36話 クエストの先で
ミラとセラ用の進化の宝玉が手に入った。
必要なメダルも手持ちにある為、ログインしたらすぐに進化させようと思っていたのだが、ログアウト中に色々と考えが変わった。
進化すれば確実に強くはなるのだが、レベルが1まで下がってしまう。
その時はローテーションを組んで召喚者達のレベルを上げようと思っていたのだが、進化させる前に探索してクエストアイテムの【月華の雫】を手に入れておけば良いと思い付いた。
アイテムを入手さえすれば後は渡すだけ。経験値もクエスト達成報酬で貰えるため一石二鳥だ。
「というわけで進化はお預けだ。ホームの採取して、朝までに色々準備してから湖にアイテム採りに行こう!」
湖には得体のしれない何かが居るとの事で、ヒーラーのミラが居るとはいえ、回復アイテムもしっかり準備して朝を待った。
湖に行くには森を抜けなければならない。森には先日出会ったブラックスパイダーをはじめ、ブラックの名がついたイヌ、イノシシ、ヘビ、ゴブリン、移動する巨大な肉食花、妖精などが出現する。
厄介なのは蜘蛛と妖精だ。蜘蛛は森という地形の有利も相まって単純に強く、妖精は他のモンスターを呼ぶ為、かなり戦闘が長引いてしまう。
それでもなんとか先へと進み、昼過ぎに森を抜け、目的の湖までやってきた。
「おぉ、綺麗な場所だな……」
円形に広がる湖で、乗用車が丁度収まるくらいの陸地が間を空けて続いている。続いた陸地の先、湖の中央にはさらに大きな陸地があり、そこはホームの草原くらいの広さがありそうだ。
「さて……何も出てきてくれるなよ」
フラグっぽい事を言った後、中央の陸地を目指し進んでいく最中、時折鳥っぽい鳴き声や、羽ばたく音が聞こえてくる。
中央の陸地に降り立ち、警戒しつつ周囲を見渡してみると、1輪だけ咲いている花を見つけた。
「あれが月華かな?……」
近付こうとした瞬間、上空を巨大な影が覆う。
ピェーーーーーー!!!
ズシンと勢いよく地面に降り立ったのは、重ダンプカー程の大きさがある巨大な鳥だ。
すぐに身構え警戒するが、ボスであれば戦闘範囲を指定する光のカーテンが引かれるはずだが、今回それはない。イベント関連の敵か、単純に出現した敵の可能性もある。
―絶不鳥―
Lv????
「ユニークかよ……」
鑑定するとユニークモンスター特有の表示がされている。
「ユニークは強いからやり合いたくはないな。離れて様子を見るか」
あの敵さえ居なくなれば、さっさとアイテムを採取して逃げれば目的は達成となる。無理にユニークの相手をする必要は無い。
だが一向に絶不鳥は動かず、そればかりか常に俺達を視界に捉え、警戒態勢をとっている。
埒が明かないと思い、武器を構えて距離を詰めてみるが、翼を広げ鳴き声を上げると、広範囲に渡って雷が降ってくる。
「あれを掻い潜ってアイテム採取するのか?難易度高すぎだろ……」
絶不鳥もイアイタチと同様に、一定距離に入ると広範囲の雷で攻撃してくるが、距離を開けばまた膠着状態となる。
「みんなはアイツの攻撃範囲に入らないように!俺が危なくなったら踏み込んで注意を引いてくれ。ミラは回復頼んだぞ!」
召喚者達に指示を出し、絶不鳥の間合いに飛び込むと雷が雨のように降り注ぐ。
なんとか躱して、ミラの回復で死ぬことは無いが、距離を詰めることが出来ず回避で精一杯。かなりジリ貧状態だ。
そんな状態で粘り続けること数分……
絶不鳥の行動が突然変わり、空中に飛び上がったかと思うと、中央の陸地全てを覆う程の雷の槍を広範囲に作り出す。
「時間制限あるのかよ……」
詰んだ…………そう思いはしたが、諦めきれず召喚者達のもとに戻り、全員で雷を迎え撃とうと試みる。
次の瞬間、絶不鳥が翼を羽ばたかせると同時に無数の雷の槍が降り注ぎ始めた。
武器で払い落とす間もなく、1発の槍が俺に直撃し、さらに後続が迫ってきているのが分かった。
「くそっ!…………あれ?」
目を閉じて全滅を覚悟していたのだが、意外にも衝撃が襲ってこない。
目を開けると俺の目の前に背中を向けたNPCが立っていた。それと同時に雨のような無数の雷の槍もいつの間にか消えている。
『よう、ちょっと待ってろ』
「はっ?え?…………」
少し振り向いたNPCはフードを目深に被り、声から男だということは分かるが、それ以外何も分からない。
NPCは軽い身のこなしで跳躍し、絶不鳥まで易々と辿り着く。
『全く…………こんな所に迷い込みやがって!探すの苦労したんだぞ?』
そう言いながらNPCは絶不鳥の頭上に乗り、頭を撫でている。
状況が掴めず立ち竦んでいると、先程まで暴れ回っていた絶不鳥が嘘のように大人しくなって地面に降り立ち、NPCも俺のもとに跳躍してやってくる。
『アイツ相手によく持ち堪えたな!アイツは本来、絶好鳥って名前でさ、____』
どうやらこのユニークモンスター、元々は絶好鳥という名のモンスターで、かなり温厚な性格らしいのだが、ふとしたきっかけでやたら臆病になり、名前が絶不鳥に変わると近寄る者全てに攻撃を仕掛けるらしい。
「それは分かったけど、その鳥はお前のか?」
『いや、少し前にちょっと仲良くなっただけの関係だ。でも調子が悪くなって急に姿を消したから探してたんだ』
「なるほど……」
このNPCはタイミング良く現れたお助けキャラって感じか……しかし、それでもこのNPCの名前が????なのが気になる。
『ほら、いい加減機嫌直せよ……後で毛繕いしてやるからさ!…………ってことで俺達はもう行くよ』
「んっ?あぁ、分かった!助けてくれてありがとう。アンタ、名前は?」
『っ!?…………へへへ、名乗る程の者じゃないよ。代わりにお前にいい事教えてやるよ!この湖を北方向に進むと湿原があって、さらに進むと小さな村がある。その周辺に面白い奴がいるから、会いに行ってみろよ』
「……分かった!ありがとう」
その後、NPCは絶不鳥の頭に乗り、絶不鳥と共に飛び立って行った。
「ふぅ…………もしかしてクエスト中に別のクエスト発生したのかな……」
ただのお使いクエストにしては難易度が高すぎる。しかも出てきたのはイベントモンスターではなく、ユニークモンスターだ。
「とりあえず、アイテム採取するか」
陸地に1輪だけ咲いていた花から【月華の雫】を無事入手出来た。
「まだ夜までは随分時間もあるし、このまま湿原の先にある村に行ってみるか!」
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