52話 イベント開幕
「あと30分か……待ち遠しいな」
【機械の街】に到着してから二週間が経った今日、いよいよ【一週間イベント】が開始されることとなった。
現在も同時開催されているイベント【手軽に夏を楽しもう】では召喚者達やフレンド達と海で遊び、屋台で買った食べ物を食べながら花火を見たりと、随分楽しませてもらった。
俺はこの二週間の間に【機械の街】で買った物を使って、イベントの為に色々と準備を進めてきた。試作段階の為このイベントでお披露目出来るか分からないが、今後必ず役に立つモノだ。
14時から一週間イベントが始まり、時刻になると特設フィールドに転移が開始される。
あまりこのゲーム内世界の設定について調べてなかった俺の知識不足なのだが、普段プレイヤー達が活動している世界の名称は【レア】というらしい。イベントが始まり新たな世界に行くと【レア】には戻ってこられないため、しばしのお別れとなる。
今回のイベントでは素材、重複するアイテム、予備の武具などの持ち込みが禁止される。一方で作業台など、生産ジョブに必須となるようなアイテムは、一度インベントリに仕舞うことで持ち込みが可能となっている。
そして特設フィールドも広大な土地となるためライドの使用も許可されている。
【一週間イベントに参加するプレイヤーの皆様にお知らせ致します。イベント開始5分前となりました。カウントダウン後、イベント特設フィールドへの転移が開始されます。よろしいですか?】
「きたきたーー!!!皆、新しい土地だ。楽しもうな!」
召喚者達も皆ニコニコ顔で両拳を空へ突き上げ、ピョンピョン飛び跳ね、楽しみにしているようだ。
そして20秒のカウントダウンが終わり、まずチュートリアルの時のような真っ白な空間に飛ばされた。空間中央の空中には【3658サーバー・106/150】という文字がゆっくり回転しながら浮かんでいる。
どうやら14時のスタートまではこの場所で転移してくるプレイヤー達が揃うのを待つようだ。
その間、周囲を軽く見渡してみたが知り合いはおらず、召喚者達は転移と同時に【同化】されたようで、この待機場所では出してやれなかった。
そして14時少し前に俺達のサーバーは全プレイヤーが揃い、14時になった瞬間再び転移が始まり光に包み込まれイベントが開始された。
目を開くと、そこは西洋風の屋内、しかも壁や天井の装飾から見るにかなり豪華な造りとなった部屋のようだ。
『おぉーー!!異界の冒険者の皆さん、お待ちしておりました。王に取り次いで参りますので、今しばらくこの場でお待ちください』
事前に待機していたのか、俺達プレイヤーを見るなり鎧を着込んだ兵士のNPCの声が部屋に響き、一言告げるとすぐに部屋から出ていった。どうやらお城にある一室に転移してきたらしい。
周囲には49人のプレイヤー。俺含めこの場にいるプレイヤーがチームとなり、イベントを進めていくわけだ。
少しするとまたさっきのNPCが現れ、王がいる謁見の間に案内された。玉座には豪華なマントを羽織ったThe王様が座っている。
『よくぞきてくれた異界の冒険者達……余がこの国【ハーヴェスト】の王である。突然のことで不躾なのは承知しておるが、実は頼みがあってそなた達を召喚したのだ』
「異世界に召喚された勇者みたいな設定だな……」
「はは、ですね。とりあえず話の続きを聞きましょう……」
俺の周囲にいるプレイヤー達がそんな事を言いながらザワザワしているが、俺も黙って王の話に耳を傾けた。
要約するとこの世界には、豊富な食料や資源を持つ国【ハーヴェスト】、魔法技術が発達した国【マジックラフト】、強力な兵力を有する国【オーガスト】の3国があるらしい。
3国間のいざこざが拗れに拗れ、現在までに何度も小競り合いをしてきたようだ。そしてついに戦争まであと一歩というところまできているらしい。
そんな状況になったある時、国を無差別に襲う新たな勢力【魔獣】なる敵が現れ、3国共に被害を受けた為あと一歩が踏み出せず、といった状況らしい。
『冒険者達よ、余の力が及ばぬばかりに、民には苦労をかけておる。余の代わりに民達の願いを聞いてやってはくれぬか?……余に従えとは言わん。しかし願わくば他国を打ち破る力をこの国に貸して欲しい…………まずはこの城で寛ぎ、ゆっくりと疲れを癒してくれ』
『冒険者の皆様、各自にお部屋を用意してあります。滞在中はそちらでお寛ぎください』
王の傍に控えていたNPCに再び案内され、謁見の間を出る。そして俺達が召喚された場所である会議室も自由に使って良いらしい。
どうやら各自にあてがわれた部屋がこの世界でのホームになるようだ。
とりあえず情報共有の為、プレイヤー全員で会議室に向かう。
「あー、やっぱクランバトルのPRイベントだなぁ」
「ですねぇ……期待してたのにちょっと残念」
「要するに、住人からのクエストこなして貢献度集めて、他の国を倒すイベントってこと?」
「多分そうでしょうね……」
「採取ジョブの人が素材集めて、生産ジョブの人が城壁を補強したり、直したりして敵襲に備えたりする感じ?」
「そこに魔獣っていう敵が邪魔しにくるんじゃない?」
会議室には先程までは無かった机や椅子が並べられ、皆が席に着いた瞬間から色々な意見を出し合っている。
口々に言い合っていると会議室は段々と騒がしくなり、話が纏まらなくなってきた。
そんな状況を見兼ねて1人の女性プレイヤーが立ち上がり皆の注目を集めた。
「少し良いだろうか!……チームを組んでいる為プレイヤーネームは見えているだろうが、私はクッコロ。一先ず話を纏めたい」
そう言われ気付いたが、チームを組んだ状態だとプレイヤーの名前やジョブ、レベルも分かるようだ。
【クッコロ】は種族がエルフなのか耳が少し尖って長く、騎士のような鎧を装備した美人さんだ。
「他に誰も纏め役がいないようなら、ここは一先ず私に仕切らせて欲しい。ここで好きなように喋るだけでは時間が勿体ないからな!」
「マジ?クッコロさんと同じサーバーだったとか超ラッキーなんだけど!!」
「相変わらずの騎士団長プレイ!!早くポンコツ発揮してあの言葉を言ってもらいてぇ!!」
有名な人なのか?動画配信者とかだろうか……
隣に座っていたプレイヤーに聞いてみる。
「なぁなぁ、あの人って有名な人なのか?」
「俺も詳しくは知らないけど、動画配信してて人気らしいですよ。結構強いらしいですし」
「へぇ、そうなのか!ありがとう」
こういう纏め役は皆やりたがらないから率先してやってくれるのは有難い。素直に任せるとしよう。
ちなみにだが、このイベント中は動画の生配信は禁止されている。イベント終了後に録画した動画をアップロードするのは大丈夫なようだ。
皆の同意を得られ、クッコロが話し始めた。
「個人の貢献度も大事だとは思うが、当面は皆で協力してイベントを達成しよう。フルパーティ7つは組める人数だし、生産、採取それぞれに活躍の場もある。余った者も交代でパーティを組めばいい。どうだろうか?この中に単独でイベントを進めたい者はいるか?いるなら挙手を願う」
確かにこういうイベントだと、個人プレイが仇になる場合もあるし、レベルも統一化されていないこのイベントではまだLv10台のプレイヤーもいる。
今回は無作為にプレイヤーが集められている為、イベントをクリアするにはプレイヤー間の協力がとても大事になってくるだろう。
そんな中、ただ1人手を上げたプレイヤーがいた。
……俺だ!
「ぅおぃっ!!お前ふざけんな!!輪を乱すような事すんじゃねぇよ!」
「うわぁ……マジで空気読めないなアイツ……」
「この状況で手を上げるとか逆に凄いわ」
「あ、ゼルって、あの炎上した……」
おっとぅ、散々な言われようだが、俺だって別行動をしたい理由はちゃんとある。
理由を話そうと、静かになるまで待っていたのだが、クッコロとは別の【アル】というプレイヤーが話に割り込んできた。
「まぁまぁ、みんな落ち着いて……ゼルさんはまだレベルも低いようですし、こういうイベントは不慣れなだけかもしれません……ね?みんな落ち着きましょう」
アルは優しげな表情をした男性プレイヤーだ。一見すると中性的な声も相まって女性に見えなくもない容姿をしている。
「それでゼルさん、こういうイベントだと単独行動すれば確かに個人の貢献度は上がりますが、1人が勝手に行動するとイベントそのものが失敗する可能性もあるんですよ。ゼルさんのレベルも低いようですし、ジョブも【新星】?って、たぶん初心者用のジョブですよね?僕みたいに【勇者】とかの強ジョブなら単独でも問題ないかもしれませんが、今の内に皆の輪に入って協力した方が良くないですか?」
Lv30は低いのか?しかし嫌な言い方してくるな……遠回しにコイツは、雑魚が勝手な事をするな、意見を取り入れろ、と言っているように聞こえる。
俺を本当に初心者だと思って、善意からの言葉かもしれないが少し引っかかる言い方だ。
「心配してくれてありがとう。でも俺だってそれは理解してるし、協力をしない訳じゃない。何か頼まれたら協力もするし、別行動で得た情報も共有する。さっきの挙手も多数決をした訳じゃないだろ?」
「いや、だからぁ……」
「まぁまぁ……確かに私も意思表示して欲しいという意味で挙手を求めただけだし、集団での行動を無理強いする気はない。出来ればなぜ別行動を取りたいかの理由を聞きたいところだが……」
堪らずクッコロが割って入り、助け舟を出してくれた。
「理由だけど……」
カンカンカンカン____敵襲!!!敵襲!!!
間の悪い事に俺が話そうとした瞬間、敵襲を知らせる鐘の音が響き渡り、城内のNPC達が大騒ぎしている。
どうやら早速【魔獣】とやらが攻めてきたようだ。
「くっ……とりあえず話は後だ!まずは皆で魔獣を片付けるとしよう」
「「「おおーーー!!!」」」
読んで頂きありがとうございます。




