50話 尊敬してるっス!
「んんーー、っはぁ……皆おはよう」
新しい拠点では個室を用意しているにも関わらず、ログインすると召喚者達はいつも俺に寄り添うように寝ていた。
疲れはちゃんと取れているのか心配になり、自分のベッドで寝るように言ってみたが余計に俺にくっついて寝るようになってしまい、それどころか、テラが全員が余裕で寝れるほどの特大ベッドを製作し、結局その特大ベッドを俺の部屋に設置して皆で寝るようになった。
目を擦る召喚者達と挨拶を交わす。
「皆、昨日はゴメンな?危うく死なせるところだった……テラもレラも、やっぱり武器を持つのは嫌か?」
コクコク
「ふーむ、何か方法を考えないとな……」
昨日はお店の事が落ち着いた為【冒険の洞窟】で一日籠りレベリングしていたのだが、帰り際狭い空間で多数のラプトルに囲まれてしまった。
必死に何体か倒したが、テラとレラがラプトルの爪に串刺しにされたのを見た瞬間、すぐに【簡易転移石】を使い脱出することで難を逃れた。
「帰り際ってことで油断もあったし、俺の判断も遅かったなぁ……今は【簡易転移石】も楽に手に入るから、ラプトル達を見た瞬間使うべきだった」
そんなアクシデントはあったが全員Lv30まで上がり、かなり強化する事が出来た。
テラやレラは戦闘そのものが出来ない訳ではないため、今後のことも考えて何か対策を練る事に決め、気持ちを切り替える。
「よしっ!ガレージも新しく作り直したし、今日はまず日課を終わらせて草原の片付け、その後は店の様子を見に行こうか!」
最初拠点にしていた草原は召喚者達の遊び場にすることを決め、ログハウスとガレージの撤去にかかる。
それが終わるとゴーレムに朝食を作ってもらい、庭先で食事を済ませる。今日の朝食はボリュームサンドだ。
「あ、そうだっ!テラ、アレ出来てるか?」
コクコク!!
「おっ!?じゃあ早速2つ共設置するか!」
お店の事が落ち着いた段階で、テラから便利なアイテムを教えてもらい早速製作を依頼しておいた。時間はかかったが、ついに出来上がったようだ。
まず1つ目が【共有収納箱】というアイテムで、2つ以上用意すれば中身を共有出来るようになり、お店にいるパズ達と【カスタムチップ】や、不要な装備の受け渡しが容易に出来るようになる優れ物だ。
もう1つが【転移扉】だ。これは所有する土地に設置する事ができ、設置した扉間の転移が可能になるアイテムだ。普通の転移とは違い、利用者を予め設定しなければいけないが、なんとパズ達も利用が出来る。
転移扉の一つはすでに完成してお店に設置しており、その扉の設定を決める際、パズ達も登録出来ることに気付いた。
さっき完成した【転移扉】をホーム側に設置すればパズ達もホームに遊びに来ることが出来る。
「ホーム側は予定通り拠点玄関の扉と入れ替えで大丈夫だな。よしよし」
【共有収納箱】も収納箱がおいてある部屋に設置し、転移扉を使ってお店に向かう。
お店側の扉は地下にある制御装置を設置している部屋の扉を入れ替えて設置した。
「おぉ、一瞬だな!」
ガチャっと扉を開けばそこは別の場所で、アニメにあったどこにでも繋がるドアを使えたような気分だ。
地下から店の方へ向かうと、俺に気付いたパズが慌てた様子で駆け寄ってくる。
『ゼルさん!!実は困ったことになってて……』
「うん?どうした?」
少し前から客が増え始めた事で、店の外で言い争いをするプレイヤー達が増えたそうだ。丁度今も店先で言い争いをしているらしい。
「分かった。俺がなんとかするよ」
『う、うん。ありがとうゼルさん。おいらちょっぴり怖くて……』
不安そうなパズの頭をポンポンと撫で店の外に出ると、プレイヤー数人が集まっている中心で言い争いをしている男キャラのプレイヤーが二人いた。
ちなみにプレイヤー達の名前は分からない。このゲームが全面展開された時にネームプレートを隠す設定が追加され、俺含め全員が名前を隠している。
「どうした?何か問題でもあったのか?」
俺が近付き問いかけると、周囲のプレイヤー達が一斉に視線を向ける。
「うるせぇよ、お前は関係ないだろ!黙ってろよ!」
「ぁっ!?んだ……」
……いかんいかん、すぐカッとなる癖治さないと……リアルの会社とかアクセルに「お前」って言われても気にならなかったけど意外と腹が立つな。俺も気をつけないと……
「だから___」「ふざけんな__」
怒りを抑え少し考え事をしている間も、プレイヤー達は俺そっちのけで言い争いをしている。
「ふぅ…………あのさぁ、人の店の前でケンカされても迷惑なんだよ。別の所でやってくれないか」
「「…………えっ!?」」
どうやら言い争いの原因は、謎の店の詳細を知りたい、言い争いをしている片方のプレイヤーの暴走がきっかけらしい。
最初はプレイヤーの建築区であるこの場所に、突然店が現れたことに驚いていただけだったようだが、買い物がてら獣人達から内情を聞くとオーナーがいるということが分かったそうだ。
イベント絡みだろうと、色々推察や検証が掲示板内で行われたが一向に条件を見つけることが出来ず、ついに不満が爆発したらしく、店番をしていた獣人に強引に詰め寄ったところ、もう片方のプレイヤーに止められ言い争いになったそうだ。
「駄々こねる子供かっ……おま……あんた名前は?」
「はぁっ!?教える訳……」
「迷惑行為受けてんだぞ?ブロックより通報が良いのか?」
「ちっ……マサだよ」
「あぁ、ネームプレート表示設定にしてくれたら良いぞ」
「うぜぇ」
そう言いつつ表示されたプレイヤーネームは【ユウキ】だった。
「何がマサだよ……クソガキみたいな事してんじゃねぇよ」
コイツは昨日も別のプレイヤーと言い争いをしていたそうで、毒づきながらも【ユウキ】はブロックし入店拒否にしておいた。
他のプレイヤー達にイベントの発生する場所や、内容の詳細も伝えたがユウキ含め全員がすでにクリア済みらしい。
腹の虫が治まらないのかユウキが悪態をついてくる。
「ちっ……どうせ過去の炎上騒動で運営から贔屓にされてんだろ……運営のPVにも出たらしいしな!」
「おい、もうやめとけって……」
「そう思うなら自分で運営に問い合わせてみろ。俺のプレイログ公開しても良いぞ?代わりに"お前"は通報するけどな!」
「あ"あ"ぁ、ホントにうぜぇ。マジで消えろよお前!」
「ここは俺の店だ。お前が消えろ」
その後ユウキは変わらず悪態を付きながら帰っていった。
そしてユウキを止める為に言い争いをしていたプレイヤーを呼び止める。
「あぁ、ちょっと待って!さっきは止めようとしてくれてありがとう。俺も熱くならずに済んだ」
「あ、いえ!自分はモフモフの獣人達が好きで通ってただけなんで……まさかゼルさんのお店だとは……あ、自分ザッキーと言います」
「そ、そうか……なんか気になる言い方だけど……」
「自分、ゼルさんが優勝したイベント見てガンズブレイドにハマったんすよ!さすがに2本は使えませんでしたけど……だから尊敬してるっス!」
「えぇ…………」
驚愕の事実だが、俺にファンがいたらしい。
その後、迷惑をかけたザッキーはじめ、プレイヤー達にお詫びの印として店の簡単なアイテムを配り騒ぎは収まった。
この日は警戒の意味を込め店で過ごすことに決め、しばらくするとフレンドのアリバー、ユーナからメッセージが届いた。
とあるプレイヤーが、【ゼルは子供のNPCを奴隷にしている】、【運営と癒着して情報をもらっている】などと掲示板を荒らす勢いで書き込みまくっているらしい。
「どこまでガキなんだよアイツ……通報だな」
俺だけじゃなく運営に喧嘩を売ったユウキはアカウント一時停止処分と準ブラックリスト入りになったらしい。
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