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37話 続くイベント

 謎のNPCに教えてもらった通り、湖を北方向に進むと湿原を発見することが出来た。



「新しいフィールドだ。皆、気を引き締めて行くぞ!!」



 ドラが俺の少し前を、テラ、レラが俺の脇に、ミラ、セラが俺の少し後ろをついてくる。これが俺達の探索陣形だ。



 湿原は足元が湿ってぬかるみ、背の高い草も生えている。慎重に探索を進め、かなり奥まで来たのだが、不思議なことにここまで1度も敵と遭遇していない。



「敵が居ないってことはないよな……」



 敵が出てこないことが逆に不安を煽り、さらに警戒を強め奥へと進む。



 次第に足元もしっかりとした地面に変わっていき、景色も森と言ってもいいくらいになってきた。



 色々と歩き回るが、それでも敵は出現せず、やがて木が生えていない開けた場所に出た。

 そこには無数の花が綺麗に咲いている、自然の花畑だ。



「なんで敵が出てこない…………んっ?」



 花畑を見渡しても、見る限り敵の姿はない。

 しかし大きな石に腰掛けて何かをしている人影が見えた。



「…………NPCか?」



 そのNPCは背を向けていたが、すぐに俺達に気付き軽く振り返った後、また作業に戻る。



 近寄っていくと、姿が段々と鮮明になっていく。



 陽の光をキラキラと反射する銀色に輝く髪、雪のような真っ白でフワフワの毛をした大きく長い耳に、桜の花弁が刺繍された浴衣のような着物。傍にはカタナが置いてある。



「ウサギの獣人?……」



 すでに俺達には気付いているはずだが、何かをしてくる気配はない。さらに近付いて話しかけようと思ったが、先に話しかけられる。



『こんにちは!この先の村に用事かな?』


「あ、あぁ。というより村周辺に面白い奴がいるって聞いたから…………アンタの事か?」


『んっ!?んー、多分違うかな。ボクはたまたま、ここで見つけた綺麗な花の絵を描いてただけだから!』


「……そっか!じゃあその面白い奴について何か知ってるか?」


『あ、ちょっと待ってね…………よしっ!完成』



 そう言って作業の手を止め、振り返るボクっ娘ウサギ獣人のNPC。名前は????と表示され分からないが、可愛い。



『残念だけど、ボクは何も知らないんだ。ごめんね……あ、それより君、イアイタチと会ったんだ!』


「えっ!?なんでっ……」


『ほら、肩にあの子の毛がついてる。取ってあげるね』


「あ、ありがとう……」


『あの子はボクの友達なんだぁ……はい、取れたよ』



 ここに来るまで毛なんてついてなかったはずなのだが……

 俺がそんな事を考えている間に、NPCは俺の肩から取ったイアイタチの毛を風に乗せて飛ばしている。



『じゃあ、ボクはもう行くね!』


「あぁ、送らなくて平気か?」


『えへへ……ありがとう。でもボク、こう見えても結構強いから平気だよ!あ、そうだ!君は東の谷には行った?』


「あぁ、入り口までだけど……」


『そっか!最近暴れん坊なモンスターが他所から来て住み着いたらしいから、注意してね!』


「分かった!ありがとう」


『うん、また会った時はよろしくね!』



 そう告げたNPCは、自身に風を集めて纏い、手を振りながら去っていった。



「ふぅ……さて、とりあえず今は村を目指そうか」



 さっきのNPCが「面白い奴」じゃないとなると、村に向かい情報を集めなければいけない。

 今はモンスターが出現してないが、夜になると一斉に出てきて、全滅の可能性は十分にある。ここは先を急ごう。



 俺の心配をよそに、村は案外すぐに見つかった。



 村と呼ぶにはかなり寂しく家も数軒しかない。集落といったほうが正しいだろう。



 ここはセーフティエリアのようで、井戸を中心に広場となっている場所の近くには巨大な水晶がある。その水晶に触れると転移が可能になった。



「転移名称は【山麓の村】か」



 数軒の家を訪ねて話を聞いたが、ほとんどが登山ルートを通って行くことの出来る天空の街についてだった。



 しかし1軒だけ距離を空けて建っている家の住人から全く違う情報を得ることが出来た。



 それはこの村から西にある森に、【モモチュー】というユニークモンスターがいるという情報だ。

 危害を加えてくるモンスターではないが、挑戦者を求めているらしく、勝てば褒美も貰えるらしい。



「面白い奴ってモモチューの事かな……行ってみるか」



 村の西に広がる森もセーフティエリア内のようで、モンスターは出現しない。

 獣道を通り進んでいくと、木々の間から光が射し込む神秘的な場所に出た。



『モッチュッチュ、よく来たな冒険者!!』


「笑い方も随分とユニークだな。お前がモモチューか?」


『チュッチュッチュ、そうっチュ』



 チッチッチ!みたいな感じの言い方だが、コイツがモモチューらしい。

 見た目は50センチほどのチンチラという動物に似ているが、耳は猫耳っぽく、目はさらにクリっとしていて丸く大きい。そして布袋を肩に担いでいるのが特徴的だ。



『モチュに勝てばいいものあげるっチュ!勝負するっチュ?』


「内容は?」


『簡単ッチュ!モチュを捕まえれば良いっチュ!ただし、攻撃は禁止ッチュ。そっちがその気ならモチュは逃げるッチュ!』


「語尾のせいで話がいまいち入って来ないけど、要するに追いかけっこしようって事か!」


『そうっチュ!モチュを捕まえれたら、冒険者の荷物袋、大きくしてやるッチュ!』


「なるほど、インベントリ強化か!」



 ルールは簡単で、一定範囲内を逃げるモモチューを制限時間の10分以内に武器、スキル、アイテムを使わず捕まえれば勝利となる。



 幸いなことにここはセーフティエリア内の為、夜になっても敵は出てこない。ホームにすぐ転移も出来るし、村に戻ればログアウトも出来る。

 思う存分挑戦出来るわけだ。



 まずは軽い気持ちで挑戦したのだが、想像以上に厳しい。



 直線を追いかけるだけなら簡単だとは思うが、体が小さい上に、森という地形を上手く使って姿を隠す。さらに短い時間だが透明になる能力があるようで、度々姿を見失ってしまう。



「召喚者達は参加させられないし、武器の特殊アクションを使って高速移動も出来ない……」



 とにかくがむしゃらに追い回してはみたものの、一向に捕まえられる気配はなく時間だけが過ぎていく。



『モッチュッチュ!降参ッチュ?』


「まだまだ!」



 召喚者達の応援を背に受けながらひたすら挑み続け、強制ログアウトまで残り1時間となった。



 後1回か、次でラストにしようと思い、再び挑戦する。



 ここまでやって分かったのは敏捷ステータスが足りず、モモチューに追い付いて捕まえるのはほぼ不可能だということだ。

 それでもチャンスはあった。



 がむしゃらに追い回す風を装い、逃げ場のない地形に追い込んでいく。

 上手く誘導することができ、あとは捕まえるだけなのだが、モモチューが透明化し、姿を見失ってしまう。



(焦るな……)



 モモチューの透明化はそれほど長く続かない。

 透明化がきれるまで動かず神経を研ぎ澄ませる。



 そして、俺の横をソロ〜っと通り過ぎようとしていた時に丁度透明化がきれ、飛びつくようにモモチューに抱きついた。



「よっしゃーーーー!!捕まえたーー!!!」


『モッチュ〜、参ったッチュ。モチュの負けッチュ』



 その後、インベントリを強化する為だと言われ、モモチューが持っている袋でぶっ叩かれはしたが、無事インベントリも強化され、さらに多くの物が収納できるようになった。



『鈍ってる体を鍛えたら次はもっと本気でやるッチュ!覚悟するッチュ!』


「おう!俺ももっと鍛えとくよ」



 どうやらまだモモチューは本気ではなかったようで、次もあるらしい。



 村に戻り、転移でホームに帰る。

 ホントは皆で夜ご飯も食べたかったが、時間がないのでこのままログアウトとなった。

読んで頂きありがとうございます。

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[一言] 出たな!モモチュー!!モモチューと遊びたい!!
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