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46話 街の地下にあるもの

 天空の街に到着したが、すでに暗くなってきている。少し早いが街を探索する前に夜ご飯を食べる事にした。



「うーん、レアドロップ増加のバフは凄いけど、あんまり美味しくはなかったな……」



 この街の料理は、いわゆる薬膳料理に似て体には良さそうなのだが、リアルで食べれる薬膳料理ほど美味しくはない。代わりにどの料理もバフが得られる。



「こういうのをプレイヤーが改良して、味もバフ効果も高くなる料理を開発していくんだろうなぁ」



 そんな事を考えながら街を歩いていると、NPC武器屋を発見し、商品を見てみる。



「魔剣と魔鎌だ!!やっと武器を更新出来るな」



 すぐに購入することも出来たのだが、クラフターの書を取り出し、製作に必要な素材を確認する。



「武器作るには足りないけど、いくつか素材持ってるな……天空の庭で出てくるモンスターの素材か」



 作れるならNPCの店で買うよりテラに作ってもらった方が性能が上がる。金に余裕もないため、明日素材を集めて製作することにした。



「ログアウトの時間まで、もう少し商品見て回ろうか!」



 色々と欲しい物はあったが見るだけに留め街を巡る。街は中心地から離れていくとどんどん活気が失われ、朽ちた建物などが目につくようになった。

 さらに進むと荒れた土地が広がり、そこには朽ちた建物の残骸がそのまま打ち捨てられていた。



「さすがに全部の土地を活用してる訳じゃないんだな……んっ!?あれは……NPC?」



 子供くらいの大きさのNPCが打ち捨てられた建物の残骸のもとで何かをしている。近寄って声をかけてみた。



「こんばんは、何してるんだ?」


『うわぁっ!!!……冒険者さんか、驚かさないでおくれよ』



 体を跳ね上げ振り返り、そう言っていたのは犬の獣人の男の子だ。

 以前出会ったNPCステラはウサ耳と尻尾以外、人間と変わらない容姿の獣人だったが、目の前にいるNPCはかなり動物寄りだ。獣人種族は珍しいのか、俺も他の獣人を見たことがない。



「すまん、すまん……でもこんな夜更けに1人で何やってたんだ?」


『そ、それは……俺も立派な魔法道具職人になりたくてっ!!…………その跡地に埋まってるっていう作業場を掘り出そうかと……』



 どんどん尻すぼみになっていくNPCの言葉が印象的だ。



「作業場……分かった。俺も手伝ってやるよ!」


『本当かい!?ありがとう冒険者さん。おいらパズっていうんだ!よろしくね』


「よろしくなパズ。俺はゼルだ」



 これはイベントの予感がするな!

 しかし残念ながらログアウトの時間が近い。今すぐに手伝う事は出来ないが、軽く話を聞くとパズはずっとここに居て作業場を掘るらしい。

 パズの手伝いは明日からやることにしよう。



「またすぐ来るからな!」


『うん、待ってるよ』



 こうして一度ホームに戻りログアウト。起床しリアルで仕事をこなし、再び就寝。ログインした。



 ホームでの日課を終わらせ天空の街へ転移、パズのいる場所へと向かう。



「おはよう、パズ」


『何言ってるんだよ冒険者さん、今は深夜だよ?』


「はは……そうだな。で、具体的に何をすれば良いんだ?」



 パズ自身も詳しく知っている訳ではないようだが、この跡地には昔、地下に巨大で様々な機材が揃った作業場があったらしい。



 天空の街の発展に貢献した作業場だったらしいが、自然災害に見舞われ出入口が崩落、止むを得ず放棄したらしい。



『おっきな作業場だったらしいから、出入口は1つじゃないと思うんだ!その入口を見つけたい。手伝って……くれるかい?』


「おぅ、任せろ。すぐ見つけてやるよ!」


『やったぁ!!ありがとう冒険者さん!そうだ、仲間を紹介しとくよ』



 パズはそう言うと懐から光る石を取り出し、その石に向かって喋りかけている。



 少しすると物陰から視線を感じるようになり、瞬く間にかなりの人数の獣人が集まって来ていた。



「皆子供だな……」


『うん、大人達は街で働いてるから作業場探しは子供の仕事なんだ』


「大人の獣人も居るのか。でも街で獣人は見かけなかったけど……」


『獣人は魔力が低いからこの街では裏方になってるんだ。見えないところで頑張ってると思うよ?』


「…………そんな現状を変えたいから作業場が欲しいのか」


『うん……新しい建物を作ることも出来ないし、設備を買うお金も無いからね』


「分かった!ちゃっちゃと終わらせよう」



 なんというか…………重い話に首を突っ込んでしまった気がする。

 不当に扱われたり、争いなどはないそうだが、笑って聞ける話でもない。



「レラ、地形把握よろしく!」


 コク



 レラも気合い十分なようで、【地形把握】を発動する。そして俺のマップに地下の構造が徐々に描かれていく。



「確かに地下には大きな空間と、何個か小さい空間があるな……これが崩落した入口で、これは地上まで繋がってないし、他にはぁ…………」



 恐らく一番大きな空間がメインとなる作業場で、小さい空間は別の作業場だろう。

 大きな空間から伸びている道は、かなり深くで途切れており、崩落した入口だと思われる。



 マップを見ながら全員を引き連れゾロゾロと移動する。



「あった!!けど…………」



 見つけた入口は崩れた城壁の外にあり、島のかなり端の方だ。

 浮いている島の崖の中腹に入口が表示されている。



「ちょっと俺が見てくるからパズ達は待ってろ。歩いて行けないかもしれないからな」


『うん、頼むよ』



 入口の真上に立ち下を覗くと、杭が所々に刺さってはいるが、杭の間隔はかなり空いている。



「これはプレイヤーじゃないと無理なんじゃないか?入口が崩れた時に杭も一緒に落ちたのかな……」



 そもそもこんな入口を日常的には使えない。崩落した入口を掘り出すのもかなり無理があるし、それこそ新しい入口を掘るのと労力は同じだ。



「中から別の出入口になるような物が見つかると良いけど…………見に行ってみるか!」



 一度パズのもとに戻り現状を説明し、俺は召喚者達全員と同化、再び崖下にある入口に向かう。



 風で煽られる事もなく、飛天の2段ジャンプを使い杭に飛び移っていく。



 どんどん飛んで渡り、入口に辿り着いたが大きな鉄製の扉で作業場への入口は塞がっている。



「これ開くのか?」



 扉を開けるような仕掛けも見当たらず、とりあえず押してみる事にした。



 押そうと触れた瞬間、扉は独りでに動き内側に開いていく。扉の中の通路には等間隔で足元に照明が設置されており、所々消えているが、未だに点灯している物が多くある。



「あれっ!?……【浮島の地下】って、ここフィールド扱いなのか?」



 セーフティエリアである街の地下だが、フィールド扱いならモンスターが出現する可能性がある。慌てて同化を解除し探索陣形を組む。



 警戒しながら通路を進むが、今のところモンスターの気配はない。

 そして何事もなくマップで見た作業場のある空間、そこに繋がっている扉の前に辿り着いた。



「皆、慎重にいくぞ!」



 入口同様に触れると扉が自動で開いていく。徐々に見えてくる中の様子を窺うが、薄暗くハッキリは見えない。



 中に入り周囲の様子を見ていると、ガコンッと音が背後から聞こえ、振り返るとすでに扉が完全に閉まっていた。



「閉じ込めるにしても普通閉まるのを阻止しようとするのがテンプレだろ!!」



 愚痴りながら扉に触れるが開かない。はぁっと溜息をつき再度振り返る。



 中はかなり広く、大きめの体育館くらいはありそうだ。そしてパズの言う通り色々な設備が設置されている。



「作業場ってより生産工場みたいだな……」



 奥へと進み、中央付近に来た時だ。



 周囲に光りが走り、ボス戦の時に見られる光のカーテンが引かれていく。



「セラ、魔法は使うな!設備が壊れる。皆も出来るだけ設備は壊すなよ」



 そう言ってみたが相手が巨体だと全ての設備を護るのは無理だ。その時は設備を諦め、生き残ることを選択しよう。



 臨戦態勢を整えた瞬間、周囲に赤い光が瞬く間に増えていく。そしてグルルゥと猛獣のような唸り声が無数に聞こえてきた。



「殲滅戦か!皆、油断するなよ」



 次の瞬間、一体のモンスターが俺に飛びかかってくる。



 それに合わせて武器を振り下ろすと、モンスターは真っ二つになり地面に落ちた。



 真っ二つになったモンスターを見ると、所々が腐り、内蔵や骨が見えているオオカミ型のモンスターで、かなり生々しくグロい。



 真っ二つになったモンスターを鑑定するとゾンビウルフLv30と表示され、鑑定後、光の粒になって消えていく。



「Lv30……高いな」



 すぐに後続のゾンビウルフが飛びかかってくるが、どれも一撃で倒せていく。一撃死がないのはモンスターも同じはずだが、腐っているからなのか、ゾンビウルフはどんな攻撃でも当たれば一撃で倒せる。



「レベルは高いけど一撃で倒せる。皆、殺られる前にやれ!!」



 しばらく戦い続け、襲ってくる敵は居なくなったが、光のカーテンはまだ引かれたままだ。警戒を解くことなく探索し、物陰に隠れていたゾンビウルフ、足が千切れて動けないゾンビウルフなど、見つけ次第処理していく。



 そして光のカーテンが開かれた。



「ふぅ、皆お疲れ!テラとレラも良く頑張ったな」



 テラとレラが実際に敵を倒した訳では無いが、戦闘が苦手ながらも気概を見せていたため頭を撫でながら労った。照れくさそうにしているのがとても可愛らしい。



「さて、他の出入口を探してみるか!」

読んで頂きありがとうございます。

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