53話 主人公・ゼル
城内のマップも定かではない内に、早速魔獣とやらが襲撃してきた。
走り回っていた兵士NPCを呼び止め、俺達の案内についてもらい共に城を出て城下町へ、そして正門へと向かう。
ゆっくり街を見るのは襲撃が終わってからになりそうだが、走りながら見た感じ【レア】同様に西洋風の街並みのようだ。
門に辿り着くと、そこにはすでに多くのNPC兵士達が集まり襲撃に備えている。
『冒険者様方、ご助力感謝致します。今回、魔獣達はこの正門の向こう、平原に集まっております。奴らは心を持たぬ獣……どうかお気をつけ下さい。皆様に聖獣様のご加護があらんことを……』
俺は城門に跳躍し、跳ね橋の向こうに見える黒い塊に視線を向け目を凝らす。目が赤く全身真っ黒な四足獣で、ハイエナのような容姿をした魔獣が、数百体集まり黒い塊になっているようだ。
「とりあえず今回は私がチーム通信を使ってここから指示を出す。メインが戦闘ジョブでない者も全員パーティを組んでくれ」
チーム通信はチーム限定機能でボイスチャットのようなものだ。
俺が門から飛び降りると丁度クッコロがプレイヤー達にそう言いつつ指示を出していた。
第一印象最悪な俺を気遣ったのか、声をかけてくる。
「君は……私とパーティ組むか?」
「いや、俺は召喚士だ。召喚者達とパーティ組むから問題ない。気遣ってくれてありがとう」
「そ、そうか……いや、しかし召喚者が見当たらな__」
クッコロの言葉を遮るように俺の体から光が溢れ、俺の体から召喚者達が飛び出てくる。
「……皆お待たせ、張り切っていくぞ!!」
コクコク!!
「う、うそ……なんで召喚士なのにテイマーみたいな事……」
同化は本来の召喚士では有り得ない能力だ。クッコロは俺がテイマーのように召喚者達を突然出現させたことに驚いてロールプレイを忘れているようだ。
「口調……それが素か?」
「ぅう"ん……失礼した。問題ないのだな?」
「大丈夫。ありがとう」
騎士団長様は気苦労が絶えないなぁ……その後、クッコロはNPC達にプレイヤーの援護に回るように指示し、門の上に登って仁王立ちしている。
俺達プレイヤーもそんなクッコロに引っ張られ臨戦態勢となった。
「来たぞ!皆かかれーーーー!!!」
「「「おぉーーー!!!」」」
クッコロの号令で戦闘に自信のあるプレイヤーが平原へと飛び出していく。
そんなプレイヤーを他所に、テラが俺のズボンを引っ張ってきた。
「分かってる!頼りにしてるぞ」
しかし、こうも早くとっておきをお披露目することになるとは思わなかったが、テラの要望通り、派手にお披露目といこう!
「転送、ベガ」
俺がそう告げると巨大な魔法陣が足下に現れ、ライドが転送されてくる。
しかし以前制作したバイク型のライド【シリウス】とは違い、ロボットとパワードスーツの中間のような人型の形状をしているライドだ。手足が付いており、胴体上部にあたる部分がやや膨らんで、オープン型の2人用操縦席になっている。
腕には採掘用のドリルを装備していて、ドリルを回転させての攻撃が可能で、背面のブースターを使って短い間だがホバリングも出来る。
ライドアーマー【ベガ】は【機械の街】で買った魔導パーツや【カスタムチップ】をふんだんに使い【シリウス】のような機動性を捨てた代わりに、耐久性と戦闘能力を持たせたライドで、テラとレラが使用することを前提に作った俺の自信作だ。
【ベガ】はテラとレラがフィールドでも活動しやすいように、敵に襲われても身を守れるようにと考えたもので、以前拠点を引っ越す際に、テラがライドに乗って遊んでいた事を思い出し、色々試した結果NPCでもライドが操縦出来ることが分かったのだ。
【シリウス】は体格的に操縦が無理だったが、よく考えてみればセラが操作が複雑な武器【クロスレンジ】を巧みに操るのと同じで、テラとレラもライドの操縦くらい楽勝でこなせたのだ。
「壊れても良い、好きに暴れろ!」
コクコク!!
本来ライドに乗るとアーツは使用出来なくなり、敵からは狙われやすくなるが、戦闘用のアーツを覚えていないテラとレラには関係ない。そしてライドの出力が【ベガ】の攻撃力に直結し、採掘用のドリルアームが武器に、厚い装甲が盾となり群がってくる敵を迎え打てるのだ。
「よし皆、好きに暴れろぉ!!!」
【ベガ】から駆動音と共に背面のブースターから魔力粒子が噴出され、ズンズンと地面を踏み鳴らしながら群れに突っ込んでいく。俺や他の召喚者も武器を構え後に続き、魔獣との戦闘に入った。
魔獣のレベルは全て15、攻撃は単純で噛み付きと引っ掻きくらいしかないが、とにかく数が多い。目測だが数百は余裕でいるだろう。
▽▽▽
「うわぁ!!!」
敵陣深くへと切り込む道中、数体の魔獣にLv10台のプレイヤーが囲まれていたが、セラとミラがそのプレイヤーの前に立って敵を蹴散らし、ミラが回復させている。
「あ、ありがとう……」
他のプレイヤー達のサポートもしつつ、ベガを駆り満を持して俺達の前を進むテラ達は、魔獣をガリガリとドリルアームで削り、腕を振るって薙ぎ払っていく。
ドラは集団戦が少し苦手だが堅実に魔獣を仕留め、俺も召喚者達に負けじと魔獣の群れを斬り崩していった。
他のプレイヤー達も流石の腕前で、数百体いたと思われる魔獣は瞬く間に排除されていき、10数分後には殲滅が完了した。
「皆良くやった、我々の勝利だ!!!」
「「おぉーーー!!!」」
「……勝ったみたいだな。皆大活躍だったぞ、お疲れ様」
『テンキュー!!』
クッコロのチーム通信が殲滅を知らせ、盛り上がりを見せたプレイヤーが門に帰還し、俺もそれに続く。そんな俺達を兵士達が出迎え、隊長格のNPCが一歩前に出る。
『皆様、素晴らしい戦いぶりでした!ゆっくりと体を癒して今後の戦いに備えてください……今回の魔獣は恐らく索敵用、今後はさらに厳しい戦いとなります。お気をつけください…………早く昔のような穏やかな日々に戻って欲しいものだ……』
今回は魔獣のレベルも低い事もあって数百いても問題なかったが、今後はこの隊長が言うようにさらにレベルの高い魔獣などが襲ってくるのだろう。
今後の不安もあるが、魔獣襲撃は経験値的にかなり美味しいイベントだ。チームメンバーの誰かが経験値を得れば、同等の経験値がチームメンバー全員に入る為、さっきの襲撃で俺もレベルが1上がっている。
門周辺で未だ騒いでいるプレイヤー達を見ながら、街の探索にでも行こうかと考えていたところ、クッコロからプレイヤー全員にチーム通信が届く。
「皆、もう一度全員で話し合いがしたい。各自、色々と思うことはあるだろうが、会議室に集合してくれ」
「探索はまた今度か……仕方ないな」
そう呟き会議室に向かっていると1人のプレイヤーが俺に声をかけてきた。
「あっ、あの、ゼルさん!」
「うん?どうした?」
「えっと、僕はシルクスと言います。さっきの戦闘でその子達に助けられたのでお礼を言いたくて……ありがとうございました」
「だって……ミラ、セラ」
【シルクス】は俺達プレイヤーの中でただ1人レベルが10台のプレイヤーだ。シルクスはミラとセラに視線を合わせ頭を下げている。
ミラはそんなシルクスに丁寧にお辞儀で返し、セラは片手を軽く上げ、ヒラヒラと手を振っていた。
「チームなんだしあんまり気にするなよ。会議室、行こう」
「は、はい。ありがとうございます」
シルクスと共に会議室に向かい、少しすると全プレイヤーが揃った。
それを確認しクッコロが立ち上がる。
「仕切ってばかりで申し訳ないが、話を聞いて欲しい」
クッコロはそう切り出すと、今後の行動について色々と提案を出してくる。
イベント開始時は転送によって全プレイヤーが足並みを揃えることになったが、このイベントは一週間続く。その間、ログイン、ログアウトする時間はプレイヤーによって異なるため、些細なことでもチーム通信内にログを残し、意思疎通をしようという提案だ。
全員が同意したのだが、その後少しの沈黙が流れ、自然と皆の視線が俺に集まった。
「ん?なに?」
「そういえば君が単独でイベントを進めたい理由をまだ聞いていなかった。皆と戦った今でも考えが変わっていないのなら、今理由を聞かせて欲しい」
「あぁ、そうだったな……考えは変わってない。少し長くなると思うけど俺の考えを話すよ」
そう前置きし、アルに視線を向ける。
「な、なんですか?」
「アル、とある王様が言いました。ソナタは勇者だ。魔王が復活したため討伐して世界を平和にしてくれ……どうする?」
「突然なんですか?……しかし、そうですね……僕しか出来ないことのようでしたら、それも吝かではありませんね」
「ふむ、じゃあシルクスは?」
「えっ!?無理無理、僕なんて無理ですよ!!」
ここまで話すと勘のいいプレイヤー達は何かに気付いたようだが、アルはドヤ顔のままピンとはきてないらしい。
「突然話を振って悪かったな。だけど今の話、俺達の状況に似てるだろ?」
例えると、主人公の後ろに仲間が一列になって、魔王を倒し世界を平和にするゲームならさっきの王の言葉にはなんの問題もない。
しかし、それをこのイベントに当てはめた場合、俺達は王から他国を倒して欲しいと言われたが、それはクエストクリアの条件の内の一つでしかないのだ。
「このイベントのクリア条件は、この【世界の問題を解決】することだ。確かに他の国二つを倒せば解決になるかもしれないが、それはこの国の問題を解決したことにしかならない」
「……ふむ」
「多くのプレイヤーがイベントクリアの条件を勝手に他国を倒すことだと思い込んでるんだよ。クランの実装に合わせたイベント、王からのイベント進行指示、とかからの情報からな」
「つまり、私達の行動次第でイベントの結果が変わると?」
「俺はそう思ってる。それにすでにこのイベントの結果は3つあるだろ?俺はこのイベントをマルチエンディングだと思ってるんだ」
1つ目は俺達が勝利、2つ目は俺達以外の国が勝利、3つ目はさらに別の国が勝利。まだまだ違う結果はある。
「例えば、チーム機能に【脱退】【追放】機能があるよな?他国にプレイヤーが寝返る可能性がある時の処置に使えるし、そうなると他国と手を組んで1つの国を攻める事も出来る。なら……」
「全ての国が手を取り合い、戦争を回避するルートも存在する……」
「そういうことだ。しかしそうなると何故戦争にまで3つの国が発展したか、その理由を調べたかった。あくまでこれは俺の想像でしかないから、イベントの進行を邪魔しないように単独で動きたかったわけだ。納得してくれたか?」
「…………」
恐らくほとんどプレイヤーが、俺をワンマンプレイしたいだけだと思っていたようで、しばしの沈黙が流れる。
「で、でもそうなると僕達だけで解決できる問題じゃなくなります」
「そうだな。他国のプレイヤー達に連絡をとらないと戦争回避ルートは成り立たない……だけど、それなら他国に行けば良い。他国に入っちゃダメなんてルール、今の段階じゃわからないだろ?」
「そんなっ!無茶すぎます……行けばルールがわかる前に確実に攻撃してきますよ!」
「あのなぁアル、お前の常識だけが真実じゃないんだよ……他国には俺と同じように考える奴がいるかもしれないだろ?」
「そ、そんなこと……僕はただ、一般的な常識として……」
「一般的な常識……お前はなんでも大勢の人の声に従うのか?周りの人が言ってるから、やってるから、それはお前のやりたい事じゃなくてもか?自分の意見があって、行動も出来るのに?」
「…………」
「まぁ、落ち着け2人共。ゼル、君の話は分かったし私も君の考えに乗っかろうと思う。だが……」
「あぁ、今のままじゃ情報が無さすぎて、俺の妄想でしかない。情報集めてくるよ」
その後、話し合いで俺達【ハーヴェスト】勢力は戦争回避ルートを念頭におきつつ行動し、イベントを進行していくことになった。
会議室から出るとアルに呼び止められる。
「ゼルさん……」
「アルか?どうした?」
「失礼な事をいっぱい言ってしまって……すみませんでした」
「あぁ、慣れてるから気にしなくて良い」
「勇者なんてジョブになって、僕は特別なんだって、いつの間にか天狗になっていました。楽しむ事を忘れていたようです。だから……これからはゼルさんを頼りにさせてもらいますね」
「なんでだよっ!頼りにされるような事してないだろ」
「いえ、人生において大切な事を教えてもらえたので……では、失礼します」
「えぇ…………」
その後、アルだけじゃなく俺に対して暴言を吐いていたプレイヤー皆から謝罪された。
他人の言葉、行動、それらが胸に刺さり自分の考えや行動が変わる。それを俺は成長だと思っている。謝罪をしてきたプレイヤー達は自分の行動を間違いだったと受け入れ、謝罪という行動で成長を示したのだ。
読んで頂きありがとうございます。




