヤーに優雅な挨拶を見せ、給仕の女性達が順次お茶を配ってくれる。
『この国の為とはいえ、どうかご無理はなさらぬよう。皆様ご自愛下さいませ。では……』
そう言ってアイリーンは俺達に微笑みかけた後、給仕の女性達とすぐに退出していく。
「話そうと思っていた人物の方から訪ねてきたが、さっきのアイリーンという女性がこの国の王妃だ」
クッコロは数人のプレイヤーに城の探索を任せ、自身は集めた情報などを纏めていたようで、その時たまたま王妃と知り合ったらしい。
「この後、歓迎のパーティーを開いてくれるらしい。さらにその後、夜会もあるようで私は情報収集も兼ねて参加するが、他に行きたい者はいるか?」
「パスで……」「俺もパス……」「私も……」
当然俺もパスだ。
「恐らくこの夜会もイベントだと思う。戦闘に探索、私は今のところ役にたっていないからな。しっかりと情報を集めてくるぞ!」
「頼りになるぅ……」
「さすが騎士団長!!」
「オホン……それはさておき、後は街のイベントについてだ。手軽に木材が採れる場所が出現したと聞いているが、詳しい説明を頼む……」
クッコロが俺に視線を向け、そう告げる。
俺はクエストが発生した場所やNPCの特徴、対応まで全て語り、お茶を飲む。
「あ、ちょっと私からも良いですか?」
チャウチャウが手を挙げて立ち上がる。
「私もビックリしたんですけど、その育成林から採れる木材がただの木材じゃなくて【上質な木材】だったんですよ。これ使えば色々便利なアイテム作れますよ!」
「あ、言い忘れたな……ゴメン」
結果として育成林は【木工士】などのスキルを持っていることがキーとなり発生すると結論付けたが、クエストを進めるとイベント貢献度だけでなく、他にも特典があると分かると、他のプレイヤー達もザワつき始めた。
「ってことはやっぱりNPCのクエストをこなしていくと、便利な施設なり素材なりが手に入るんですかね?」
「だったらNPCから余計な反感をかわないように、過剰なくらいヨイショしないとですね!」
「それは違うぞ!」「いや、待ってくれ!」
俺とクッコロの声が重なる。
「良く考えて欲しい。我々の行動でイベントの結果が変わるんだ」
「あぁ、過剰に持ち上げるとNPCから異界の冒険者は都合の良いコマだと思われる可能性もある。いくらクエストだからってNPCに都合が良すぎる対応をすると、また別の結果に変わるかもしれない」
例えば俺達プレイヤーは人助けのつもりで親切にしたとしても、知らないところで悪事に手を貸してしまう可能性もある。
俺が助けたNPCも新しい荷車を作ったり、積荷の中身を補完したりしていたら、今とは違う結果になっていたかもしれないのだ。
「マジ?…………NPCによって対応変えろってこと?」
「いや、対応を変えるというより、多分接し方だな……皆はNPCと会話する時って何を考えてる?ただのクエストのフラグだと思ってないか?」
「…………」
「俺はNPCを普通の人だと思って接してる。それがクエストに繋がったとしても、気に食わない内容のクエストなら断るし、本当に困ってるようならクエストとか関係なく助けてる」
「…………」
「例えば、リアルで歩道を歩いている時、何かを落としたとする。道行く人全員が一斉にそれを拾いに集まって、修理したり、新品を作って渡してきたら、気持ち悪くないか?」
「た、確かに!」
「例えが少しおかしいかもしれないけどな。でも過剰な優しさや態度は時に反感をかって、普通好感度みたいのって下がるんじゃないか?」
「ゼルに付け加えるなら、今回それがバッドエンディングルートに繋がる可能性もある。難しく考えず、自分が正しいと思う接し方で対応すれば問題ないはずだ。万が一問題になったとしても、それはそれ。所詮ゲームだ、気にする必要はない」
「リアルとは違って俺達はスキルやらステータスがある。それを加味してリアル同様に人と接するように対応していけば良いって事だな!……今まで自分の考えを表に出さなかったら上手く伝えられてるか分からないけど……」
ゲーム内のNPCではあるが高性能なAIを搭載している。感情と呼べるモノを持っているのは俺の召喚者達を見れば一目瞭然だ。
従来のゲームのように決まった返答しかせず、特定の行動しかしないNPCとは違い、このゲームのNPCは俺達人間に限りなく近いと存在というわけだ。
全員俺とクッコロの意見に感心したようで、ウンウン唸っている。
「マジで2人共凄いですね!そこまで考えたことなかった……」
「俺もです……このゲームのAI舐めてました」
俺は召喚者、パズ達、アクセル達という、人に近いNPCに接する機会が多くあったからこそ、こんな結論に至ったわけだ。
「俺の店のNPC達も、最近は物凄く遠慮するようになったからなぁ……持ち上げられ過ぎるのも心地が悪いんだと思うぞ?」
「「えっ!?」」
締め括るつもりで何気なく言った言葉に、全員がギョッとした表情で見つめてくる。
「えっ……な、なんだよ?変なこと言ったか?」
「ゼルってプレイヤーネームで、お店って……今掲示板で話題になってる獣人達のお店の事ですか?」
「お、おう。多分そうだな……」
「マジかよ……やっぱNPCに対する接し方で結果が変わるんだ……ゼルさん以外、お店が出せない理由がわかった気がする」
ゼルなんてキャラネームは重複することが多いため、俺が話題になっていた当人だとはみんな思ってなかったようだ。
そして、やはりほとんどのプレイヤーがNPCを、所詮NPCだと思って接していたらしい。
俺も最初のジョブが召喚士じゃなかったら、そしてテラ達じゃなく別の召喚者だったら、今とは違った考えになってたかもしれない。
「兎に角だ!この後はパーティー、そして街でも酒が振る舞われ、持て成してくれるそうだ。そうなるとログアウトの時間が迫る者もいるだろう。最後に皆のログインする時間を教えておいてくれ」
自分が思う以上に時間の流れが早い。14時から始まったイベントだが、他のプレイヤー達と関わることですでに夜になり、パーティーなどに参加すると今日はこのままログアウトとなりそうだ。
読んで頂きありがとうございます。




